集散 |
第一節 |
惑星ティーリアが史上初めて、機動生命体の来訪と襲撃を受けてから、早数ヶ月。 唐突にもたらされた、『侵略者』――敵となる、母星勢力に属す機動生命体襲来の報。 ……否、より正確には、襲来の予兆を感知したとの知らせ。 (たいへんなんだよ) あたたかい日が終わって、たたかいの日がやってくる。半ば日課状態でもあったおにもつ運びの最中、襲来を報せる精神感応を受け取って、オリーブグリーンのすごくまるい機体――大長老(だいちょうろう)の中を巡る想い。 ティーリアの子たちが安心して暮らせるように、なにができるかなあ……おおらかな大長老の中でそれはもうおおいそぎで行われる思考演算。三つ並んだ深緑のコアが逡巡を示すように、幾度も煌く。 都市の重要機能が、時には、街そのものが、ある日唐突に破壊される……かつて経験した始めての襲撃から、数ヶ月。実際にあの時の光景を目の当たりにした地上人にとっては、まだ数ヶ月。俄に当時を思い出し、慌てふためく住人も少なくはない――のだろう。 ……どうにも確信に乏しいのは、今、利根川 るり(とねがわ るり)がいるこの街が、都市部から離れていること、そして、来訪者らの為に作られた『滞在地』であり、侵略者に対抗するための人員と物資がもっとも集まり易い場所……惑星ティーリアに措いて最も特殊な環境を有する街だからだ。 襲撃の報せがあって程なく。 各都市――特に、世界に名を知られる六つの主要都市と、それらに本部を置く有名機関――への緊急連絡を終えた『機動魔閃護撃士団』は、地上に残っている人員を集めて、敵本隊襲撃前の対策会議を開くこととなった。 とはいえ、滞在地に残っている全員で、という訳にも行かず。会議報告待ちの団員と所員の一部や、滞在地に居を置く市民勢、物資輸送にやってきて一服していた行商人らは、滞在地唯一の食堂兼酒場に集まって、あれやこれやと意見を戦わせていた。 いつに無く白熱する会話。何か結論を出すためでもなく、取り止めなく終わりも無い、予想と希望の披露合戦。しかしながら、この騒がしさは、座禅を組んでいる最中のるりには丁度良かった。 気になる話題に、気になる会話。 さりとて、それに心揺れぬよう努め、規則的に繰り返す深呼吸。 閉じた瞼に隠れる、ぱっちりとした紫の瞳。今は暗がりだけが見える視界の中、ナハリ武術館門下生として教わってきた精神統一の鍛錬を心中で復唱し、集中力を高め…… ……時折、思い出したように沸いてくる、美味しいおにぎりの作り方。 (今晩の研究所への差し入れおにぎりの具は何にし……はっ。いけない) そんな、夕食の献立に悩む料理人宜しく過ぎる雑念を振り払いつつ、るりは黙々と座禅を組み続ける。 ……尚、当人が好きな具は明太子マヨネーズらしい。 そうして、邪念と瞑想の狭間でるりが一人戦っている一方。 滞在地の東側、機動生命体の停泊地として使われている荒野部に、大長老すらもが若干小さく見えてしまう程の巨躯が、鎮座していた。 陽光を眩く弾く白銀の装甲。全体的にスレンダーな輪郭の中にあって、機体後半部から広がる二つのウイングは、特徴的な機影を作り出す。その造形は、異星人が使用する『航空機』を彷彿とさせる。他にも、機体上部に甲板状の部位を持つなど、機動生命体としては至極珍しい形状をした戦艦――ディアナ・ルーレティアだ。 会議開催の報を聞き、考え事をしながら戻ってきた大長老。荒野部に向けて高度を落とす深緑の三つのコアに、西方大陸山脈と、麓にこぢんまりと纏まった街並と……何か緊張でもしているのか、何故か妙にそわそわふらふらした様子の、ディアナの姿が映り込む。 ……全長700mもある巨躯がふらふらすると、それだけで結構な風が起きるもの。地面擦れ擦れに停泊中のディアナ周囲は、撒き上がった砂煙で薄っすらと濁り始めていた。 『お帰りなさいませ!』 兎角、大長老を見つけたディアナは、甲板部に鎮座する蒼緑色(エメラルドグリーン)のコア二つをそれはもうきらきら。機体前方先端に据えられた女神を模した半透明の像までもが、彼女の心境を表すかのように、陽光を浴びて蒼い光を蓄えている。 ――恐らくは史上初、人類の手によって生み出された機動生命体『くり』。その愛らしい振る舞いを見てからというもの、ディアナの心は掌サイズのちっちゃな同胞にぞっこんだった。初めてくりを見た際の、彼女の取り乱した様子――全長700mでの身悶え大回転による二次被害――は、目撃者の間での語り草である。尚、主な被害内容は、洗濯物大乱舞・積載資材崩壊・牽引動物大パニックの三本である。 そして、くりに『意識』を伝播した、いわば片親ともいえる大長老にディアナの興味が向かうのも、自然な思考の流れだったといえよう。 そんな訳で始めの頃は、お近づきになりたい余りなディアナの興奮も相俟って、のんびりな大長老はおぼふ連打で話を聴く一方になったりもしたものだ。だが、そんな大長老のおおらかな所が、くりと重なって見えたのか、 『このおおらかさがくりさんの愛らしさを育んだのですね!』 と、感動すら覚えている様子だった。 それもそのはず、くりとの遭遇で新たに、かつ、密かに心に生まれた『目標』を思えば、くりの可愛らしさの秘訣、その一端を垣間見ることが出来たのは、ディアナにとって本当に感激に値する出来事だったのだ。 とまれ、始めの頃はそんな具合で、興奮冷め遣らぬとばかり、少々ペースが合わない事もあったが、ディアナは元来は大人しい性質の持ち主である。たまにこうして、憧れの先輩に廊下で出会った新入生のようにそわそわした仕草を見せたり、世話焼きが高じて当時のような遣り取りに発展することも無くは無いが……少なくとも、落ち着いて話が出来るくらいの余裕は取り戻している。 『ただいまなんだよ』 お迎え有難うの念も込めてそう返しながら、ちょっぴり砂煙舞う大地へと着地する大長老。 『いい人見つかったのかな?』 『今、担当の方が探してくださっています』 此処で言う『いい人』とは、パートナーのことである。 極力、戦うことは避けたいディアナ。しかしながら、平和主義者は平和主義者なりに、迎撃や地上を守る方法を考えてもいた。 色々と、思い付くことはある。だが、自分だけで――戦う為に作られたこの大きな体躯一つきりで出来ることは、余り多くない。 その為にも、新しいパートナーを。思い、『機動魔閃護撃士団』に仲介を頼む事にしたのは……侵略者襲来の凶報を知ってから間もなく。つい、小一時間前の事―― ……侵略者があれだけ派手なことをやらかした手前、『反来訪者』を目的とした抗議行動の一つ二つは、起きて当然と覚悟をしたものだが。 惑星を代表するといって過言ではない六大都市の速やかな来訪者受け入れ宣言、その後の復旧活動と惑星文化への多大な技術的恩恵、協力的な地上人の精力的活動の甲斐あってか、少なくとも、表立って――行きつけの酒場やら飯屋で、皆して来訪者の愚痴で盛り上がるといった、勢い任せの叛意なら兎も角――大きな抗議が起きたという話は、現在までの所耳にしていない。 ……日常的に生命を脅かす『魔物』という敵性存在のせいで、襲われること自体にある程度の耐性があるからなのか。 魔術文明における妙な常識、『こういう術が掛かってればこうなって当然』……原因と結果の因果関係を深く考える習慣が余りない為に、『そういうものなんだな』とでも思われているのか。 