惑星謳歌
序節
 明けても尚暗い、北の空。
 南の地平線近くを巡る青み掛かった二つの光と対照的に、薄暗い天には不気味な暗褐色の天体が浮ぶ。
 年中に弱い陽射しか差し込まぬ、北方大陸は北部辺境の街『メナス』。
 星々の瞬く暗黒の世界より見遣れば、青く澄み渡る惑星ティーリアの空も、極点近く陽光弱々しいこの街からは仄暗い。見上げる人々の面持ちにも、色濃くはないにせよ拭えぬ影が差し、この地の暮らしが決して楽なものではないと示している。
 質素で凡庸な街並に、ちらほらと降り掛かる白の洗礼。
 それは段々と勢いを増し、やがて吹き荒ぶ雪の嵐となる。
 だが、街並だけは、その白の中にあっても変わらず。先祖代々、この地に住まい続ける者達が習い伝えてきた魔術が、街とそこに住む人々を静かに護っていた。
 薙ぐような吹雪は長くは続かず。ほんの数刻、零下の風を運ぶだけで過ぎ去っていった。
 今日は短かったな。そんな感想を抱きながら、田畑の世話をしていた住人の一人が、見えぬ膜に包まれた街の外を見遣る。
 寒さに負けて荒涼とした光景の中、黒々と沈む――森。
 獣を追う狩人が、時には実りを求め街人が足を踏み入れる事もある、メナスの者達には馴染みの深い森。
 だが、それを見遣る住人の顔が浮かないのは――

 ――北とはうって変わり。
 燦々と、陽光の注ぐ南方大陸大砂漠。
 陸上最大の物流拠点・砂漠商都シェハーダタ……から、遠く離れた砂漠辺境。崖の如く切り立った台地状の山と、山が蓄えもたらした水を頼りに暮らす、辺境の民。
 かんかんと照る日差しを避け、水場のほとりに石組みされた避暑地に集う人々。施された術によって天井から吹き出す冷気が、砂漠の熱気と混じり合い霧のカーテンを拵える。
 ……俄に、明々とした日の下を、息を切らせて抜け駆け込む人影。
 跳ねる呼吸はそのまま、額の汗だけを拭い告げられた一言に、そこに集っていた人々の表情が、嘆息と共に暗く沈む。
 また、やられた。
 ……砂漠辺境と、砂漠中央に位置する商都。騎乗用、牽引用、はたまた、キャラバンの最中に乳を供してくれたりと、砂漠を繋ぐ物流に欠かせない飼育動物達。
 それらは、砂漠辺境にとって重要な財産。その動物達が襲われるという事例が、この暫くに多発していた。
 長距離の移動が常となる大砂漠に措いて、動物の被害は軽視できない。牽引や騎乗用の動物であれば、即ち輸送手段そのものを奪われると同義。損失は直接被害を受けた動物だけで済まず、共に旅をする人間も、ともすれば積荷までもが失われてしまう事になるのだ。
 涼を取る為の石の家屋に、重く冷めた溜息が満ちていく。

 惑星ティーリアの日常に潜む、最大の脅威――『魔物』。
 圧倒的戦力たる侵略者の襲来に、大都市では見過ごされがちにはなれど、その脅威は消失したわけではない。
 恐らくは古来、人々が魔術を得た頃から存在し続ける、最も身近で、最も畏怖する敵。
 強さにこそ差はあれど、魔物の存在は珍しい事ものではない。惑星ティーリアの人々は、その危険性と遭遇に備え、対処のすべを身に着けるよう教えられて育つ。辺境であれば、尚更に。
 惑星全体を巻き込む侵略者との戦いの影で。
 日々の生活の糧を得る為の、そして、命脅かす魔物との確かな戦いが、今日も始まる。


文末
次回行動指針
 W1.魔物は消毒だァー!
 W2.俺が、俺達が一般人だ!
 W3.こんな所に居られるか。俺は家に帰らせて貰う!
登場しなくてもその辺に居そうなNPC
 ミシトラ/彩灯みちる(さいとう-)
マスターコメント
 よくきたな!
 本シナリオの舞台は地上。中でも、辺境地区やら、大都市内郊外や衛星都市など、市井の民を取り巻く環境を中心に展開する予定です。他シナリオに比べて、剣と魔法の世界らしい雰囲気が色濃くなりそうです。
 無論、行動次第では、最初の予定は何処へやら、などといった流れもありえますが、それはそれで一興でありましょう。

 地味ながらも意外と厳しい、かも知れない惑星の日常。
 宜しければ、お付き合いどうぞ。