天地邂逅 |
序節 |
二つの太陽は地平線の下へと消えつつあった。 西から迫る夜の帳と共に、天には星々の光が灯り、その僅かな瞬きが地表を優しく包み込む。 この惑星から見れば、毎夜変わらぬ穏やかな夜の景色。 だが、今宵ばかりは。 暮れなずむ西の外れからは延々と黒煙が立ち上り、またこの時刻であればとうに明りを灯しているはずの東の塔は、未だに黒々と沈黙したまま。 何よりも。空を見上げた眼に映る、瞳のように瞬く巨大な宝珠。 それ自体が光を発しているのだろう、漆黒に染まりつつある天の中にあって、煌々と輝く様はやけにくっきりと人々の心に焼きついた。 夜は次第に更けてゆくというのに。 人々の眼は、真昼のように冴えて掻き開かれたままだった。 夢ではないのか。 誰ともない呟きに、答えは返らない。 だが、崩れ去った街並みも、空に浮かぶものも、幻ではない。 不意に、宝珠が一際強い光を放つ。かと思えば、雲間から差す陽光のように帯となって地上に降り注ぎ、その明りの中に浮かび上がる――人影。 沈黙が崩れ、どよめきが人々の間を埋め尽くす中、見慣れぬ格好をした何者かは地上の人々に向かい話し始める。驚くことに、それはそれは流暢な、この惑星の言葉で。 訛りの一つもない共通語に、人々はまた度肝を抜かれた。共通語といえども、完璧な発音は余程に高尚な要人でもない限り話せはしない。それだけに、何者かの語る話に、人々は自然と耳を傾けた。 彼らはまず、地上を騒がせた事を詫び、それから―― 来訪者は語る。 天より高い、あの星々が瞬く暗黒を放浪していること。 元の勢力から離反したばかりに、追っ手が掛けられていること。 追っ手は星の住人を根絶やしにし、星を乗っ取ろうとしていること。 この星の場所が知れてしまった今、自分達がこの星を離れても、新たな侵略者が差し向けられるであろうということ…… それらの話は、俄には信じがたいものであったが、現に街は破壊され、今のこの状況がある。 市井の民では、判断をするに足りぬ。程なく、騒ぎを聞きつけた近隣の街の騎士団に招致され、来訪者らと著名な都市の要人らとの間に会談の場が設けられた。 そして、それを容易く成し遂げる、『魔術』という名の文明に、今度は来訪者達が驚く番でもあった。 一晩を掛けての会談。その間も人々の眼は依然冴え渡り、夜通しに街中の明りが消えることはなく。 その日は有史以来初めての、長い長い、夜となった。 翌朝、二つの太陽が地平線から昇りきる頃に。 会談を終えた要人らは、来訪者達の滞在を受け入れる方針を民へと伝えた。 滞在の理由は今後襲来するであろう刺客からの地上の防衛と、既に破壊された街などの再建の手助けであるとされ、来訪者達の滞在場所についても、魔都スフィラストゥールより徒歩一日ほどの未開地であり、居住の為の準備は本日より行われるという旨が各地へともたらされた。 長い夜を経て、慌しく動き出す地上。 交わり始めた思惑の中で、地上の人々は、来訪者はどのように振舞うのか。 惑星ティーリアの歴史が、激変の時を迎えようとしていた。 |