やはり、何か、違和感というのか、解せない部分を微妙に感じはするものの。 それが『来訪者』たる機動生命体と異星人に対して有益に働いて居る分には、放っておいて構わないだろう……個人的に気になる、程度のものにわざわざ突っ込みを入れて問題提起するのは、藪を突いて蛇を出すようなものだ。 何しろ、襲撃への備えなど、考慮するべき事柄は多い。 故に、使える物は最大限活用するべし。 特に……気付いたら何故かそういう事になってしまっていた、『魔鋼研究所所長』だの『機動魔閃護撃士団最高責任者』だのといった仰々しい肩書きは、シャルロルテ=カリスト=アルヴァトロスにとって利用するにはうってつけであった。 半ば一方的に流れで得た物とはいえ、自ら利用すれば認めた事になってしまうが、そこはそれ。いずれこれらの肩書きを所望する者が現れれば、その時にはさっさと譲ってやればいい。代わりに自分は名誉会長か特別顧問あたりの役職をでっち上げてそこに納まれば、活動に支障は出ないだろう。案外、悪くはなさそうだ。なさそうだが、今の所その構想が実現する目処もなさそうである。 もっとも、パートナー仲介や、物資関係の管理に関しては既に、所長権限に措いて『専任』を任命して押し付けて、もとい、任せてある為、然程立場は変わらないような気も、したりしなかったり。 (そういえば、あいつがパートナー欲しいって言って来た時だったね) 不意に脳裏に浮んで来る、小一時間前の出来事―― ――慌しく会議準備に奔走していた本部内。会議資料として自分用にタブレット端末に用意したデータに再度目を通しつつ、シャルロルテは整った眉を微かに顰める。 ……やることが多い。 敵性勢力への対抗手段が急務となる今、責任者だからといって、護撃士団や研究所に与するあらゆる案件に関わっていたのでは効率が悪い。身も持たない。 かくしてシャルロルテは、団員と所員を若干名呼びつけて、有無を言わさず。 「君、今から仲介責任者。君は物資管理担当。宜しく」 折れそうに華奢で、高貴ささえ漂う210cmの長身。 美術館に飾られていてもおかしくは無い程の整った容貌は、その高みから見下ろすように、意図を無言のまま告げていた。『所長自らがする仕事じゃないだろ』、と…… 担当者は、答えるしかなかった。 『はい』か『イエス』で。 ……くりを介して、パートナーを所望する大人しく女性的な雰囲気の声が聞こえて来たのは、その時。 ディアナからだった。 「できれば、平和主義な方をお願いしたいですが、どなたでもかまいません」 『機動魔閃護撃士団』の理念が対侵略者組織ということもあり、所属している者のほぼ全てが、有事の際には積極的に戦場へ出る事を希望している。その辺りのことはディアナとしても承知の上。故に、平和主義者という希望は、彼女の言葉通り『できれば』程度の緩いものだ。 だが。 希望を聞いた団員と所員は全員一致で、次の瞬間に所長の口から飛び出る言葉を、一言一句違わず脳裏に過ぎらせていた。 「バカじゃないの?」 大当たり! ……と言わんばかりの表情をしている所員一同には目もくれず。 「ほら、初仕事だよ。しっかりやるんだね」 任命したてほやほやの担当者に言い捨てると、自身は会議に向けての詰めの資料集め。 ……シャルロルテ個人としては、平和主義の戦艦などと言う、一見矛盾した存在自体には興味が無くもないのだが。何分、時間的猶予があるとは言えない。まぁ、直接手は掛けないが、観察だけはしておこう―― ――斯様な逡巡を、銀の双眸が幾度か瞬く間に、短く繰り返して後。 シャルロルテは今まさに眼前で行われている『対策会議』へと、意識を戻した。 来訪者滞在地に幾つかある宿舎の一つ、機動魔閃護撃士団の『本部』でもある、建物一階部分。間仕切りのない室内には、横長の空間に合わせて凹字に長机が配置され、外周を囲むように椅子が居並ぶ。 凹字の底面部中央――俗な表現をするならば、いわゆる『お誕生日席』というやつだ――に所長であるシャルロルテが座し、向かって右側面には護撃士団や研究所に籍を置く団員と所員のうち、隊長・班長に当たる立場の者が。左側面には各都市や組織から出向で滞在している騎士や外部職員などが、席に就く。 そして、凹字の上部に当たるシャルロルテの真正面、机の無い壁面には、此処ではない何処か別の部屋と、そこに居る人物の像が、映し出されていた。 (やる気になればできるんじゃないか) 端正な面持ちは変えずに、内心で悪態を吐くシャルロルテ。 ――侵略者襲来の第一報は、滞在地に居る術士らが個人で念話の術を使い、本来の所属団体への伝達を行うことで、各都市や組織へと周知された。 術の行使による時間差も然程は生まれず、伝達速度自体は申し分無かった。だが、やはり段階を踏んでの意思疎通は面倒だ。術士同士であれば兎も角、異星人と地上人が遠隔地で意思疎通をするのに間に術士を挟まねばならぬというのは、くりが出来る前の機動生命体との伝言ゲーム状態とあまり変わらない。 大都市の然るべき場所へ行けば、通信魔器による都市間通信を使っての遣り取りは出来る。しかし、今度はそこへ行く手間が掛かる。 「面倒だね。同じ物一式、用意できないかい?」 そんな所長の鶴の一声に、オルド・カーラ魔術院が動いた。 かくして、機構都市ツァルベルにある魔術院本部から護撃士団本部へ、虎の子の通信魔器一式が院長以下による気合の転移魔術で以って、急遽、届けられることに。流石にただではなかったが。 ちなみに、通信魔器配備の際、魔術院本部への働き掛けに大きく貢献した所員は、おはなし装置製作主任になっていたりする……と、これは余談。 正面画面は六分割されて、各都市代表集団の居る室内がそれぞれ映っている……恐らくは、来訪者訪問直後の都市間会議も、こうやって行われたのだろうと、当時に思いを馳…… 「……じっとしてなよ」 「おぼふ」 隣に用意された席から離れそうになるくりを摘んで引き戻し……もう少し、賢くしたいのだけれどと、今一度に銀の眼差しの裏に過ぎる思考。これはこれで可愛がられているし、口調が変わったりすると残念がる者――大長老とか、ディアナとか――が出そうだし、今後の為にも同じ物を用意しておきたい所だ。暇な時に。 ……そんなくり増産計画が別の形で、かつ、意外に早く来ようとは、この時のシャルロルテは知る由もない。 |
第二節 |
吹き込む風に翻り、緩やかに棚引くマント。 童顔な面持ちに浮ぶ、険しい表情。顰めた赤い眉の間に刻まれた皺が、健康的な小麦色の肌と相俟って、一層濃く見える。 彼こそは、【ロード】の呼び名もすっかり板に付いてきた、『ロードナイツセブン』代表、沙魅仙(しゃみせん)。 そして、何時にも増して真剣な顔つきで佇む彼の真正面に、鎮座する一機の機動生命体――沙魅仙のパートナーたる、工作艦・オペレートアーム。 真剣な表情はそのまま、沙魅仙は対峙するオペじいを黒い瞳できりりと見上げ、告げる。 「じい! もう一勝負だ!」 『宜しい。受けて立ちましょうぞ』 ……些か、妙な遣り取り。 来るべき侵略者との戦いに備えての模擬戦であれば、練習相手となるのは他の機動生命体。沙魅仙の言にオペじいが『受けて立つ』のはおかしな話。 二人の言い草の通りに、沙魅仙とオペじいが対戦するとしても。生身の地上人と機動生命体が戦った所で、勝敗は明らか。 であれば、これほどまでに神妙な顔で、一体何の勝負をしているのか。 その答えは……不意に、マントを翻し颯爽と歩き始めた沙魅仙、その足元に描かれた沢山の図形と、彼が今まさに手にした『さいころ』が示していた。 「次こそは……あの時、『二マス進む』のコマにさえ停まっていれば、逆転だったものを」 『はてさて、それはどうですかな』 「じいこそ、一マスしか進んでおらぬではないか。今度こそはわたしが……はっ……!?」 放り投げたさいころの目は六。数字の大きさに意気揚々、歩を進め六つ先のマスに立ち止まる沙魅仙。だが、改めて見遣った足元に記されていたのは…… 『ふりだしに戻る』。 ……二人は絶賛、双六(すごろく)による真剣勝負の真っ最中であった。 「……何故だ!?」 我が身の窮状に、沙魅仙がその場に崩れ落ちる。 ちなみに、現在使用中の双六は、沙魅仙自身が駒になっている事からも判る通りの特大版。地面に直接描いて作った、オペじいことオペレートアームの力作である。 「私はコウテイペンギン、生まれながらのロード。だが、何不自由なく暮らしてきたわけではない、一敗地にまみれる事さえ覚悟はある」 崩れ落ちた姿勢のまま、拳を握り身を震わせるロード。 「それが、どん底赤貧とは……天は我を見放したのか」 震える声でようやっと絞り出し、いよいよ、泣き崩れたように地面に臥せってしまう沙魅仙。 ……いやに大袈裟で芝居掛かった仕草である所までは良しとして。着衣までもがぼろぼろになって居るのは何故だろうか。 『いけませんな。『襤褸を纏えど心は錦』、ロードを称すからには、何時如何なる時にも相応の風格を備えんと奮起するものですぞ』 そんなオペじいの言葉は、今この場ではパートナーである沙魅仙にしか届かないが……傍らで勝負の行方を見守っていた執事役のカニスチャンが、さも聞こえていたかのように同意の頷きを繰り返しているのを見るに、どうやらオペじいと沙魅仙の双六勝負は沙魅仙の連戦連敗、負ける度にオペじいにたしなめられているようである。 ……一方で。 双六に興じる一団から、少し離れた場所に。 吹き荒ぶ風に煽られ、背景に同化して打ちひしがれる人影があった。 「こ、このアタシが……あんなのに……あんなのに負けてるっていうのぉ……?」 わなわなと身を震わせていた女はやがて、ロードが気を取り直し立ち上がると同時に、膝を付いて崩れた。 ――惑星ティーリア住人の大多数が持つ、因果に執着のない思考形態。だが、そんなティーリアに措いても、少しばかり趣きが異なる……科学文明を基本とする異星人に、ある程度近い思考の持ち主達がいる。 商売人だ。 中でも、代々続く名のある商家や、一代で財を築いたやり手商人などは、思考を異とする傾向が顕著。商家の中には、『考え方』そのものを家訓や秘訣として伝えていたり、そういった考えが自然と身に付くよう我が子を育てることも珍しくない。 失敗と成功の原因を『そういうものか』で片付けていたのでは、利益など出るはずが無い。考えてみれば当たり前に聞こえる話だが……食うに困らない程度であれば、『そういうものか』でも案外不自由なくやって行ける事例も多々あり、利益追求志向の商人はティーリアでは間違いなく少数派なのだった。 それだけに。数々の業績華々しいロードナイツセブン、その【ロード】と呼ばれる頭目ともなれば、とんでもないやり手に違いない。 ……という、由緒正しい商家の娘ミシル・ミーミットの思惑が木っ端微塵に打ち砕かれる羽目になろうとは、誰に予測できようか。 余りの衝撃に項垂れる彼女の耳に、遥か遠方、得意の音魔術で増幅した双六上の遣り取りが聞こえてくる。 「じい! もう一勝負……もう一勝負だ!」 力強く再戦を申し込む沙魅仙の声と、ばさっと翻るマントの音。 対照的に、見事ながっくりポーズで、置物のように背景に紛れているミシル。 明日は、どっちだ! ……斯様な具合に。 敵情視察のつもりで、予想外の大打撃を食う羽目になったミシルであるが。 切っ掛けを作ったのは、シャルロルテであったりする。 彼女が滞在地付近をうろついていると聞いてから、所員には妙な口約束はしないようにとあらかじめ言い含めてはいたものの……交渉事に関しては、同じティーリア住人同士であればミシルの方が一枚も二枚も上手に違いない。単に追い払うだけで諦める相手でもなさそうだし……仮に、有益な何かをもたらして呉れるのなら、それはそれで『使いで』も無くはない。 あのペンギン――言わずもがな、沙魅仙の事だ――と競い合って頑張って貰おうか。そんな思惑を潜ませて、「実績を作れたら交渉してあげる」と、碧京(へきけい)への協力交渉を焚き付けてみたのである。 ……が、ミシルは思惑通り『実績作り』に動き出すような素直な女ではなかった。 何も、真っ向からやりあうだけが策ではない。 此処に来て彼女は、ともすれば最大の商売敵となりうるロードナイツセブンを利用してやろうとあっさり方策転換、実情を探り始めたのである。私情より実利優先、ということであろう。 無論、『所長』の言い草は切っ掛けの一つであり、彼女が方策転換に至る理由は他にもあった。 一つは、ロードナイツセブンが間口を大きく設けており、、そもそも取り入り易かろうということ。活躍目覚しい上、まだまだ伸び代がある若い組織なのも高得点であろう。 そして、もう一つ。組織の長である沙魅仙が、最果ての都・碧京……いや、東方大陸の異国情緒をいたく気に入り、碧京に足しげく通っているらしいとの情報を得たからだ。 シャルロルテの言う『実績』、有望株ロードナイツセブンでの確たる地位、『ロード』からの信頼……交渉窓口を一元管理している碧京と優位な契約を結ぶ事に成功すれば、各種の旨みを一挙に手に入れられると、ミシルはそう踏んだのだ。 故に下地を作るべく、先ずは沙魅仙の人となりを……と、我が目で確認に来た結果が、御覧の有様である。 さりとて、そこは実利優先の現実派。 御し易いはむしろ僥倖と、彼女は沙魅仙への接触の機を窺い始める…… 所は変わり。 対策会議の続く、来訪者滞在地。 仲介担当者からの連絡を、今か今かと待つ巨影。 待ち時間を長く感じてしまうのは、新しいパートナーへの期待の大きさ故か。 (どんな方でしょうか) 最終的には「誰でもいい」と、ディアナは言ったが……実質は中々そうは行かない。 現状、機動魔閃護撃士団に所属し、かつ、パートナーを所望する地上人の多くは、機動生命体の数との釣り合いが取れずに地上待機せざるを得ない、いわばあぶれてしまった者が大多数を占める。相方が出来れば直ぐにでも戦場へ! と考えている者が殆どというわけだ。 しかしながら、幾ら誰でも良かろうと、パートナーになった途端に「今すぐ宇宙へ行こう!」「えっ!?」……なんてちぐはぐなことにならぬよう配慮するのは、担当者の然るべき業務。ディアナとしても地上で出来ることを実現する為の助力として、パートナーが欲しいのが本音であろうし。 兎角、風雲急を告げる現状、その辺りの折り合いが付けられそうな相手は、小数派になってしまう。選定に時間が掛かるのも道理。 ……そんな、短くも長い待ち時間を経て。 紹介されたのは、一人の女騎士。 なんでも、中央大陸西部……聞いた所で全く耳に覚えのないような小都市の警護を担う、ごく小さな騎士団に所属している人であるらしい。騎士団の規模からして余り欠員を出せないらしく、同じ街の騎士団員と半月交代程度で滞在地にやってきては、訓練に参加しているそうである。 現在は任務期間中で、中央大陸西部の街に戻っている。仲介担当者曰く、念話による連絡でパートナー締結の了承が取れたが、相手に来て貰うには時間が掛かり過ぎるため、ディアナが現地へ迎えに行くほうが圧倒的に早いだろう、とのことだった。 勿論、念願を前にしたディアナが、じっとしていられるわけがない。 「判りました、直ぐにお迎えに上がるとお伝え下さいな!」 くりを介し、礼と共に担当者へそう告げ……終える前には既に、巨大な機影は滞在地上空へと高く舞い上がって、スレンダーな機体後部に備えた四機の噴気孔から蒼白色の炎を吐き出し、進路を東に移動を始めていた。 人の足では数日掛かる大陸間移動も、機動生命体ならばどうと言うことはない。 十数分か、数十分か後に相見える新しいパートナーへの期待を胸に、白銀の機体は全速力で中央大陸へと飛立って行った。 かくして、ディアナが滞在地を後にして程なく。 「――それじゃ、そういう方向で」 一通りには、各都市部・組織ごとでの優先事項を取り決め、最初の対策会議は閉会を迎えた。 ……魔鋼を巡る経済事情に関する部分に、未解決の案件を残す事になったのは、残念ではあるのだが。対立意見の妥協点を探し出す時間すら惜しい、というのが現実。 (あいつが上手くやってればいいんだけどね) ごちる内心、脳裏に過ぎるのは、いつの間にか姿を見なくなったミシルの姿―― ……と、会議の終了を待っていたかのように。カップの上のくりから、大長老のやさしい声が聞こえてきた。ちなみに、くりは引き戻されて以降、ティーカップ上に蓋のように鎮座して、じっとしている。相変わらず何が気に入っているのか。 「無敵装甲のおはなし出てたね」 「聴いてたのかい?」 「うん。『かいせき』して、街を護れたらなんかいいよねの話、うちも賛成なんだよ」 ティーリアの子たちの為に自分ができることを。大長老がおおいそぎで弾き出した演算結果は、『無敵装甲をティーリアの子たちの暮らしに応用できないか』『無敵装甲の端切れと交換で魔鋼を手に入れて、くりの強化やお話装置の増産ができないか』――この二つ。 故に、シャルロルテが研究事項の上位に提示した無敵装甲の解析利用は、大長老の演算結果とも合致して、なんかいいよね。 「うちの無敵装甲ちょっとだけおすそわけするから、おすそわけのおすそわけで、くりにつけてあげられないかなあ」 いざとなれば、艦内に匿えばいい……かも知れないが、やはり、ちゃんとしたものをつけてあげたい。それは、くりが誕生した時から、大長老がずっと考えていたことでもある。 同様に、大長老の無敵装甲お裾分けの申し出は、解析を優先順位の第一位と考えるシャルロルテには願ってもない事だ。量にもよるが、一部をくり単体へ付与する程度ならば、装甲提供の対価としても相応ではなかろうか。 細くしなやかな指先を顎先に宛がい、僅かな間思案の様子を見せていたシャルロルテは、やがて。 「悪くないね」 「でも、あんましべりべりされちゃうとおぼふだから、倒したわるいこからちょうだいするとか、できないかな」 「それは上の連中がやるつもりみたいだよ」 敵の捕獲・回収については、現在出撃中のアウィス・イグネアからも試行の意思を確認している。現物の確保は打倒した侵略者からとし、入手までは過去の解析結果に依った研究になると予測されていただけに、それよりも早く実物解析を行えるこの機会を、逃す手はない。 解析によって無敵装甲の構成要素が判れば……地上に居ながらにして、地上にある物を使って、無敵装甲に限りなく近い物質、或いは、無敵装甲そのものを精製・作成できるかも知れない。 「そっかあ。いっぱい用意できたら魔鋼と交換して貰って、『量産型くり』もつくれるんじゃないかって思ったんだよ」 「くりさんが増えるのですか!?」 途端に、ちゃっかり聴いていたらしいディアナが食いつく。前述の通り、本人の姿は既に滞在地にないが……今はどの辺りを飛んでいるのやら。 しかしながら、シャルロルテは整った面持ちの眉根を寄せて、「バカじゃないの?」とぴしゃり。 「くりはくりだけで十分だよ。『量産型』って部分は、やぶさかじゃないけどね」 「くりとおんなじじゃなくても、『おはなし装置』として動けば、それはそれで使えるよね」 むつかしいことは解らない。 でも、『意思の疎通』ができれば、一番ほっとするのではないかと、大長老は思う。 「私も少し考えた事があるんです」 不意に、本部入り口から聞こえる聞き慣れた声。 振り向けばそこには、会議の終了を知って顔を出した、るりの姿があった。 「空の高い位置に留まって、異変を知らせてくれる監視役みたいな小さいのを配備できたらいいんじゃないかと思ったのですが、どうでしょうか?」 「経過監督はするけど、設計の済んでる物は担当に任せるから。細かい事はそいつらに言ってくれるかい?」 「はい、そうしてみます!」 元気よく返しながら、ぺこりと礼儀正しく一礼。差し入れをする時にでも伝えてみよう、顔を上げる合間、るりの脳裏に過ぎるちょっとした予定。 とまれ、それ以上のことには附言せず。 「じゃ、おさ。早速だけどお裾分け貰うよ」 シャルロルテはタブレット端末を手に、座席から立ち上がった。 |
第三節 |
風通りのいい、石組みの壇上。 金色メッシュの入った赤髪と、纏うマントをなびかせて、ロードは今日も声高らかに群集へと呼びかける! 「君の熱き想いで君の手で大切な人を場所を守ろうではないか」 所が変われば人も変わる。 勝手知ったる都市であっても、中心部と郊外ではまた人のありようも様々。 『ロードナイツセブン』や『ロード』の存在は知っていても、本人を一度も見た事が無いという者はまだまだごまんと居る。 加えて、組織知名度の上昇と共に、ロード自らが行う宣伝活動もまた有名となりつつあり、いつしか『ロード演説』と称されるようになっていた沙魅仙の呼びかけが始まると、毎度直ぐに人だかりが出来た。 「その想い、心、志こそ貴い。それこそが『貴志』。そんな君たちの一歩を待っている」 逆手に携えた愛用の銛『鳴海』の底で、地面を叩いて打ち鳴らし。 風向きの変化に体半分を覆うように纏わり付くマントを、片腕で弾いてばさりと翻す。 「共に歩もう志士達よ」 来たれ同志、その足と想いでこちらへ踏み出すのだ――と、腕を差し伸べ相手を促す、演説最後の決めポーズ。同時に、集まった群衆から拍手が起きるのが、勧誘演説の定番となりつつあった。 意気揚々、演説を終えた沙魅仙が壇上を降りてゆく。 最近はオペじいに頼めば、その場にある物だけでマントを風になびかせる事のできる『ちょっと高い場所』をあっという間に作って貰える。お陰で勧誘に使う目立つ場所に事欠かないし、終了後は崩して材料を返せば元通り、自然に優しい即席舞台。 やがて沙魅仙が舞台を降り、止んでいく拍手と、解散し始める群衆。 そんな、減り始めた人垣の中、未だに拍手を続けたまま、俄に歩み寄る浅黒い肌の女が一人。 「感激しちゃったわぁ」 毎回一人二人は演説に感銘を受け、協力を申し出る者がいる。 彼女――ミシルはそれを利用し、群衆の一人を装って自然に接触を図ってきた。 「ロードさんのお話、直接聞いてみたいと思ってたのよぉ。来て良かったわぁ」 会話の端々で抜け目なくロードを讃え、話を聞いていて是非力になりたいと思った……などと、何食わぬ顔で心にも無いことを並べ立て、堂々たる二枚舌で沙魅仙からの心証を上昇させようと試みる。 沙魅仙は背筋を伸ばし実に誇らしげに、再びにマントを翻して、先程演説の最後に見せたあのポーズで告げる。 「ロードナイツは志士の来訪をいつでも待っている。志を共にするならば、貴君を『貴志』として歓迎しよう!」 感激したように、差し伸べられた沙魅仙の手を取るミシル。真っ当に褒められると照れ隠しに怒る沙魅仙が妙に御機嫌なのを見るに、効果は覿面のようである。 だが、執事カニスチャンには、あからさまな警戒の色が浮ぶ。どうやら、相手が絞り屋ミシルだと感付いたらしい。 即座に沙魅仙への耳打で、危険性を訴えるカニスチャン。 ……吹き込まれる数々の悪い噂に、沙魅仙の眉が判り易く跳ねた。 「貴公……まさか良からぬ企てをしているのか!?」 「あらぁ。何を聞いたのかしらぁ」 警戒の色を強める沙魅仙を相手に、悪びれるでもなく、ミシルは今までと同じ調子で返す。 「知ってるわよぉ、ロードさん。もっとおっきなことやろうって考えてるんでしょぉ?」 切磋琢磨も悪くはない。だが、今こそ力を合わせる時! と、一致団結を理念に掲げての呼び掛けは、市民には好意的に迎えられるものの、損得勘定に五月蝿い商人勢からの助力は、やはり芳しいとは言えなかった。碧京での魔鋼獲得交渉が他商人との折衝もあって殊の外に難航したのは、記憶に新しい所だ。 ……そして、彼女はそれこそが、付け入る隙と見た。 「アタシねぇ、商工会なんかには、結構顔が利くのよぉ。『貴志』じゃなくてもいいわぁ。『雇って』みなぁい?」 罠だ! と、更に警戒を強めるカニスチャン。 表向きには、仲間にすればお得ですよと聞こえるが。どんな形態であれ、ロードナイツに関わらせれば、利益はこの女が全部持っていってしまうだろう。そして、『顔が利く』という物言いは、敵に回すと現在抱いている構想が完全に頓挫すると、暗に脅しているに違いなかった。 いかん、詰んでる……内心穏やかではない執事。 だが、沙魅仙はそこまでの深読みはしていなかったらしい。 「悪い噂は気に掛かるが、力にならんとするその志もまた、無碍にはできん……」 なびくマントの動きが止まったことすら忘れ、悩む。 悩んで、やがて。 沙魅仙はうむ、と一人頷いて、手にした鳴海を打ち鳴らし、尊大に告げた。 「貴公が私と共に歩むに相応しいか否か、天に問おうではないか!」 そして、彼は。 着衣の懐から、『さいころ』を取り出した。 「双六で勝負だ!」 『わか。それはフラグというものですぞ』 間髪入れず届く、オペじいからの精神感応。 どうやら、生まれながらのロードは、格が違うようである。 滞在地の東側。広がる荒野部。 刻一刻、時は進む。惑星ティーリアを照らす二つの青み掛かった太陽が、西側に聳える山脈の天辺を目指し、頭上を通り過ぎようとしている。 もうじき午後になろうかというこの時間、いつもであれば午前の訓練から戻ってきた沢山の機動生命体が、午後に備えて東側荒野で休息する姿を見る事ができるのだが。 今日ばかりは。朝に訓練で上空へ向かってそのまま、防衛の為に宇宙に留まっている者が多く、荒野部の様子は普段に比べて随分と味気ない。 大型の敵が現れるにはまだ少し時間がある、と伝え聞いてはいるものの。最初の襲撃情報が出てからはもう数時間。小さな相手との戦いは既に始まっているのだろうか…… そんな、広々としつつも心持ち物足りない景色の中、佇むオリーブグリーンのすごくまるい機影は、言わずもがなの大長老。他の機動生命体――特に、ディアナのような最大級の戦艦など――と一緒に居る時は、中くらいに見えてしまう大長老の機影も、今日はいつにも増してすごくまるくてすごくおおきい。当然、450mの機体が伸び縮みしている訳ではなく、比較対象の有無による錯覚だが、中々不思議なものである。 そんな、大長老の周囲をぐるぐると。えんじ色の髪と、まるいイヤリングを揺らし、走る人影。 巡ること二周分。準備運動代わりの走り込みを終えたるりは、少し緩んだ髪留めを結び直すと、大長老に向かってお辞儀を一つ。 「それではおささん、宜しくお願いします!」 『うん、お手伝いもりもりするからね。いっしょにがんばろうね!』 「はい!」 いつも見せているにこにこした表情で大きな頷きを返し、るりは一呼吸と共に――何も無い東の荒野へ向けて、身構える。 その身体が、俄にひらりと、翻った。 軸足で身を支え、振り上げる利き足。上半身に捻りを加え、鋭く空を薙いだ爪先……を追うように、空中に薄っすらと浮かび上がる、確かな軌跡。そして、軌跡は瞬き一つ程の刹那の間に衝撃派へと変わり、るりが見据えた荒野の先へと押し出され、やがて融けるように消えていく。 間を置かず。るりは振り上げた利き足を地に着ける事無く、今度は爪先でなく足の裏を使って空気を押し出すように、かつ、連続で素早い蹴りを繰り出した。 一つ、また一つ。蹴り出した足が何も無いはずの空気を踏み付ける感覚と共に、息も付かせぬ速度でるりの足裏から弾き出されていくのは……横から見れば半円状、傘のように緩やかな弧を描く、まるい衝撃派! その様子に、大長老の中に不意に広がる『なんかいいよね』。 『まるいこいっぱい出てる! すごいねるりさん!』 「はい、まるくなるように、練習しました」 精神感応を介し伝わってくる『なんかいいよね』に、益々にこにこと表情を綻ばせるるり。 しかし、ここまでは、いつも通り……型や動きは異なれど、閃士であれば誰しもが使うことの出来る、挙動と共に現れる超常現象『特殊効果』。 鍛錬の甲斐もあり、繰り出す形や速度は、ある程度自由に操作できるようになった。 本題はここから。笑顔はそのまま、深呼吸を挟み、るりが気を引き締める。 「今のを、おささんの力を借りて、『必殺技』にしてみます」 『おさもじょうずに出来るように、がんばるからね』 繋がる心に伝う、るりのちょっぴりの緊張。それを気遣うように大長老から返ってくるほんわかとした優しさ。違いなく気持ちが一つになる感覚に意を決し、るりは再び荒野へ足を振り上げた。 「行きますっ」 先程と殆ど同じ挙動で、空へと繰り出される連続蹴り。 だが、今度は。 傍らに停泊する大長老から伸びるサブアームが、るりの蹴りとそっくり同じ動きで、連続で空を叩く! すると、サブアーム先端から、るりのものよりも何十倍もおおきくてすごくまるい、薄いみかん色をした衝撃派の膜が、青い空に広がった。 みかん色――大長老の噴炎と同じ色、即ち、機体が蓄えているエネルギーそのものが発光する際に得る色らしい――の膜は、滞在地を護るかのように暫く空にふわふわと浮んでいたが、次第に力を失い色褪せて、やがて見えなくなった。 その間、数分程。決して長いとは言えない時間だったが。 二人はみかん色が完全に見えなくなるまで、初めての『必殺技』の顛末を見届け、そして。 「やややややりましたー! できましたよおささん!」 上手く行き過ぎて逆に動揺したのか。ちょっぴり挙動不審気味に、飛び上がって喜ぶるり。そこに再び伝わってくる、大長老のなんかいいよね。 『やったね! まるいこばりやー、大成功なんだよ!』 「あとは、緑色になれば完璧ですね」 『練習で緑のまるいこにできたら、なんかいいよね』 その言葉に大きく頷きを返し、にこにこと見上げる大長老のすごくまるい機影。 ……ふと、ぱっちりとした紫の眼に映る、幾つかの欠損。 無敵装甲を『おすそわけ』した名残だ。 無敵装甲の転用については、様々な期待が持たれているが……一番の利用目的は、重要設備強化や、会議で構想として提示された避難シェルター外壁などの、建造物への利用。同じ『防御』でも、個人より都市単位を優先するのは、一般市民の命運を預かる各都市運営部の判断として当然といえよう。 個人装備への転用は大長老本人も、そしてまた、今は遥か南方大陸辺境にて日々の脅威と戦っている職人、ツァイ・ヴァージライも構想として抱く所ではあるが……魔武器職人の匠の業と、その本質すら解き明かすかも知れない天上の民の解析能力。今は知る由もない互いの思惑が交わる日は、果たして訪れるのや否や。 いずれにしても、いつも大長老を近くに感じて居たい、そんな思いもあって、もし出来るなら大長老の装甲で籠手か何か、身につけられる装備を作れたら……そんなるりの希望は、叶うにしてもまだ随分と先の事になりそうだ。 |
第四節 |
そんなこんなで、編み出した必殺技にるりが手応えを感じていた頃。 魔鋼研究所では、無敵装甲の解析に先立って、艦長ことエリーヌ・ゴシュガンクが残して置いた過去結果の検証が行われている所だった。 タブレット端末から、内容が閲覧し易いようにと、空間投影される解析データ――どう見ても謎の文字配列と図形にしか見えないが、天上の民以外にこれは理解できるのだろうか。 「要素は過去解析から推測できんことも無いんだがね」 今は握り拳一個分になっている艶消しのオリーブグリーンを前に、難しい顔でごちる艦長。 その手元が端末を操作し、投影される画面が別のものに切り替わる。 「試行してみんことにはな。推測の域を出ん」 「……試行って、これ……バカじゃないの?」 輪を掛けて険しい表情を浮かべるシャルロルテを始めとして、所員もこぞって見遣る画面の表示。 そこには、棘だか針だかという程に鋭く聳える、棒グラフが映し出されている。 計算で弾き出された、精製に必要な出力だ。 隣に参考用として表示した、戦艦一機が保有する総エネルギー量平均の棒が、棒にすらなっていない。その余りのぺたんこっぷりは、角度によっては汚れと見紛う物悲しさである。 余りの酷さに。 「バカじゃないの?」 もう一回言った。 出力さえ確保できれば、機動生命体が行う物質精製の要領で、精製の可能性が拓けてきそうだが……実際、彼らの母星圏では、エネルギーから物質を作り、機動生命体を生み出しているのだろうし。 だが、その肝心の必要出力が桁違い過ぎる。 母星圏で惑星が丸々一つ機動生命体生産に使われているというのは、ひょっとすると無敵装甲精製の為なのか……などと、脳裏を掠める推測。何にせよ、そんな惑星規模の設備を今から用意する余裕はない。 ならばと、別のアプローチを考え始める、研究者一同。 例えば。本来の製造法である、エネルギーからの直接精製ではなく、既に物質化した何かから合金を精製する要領で、段階を踏んで無敵装甲を生み出すことはできないのか? 恐らく、直接精製よりは、よっぽど実現精度は高いだろう。 ……だが、簡易計算で弾き出された結果に、またも曇る一同の表情。 実現可能と推測される出力で想定するに、設備は小規模で済むが、合成回数が馬鹿のような桁に跳ね上がっていた。しかも、想定出力を基礎にして最終的に出来上がる量が……なんか、せつない。 実証実験ならこれでいいかも知れないが、これでは実用化には時間が掛かり過ぎる。 ただ、最終段階である無敵装甲には至らずとも、中途の段階で精製される合成物に十分な強度が見込めれば、それを防衛用建材として利用するのは有効な手段かも知れない。 「仕方ないね、現物確保は上の連中に頑張って貰おうか」 何処か物憂げな雰囲気を漂わせ、おもむろにシャルロルテが手元の端末に指先を添えると、表示されている画面の端に、つい先刻に見た光景――映像記録しておいた、大長老からの無敵装甲お裾分けシーンが、繰り返しで再生され始めた。 「工作艦だけが変成出来る理由については、何か判るかい?」 「さっぱり判らん。まぁ、こっちは解析した記録がないだけだがね」 精製には馬鹿馬鹿しい量のエネルギーが必要なのに対し、変質は艦種の中で最もエネルギー量の少ない工作艦だけがそれを可能とする。お裾分けシーンを見ても……大長老がすごくまるくておおきい為、工作艦自身の移動やらなにやらで作業開始から終了までの時間はそこそこ掛かったものの、撤去作業における箇所ごとの作業時間は存外に短い。 何にせよ、無敵装甲と合わせて工作艦の特性そのものに対しても、造詣を深める必要があるということか…… しかしながら、変質が可能だというのなら。 無敵装甲を別の物質へ、更に合成なり融合なりさせて、当該の物質を強化することはできないのか。 所長がその一番の候補として見ていたのは、『魔鋼』。 くりの試作段階に於いて、魔鋼が機動生命体のコア化するというのは既に周知。魔鋼とコアは極めて近い性質を持っていることが判明している。コア化の為には、魔鋼に対し『意識』に類する要素を付与する必要があるが――今はさて置き。 もしも、無敵装甲による魔鋼強化が可能ならば、性質の近いコアにも強化を適用することができる。撃たれても壊れない、或いは、非常に耐久度の高いコアを持った機動生命体が誕生するわけだ。 まさに夢の技術。 ……なのだがしかし。 先程から、映し出されている波形が、極端な動きを見せている。 擬似的に再現したコアと、魔鋼、無敵装甲。仮ではあるが、情報だけで出来たそれぞれの性質を、合体させてみたり分離させたりのシミュレーションを繰り返しているのだが。 コアに無敵装甲の要素を付与すると、コアをコアたらしめている『意識』の部分が、消えてしまう。 魔鋼に無敵装甲を合わせてからコア化を試みても、『意識』要素が弾かれてしまう。無理矢理付与した場合は、魔鋼がお釈迦になる始末。 結論。 コアを無敵化すると機動生命体が死ぬ。 「……駄目だな。計算上は」 「駄目だね。計算上は」 これで何度目になるのだか。 まざまざと見せ付けられる結果に、研究所に満ちる溜息。 さりとて、逆に考えれば。敵勢力側にも、コアが無敵の機動生命体は絶対に存在しない、という確証が取れた訳で、この結果にも一定の意味はあったと言えよう。 「これ以上は割に合わなさそうだね。別のを進めるよ」 行き詰まった箇所で悩み続けるのは、猶予に乏しい現状、時間の浪費と言わざるを得ない。 華奢な両肩を揺らして嘆息を溢すと、端末を弄り別の案件を提示するシャルロルテ。 その白い指先が、こつんと目の前の塊を小突いた。 「全く、何が『無敵』だよ、バカじゃないの? 子供が付けるような名前して」 物言わぬ物質に文句を言ってもどうしようもないのだが。 所長のその言い草に、居合わせた所員の何人かは深く頷いていたという。 見上げれば、延々と広がる、ティーリアの青空。 その遥か上空に点在する色とりどりの光は、防衛の為に布陣する、同胞らのコアの輝きだろう。 敵尖兵との交戦は、既に始まっている筈だが……最終防衛線たる惑星上層は、物々しい布陣を除けば、まだ静かなものだ。 とまれ、喜び勇んでの御出迎えで、無事に新しいパートナーとの合流を果たしたディアナは、白銀の機体底面、三つ目に当たるコアにパートナーを乗せ、街から街へのパトロール飛行中。 地図を作りたい――という、ディアナの希望を叶えるべく、蒼緑色のコアの中では、パートナーがせっせと地形を覚書き。そんな彼女が見落としをしないようにと考えてか、ディアナは蒼白色の噴炎をとりわけ細く絞って、ゆっくりと空を進む。 それにしても……何処をどう守ればいいのだろう。 ざっと惑星を一巡りしただけでも、直ぐに目に付く大きな都市が、五つはある。 一番大きく目立っているのが、滞在地と同じ西方大陸にある、魔都スフィラストゥール。山脈を背に広がる扇形の都市圏は、他都市の追随を許さぬ広大さ。衛星都市まで加えた範囲はまさに圧巻の一言に尽きる。 その次に、八角形に配された守護塔と、それが発する八角形の障壁が目を惹く、北東大陸は機構都市ツァルベル。 巨大な南方大陸、上からだと実に殺風景で味気ない大砂漠が大半を占めている手前、そのほぼ中央に堂々と居座っている砂漠商都シェハーダタは、妙に目に付く。周辺に広がる農耕地帯のせいで、オアシス近辺の街並が浮き上がって見えるせいもあるだろう。 中央大陸南部の、始まりの街グリンホーンに至っては、街もさること、港湾に構築された大桟橋とそこに集う数多の船舶が目を惹く。 最後に、同じく中央大陸、山岳都市ダスラン。街並は他都市に比べて華やかさに欠けるが、魔鋼の採掘場である巨大な『穴』がとても目立つ。 侵略者は、文明の破壊と知的生命体の根絶を目標としている。人がより多い、発達した都市を優先して狙おうとするのは道理。然るに、この五つの都市は真っ先に攻撃対象になるだろうと、直ぐに察しが付く。それくらい、空から見た時の存在感が、他の街より抜きん出ていた。 知名度で言えばもう一つ、東方大陸・碧京が六大都市に名を連ねているが……東方大陸全体の建築様式が他都市に比べ独特な為、上空から見ても都市その物が自然に紛れて、余り目立たない。 そして、その独特な文化が、ロードの心を惹き付ける要因であり―― 「うむ、助かったぞ、礼を言う」 『お役に立てて何よりです』 そう、あれはグリンホーンの真上を飛んでいた時だったか。 丁度、東へ向かって航行中のディアナを見つけた沙魅仙が、碧京へ行くのなら運んではくれまいか……と、オペじいを介して打診したのだった。 ディアナは戦艦であるため、輸送艦のような艦内空間は存在しない。しかし、飛行機と船舶を合わせたようなその外観には、機動生命体には珍しい『甲板』状の部位が存在する。航行速度を考えると、生身で人が乗るのは無理と言わざるを得ないが、同じ機動生命体なら話は別である。 かくして、沙魅仙がオペじいに乗り、オペじいがサブアームで甲板部の縁に掴まる、という方法で、ディアナに輸送して貰うことと相成ったのだった。 ……他、沙魅仙に付属して若干二名程も同道する事になったが、ディアナにはコアが三つあったお陰で、何とか誰も留守番せずに済んだ。 尚、甲板部から見える前方、機体先端部にディアナが有する蒼い女神像を見た沙魅仙は。 「あの像の位置、あれこそ、ロードが立つに相応しい場所ではないか……!?」 などと、そこに立ち悠々とマントを棚引かせる己の雄姿に思いを馳せていたが、案の定、オペじいに、絶対吹っ飛ぶから止めておくのが無難だと嗜められた。 ……そんな一幕を経て。 沙魅仙一行を碧京へと届けたディアナは、地図作りを続けるべく、更に東へと進路を取る。 東方大陸を越えての東回り。眼下には青々とした海が広がり、もうじき『奈落の口』を越えようかというところ……はて、海面近くを飛んでいる白い機影は、ジョナサンだろうか。 やがて進行方向たる東の水平線には、西方大陸が薄っすらと見え始め――世界一周地図作りの旅も、もうじき一区切り。 『それにしても……困りました』 戦艦として生まれ持った、巨大な体躯。それを活かし、街の盾になって上空で戦おうか……戦術の一つとしてそんな構想を抱いていたディアナは、甲板部の座した二つのコアに上空の様子を、機体底面のコアに地上の様子を映しながら、悩ましげに呟く。 幾ら戦艦が巨大といえど、我が身一つで全部の街の盾になるのは、流石に至難といえよう。 それでも、他の都市が一度に全部見渡せるなら、せめて砲撃で応戦か牽制くらいはできるだろうが…… 惑星は、丸いのだ。 グリンホーン上空からなら、ダスランと……宇宙近くまで上がれば、辛うじてシェハーダタとツァルベルくらいは見えるかも知れないが。 シェハーダタからはグリンホーンしか見えないし。 スフィラストゥールに至っては、他の都市は全部見えない。 何処か一箇所を護れば、他の都市はほぼがら空きになってしまう。敵の位置が把握できない限りは、攻撃のしようがない。もっとも、複数の機体で臨むのであれば、その限りではないが……大半の戦闘向きの機動生命体は上空で防衛線を張っている。現状で使えるのは我が身一つ、と言って過言ではないだろう。盾になることを考えるのならば、敵の動きを先読みする等、何かもう一工夫考える必要があるかも知れない。 それならばと、ディアナは再び思案を巡らせる。 もう一つの考え……誰も居ない広い土地に陣取って、全て討ち取ってしまうのはどうだろう。 『候補は、色々ありますね』 ごちながら、作りたての地図をパートナーと一緒に確認。大都市周囲には、交易の利便からか、小都市や街、村が点在している。全く何も無いところは…… 西方大陸は西側沿岸、魔物だけが住む魔境、『魔の領域』。同大陸、草原地帯を除いた東部荒野の一部も、候補にできそうだ。 中央大陸と北東大陸が交わって造り出された、惑星最高峰の山岳地帯。 同じく中央大陸、西部の山岳に口を開ける灼熱の裂け目、『炎の谷』。 南方大陸、だだっ広さに定評がある、大砂漠各所。 そして、海――船舶では越えることの出来ない海峡、『奈落の口』とその周辺。 ……だが。 『陣取る』に相応しい場所は見つかれど、その構想にもまた欠点があった。 先述の通り、『侵略者』は文明の破壊と知的生命体の根絶を目標とし、人がより多い発達した都市を優先して狙おうとする。 それはつまり……文明の気配がない荒野や海に、わざわざ訪れようとはしない。ただ待っているだけでは、来てくれないのだ。 『どうすればいいのでしょう』 益々困った様子で、呟くディアナ。噴気孔から吐き出される蒼白色の噴炎も、心なしか元気がないように見える。そんな彼女へと、コアの中から届くパートナーの励まし。 『そうですね、一緒に考えれば、きっといい方法が見つかりますよね!』 励ましに気を取り直し、再度、惑星上空を回遊し始める白銀の機影。 盾に成るにも、待ち構えるにも、もう一工夫……少し街や地形をもっと詳しく見れば、妙案が浮んで来るかもしれない。 パートナーと一緒に頭を悩ませながら、ディアナは二度目の世界一周へと、再びティーリアの空を舞う。 |
第五節 |
……かくして、ディアナが世界二週目を始めた頃。 麗しの碧京へと辿り着いた沙魅仙は、幾度目にしても飽きぬ東方大陸特有の異国情緒を、存分に堪能していた。 大陸西側の港にオペじいを待たせ、自身はその足で、街から街へ。 自然との調和重んじる、東方大陸の文化。その安らぎと安らぎと癒しに溢れる風土は、沙魅仙の心を何処までも穏やかにしてくれる。 「と共に此処の文化にわたしはココロオドル。興奮も冷め遣らぬ」 街道すらも整地は最小限。山越えの最中、木陰に溶け込むようにある休憩処――宿泊も出来るという茶屋で寛ぎながら、その外装や内装をくまなく眺め見ては、感嘆の息を溢す。 「この洗練された意匠はどうだ。悔しいが今までの私は浅かったと言わざるをえぬ」 終いには、出される茶菓子の形状にまで感動しまくる始末。 とはいえ、実際のところ東方大陸自体が大陸文化をあえて売りにしている面もあり、食事処や宿泊処では、外来向けの凝った作りの家具や食器で客をもてなす事が多かった。 外来の多い碧京近郊は特に、そういった『文化推し』の傾向が強めに見られるが……首都から離れ地方へ向かえば、実生活に溶け込んだ、より素朴でより色濃い、ありのまま飾らない東方大陸文化を堪能することが出来た。 雨に流れた山肌、剥き出しになった岩のくぼみを利用して作られた素朴な休憩処最上階、三階席の窓際から景色を眺めれば、目に飛び込むのは青々と茂る立派な木々。漂う大自然の香りに、沙魅仙は思わず身を震わせる。 「これぞ、ロードに相応しい」 「……ホント、なんでこんなのでやってけるのかしらぁ」 半眼で嘆息を吐きつつ、お気に入りの陶器を手にご満悦の沙魅仙を見遣るミシル。 此処へ来る途中、「素晴らしい!」と止め処なく溢れる感動の赴くまま、迷わず吸い込まれるように立ち寄った店で、沙魅仙はその煙を吐く入れ物――『香炉』に一目惚れしてしまった。 まるくぽってりとした流線型のシルエット、香を入れる為に開けられた縦長の穴、滑り止めも兼ねて側面に付けられた小さな出っ張り、底面に付けられた短い足……何処かしらペンギンを彷彿とするその造形が、沙魅仙の美的感覚にびびっと電撃を走らせたようである。 ……などと、双六に興じていたり、異国情緒に感動する余りリラックスモード全開だったりと、一見心配になっても来る所だが……このロード、目の付け所と行動力は悪くない。善意と熱意を主体に推し進めようとするのは、生粋の商人からすれば詰めが甘いと思わざるを得ないが……だからこそ、彼の元に人が集まっているのだと考えれば、そこは美徳と考えるべきであろう。 なお、ロードナイツセブンの存亡、もとい、ミシルの入隊を賭けた双六勝負は、オペじいの読みどおり乱立したフラグを華麗に回収する結果となった。だが、オペじいとカニスチャンの善戦もあって、彼女の『取り分』は思ったよりは少なく済んだようである。 『何にせよ、見事に鴨にされたと言わざるを得ませぬぞ』 「カモではない、コウテイペンギンだ」 ……なんて遣り取りがあったというが、真相は当人のみぞ知る。 一方。多忙を極める魔鋼研究所。 お裾分けの対価に目出度くオリーブグリーンの無敵装甲を装着したくりに、大長老はハイパーなんかいいよね。少なくとも対衝撃性能はばっちりだ! そんなリニューアル・くりを傍らに、研究所の一室では『量産型くり』の製作が大詰めを迎えていた。 量産型ということでくりとは色を変え、黒いとげとげ姿の…… 「くりと見分けがつくように、『うに』とかがいいと思うんだよ」 「……名前は何でも構わないけどさ」 「うに。りょうさん。くり。せんぱい」 「君は自分で喋れるだろ。バカじゃないの?」 組み上がったばかりの量産型から、テストも兼ねて聞こえてきた大長老の声……を真似して、自分で喋らずわざわざうにを介して発声するくりに、呆れた視線を投げるシャルロルテ。まぁでも、今のでうにくり間通信も問題ないと判ったのだから良しとしておこう。 それにしても……『おはなし装置』については、設計図通りのものを巨大化して機動生命体の外装に装置出来るものにするか、少し設計を変えてコア内部取り込み型への改良を行うか……等々と構想はしていたのだが、当人らへの適用よりも、量産による自律型おはなし装置増産の目処が先に実現範囲に入るとは。 ――件の対策会議において、侵略者による直接攻撃もだが、撃墜などで落下した機動生命体による二次被害の懸念も焦点となった。丸ごと落ちてくるのは無論、海に落ちれば津波が起きるだろうし、墜落の衝撃で機体が粉微塵になる大爆発を起こされようものなら、余波だけでもかなりの威力となりうる。 この『うに』が各地に配備されれば、精神感応による時間差のない襲撃速報、墜落地点予測なども実現の目処が立つ。住人の避難シェルターへの誘導など、被害軽減への迅速な対応も可能になるはずだ。更には、るりが言った『監視用』を上空に配備できれば、一層に索敵精度を増し、都市単位での速報など、効率のよい防衛態勢が取れるようになるだろう。 念話魔術の能力次第で通信距離が変わるために、大都市ですら十分な通信の出来る施設が限られている現状、強固な通信体制の確立は繋がるのは、大きな成果と言って過言でない。 ……ところでそういえば。 そのるりはどうしたのだろう。 作業を続けている研究員を気遣って、ついさっきまで、食事の準備や仮眠用毛布の配達など、甲斐甲斐しく世話を焼いていたような気がするのだが。 「おにぎるの研究しすぎて、倒れちゃったんだよ」 「……は? おにぎりで? バカじゃないの?」 しかも、倒れた原因は『空腹』。作り過ぎによる疲労ではなく、製作に没頭して自分の食事を忘れたかららしい。それを聞いたシャルロルテがもう一回「バカじゃないの?」を発したのは言うまでも無い。 ちなみに、大長老が『おにぎり』を『おにぎる』と表現するのは、間違えて憶えているからでなく、「かわいくてなんかいいよね」という薄っすらとした感情に基づいてのものである。 で、あるからして。 「おにぎり。おにぎる。……おにぎる!」 「なんでそこを訂正するんだよ。逆だろ。バカじゃないの」 やっぱり気に入ってしまったくりに、即行で反応せざるを得ない所長であった…… 「で、さっきの話なんだけどぉ」 不意に掛けられた言葉に、夢見心地に意識を自然と一体化させていた沙魅仙が、我に帰って咳払いを一つ。 「き、聞いていたぞ。ちゃんと。うむ、続けてくれ」 そんな彼らが話しているのは、沙魅仙が打ち出した『ワールドマーケット』の構想について。 目指すのは各地の特産品を売買するバザー。フリースタイルの個人売買によって、交流を促し、掘り出し物の発掘に繋げ、都市物流の過不足調査と供給に活かそう、という試みである。 「これねぇ……そぉねぇ、アタシだったらぁ、全然関係ないとこでの開催を考えるわぁ」 「ほう、というと?」 「誰だって『自分の庭』で好き勝手されるのは、嫌なのよぉ。碧京なんか特に、でしょぉ?」 ミシルの言に、むむ、と腕を組み、少年のような童顔な面持ちで精一杯、眉間に皺を寄せて唸る沙魅仙。その脳裏には、魔鋼入手の交渉で四苦八苦、そして、その危機を何とか乗り越えた経験が喚び起こされる。 だが、だからこそ。独特な流通形態、商人らとの水面下での衝突……それらの経験があってこそ、沙魅仙としてはフリースタイルバザーの着想を得、ワールドマーケットを実現したいと想いを抱く切っ掛けとなった、ともいえる。 「無名の団体がバザーやるなんて言ったってぇ、碌に手伝いも参加もいないでしょうけどぉ。『ロードナイツセブン』っておっきな看板掲げて、新しい土地でバザー開けばぁ、新しい名所の誕生ってわけよぉ」 商人らと利益競争――切磋琢磨と称すれば、一概に悪い物でもないのだが――がしたいわけではなく、彼らの利害を出来うる限り考慮して慎重に折衝し、『協力』を取り付ける形で、バザーの『許可』を得たい……と考えていただけに、協力どころか新興勢力として対立しかねないミシルのこの提案には、難しい顔をせざるを得ない。 「商人の一人たる貴公が報酬の増加を望むのは判らぬでもないが……」 「別の形で協力させればいいのよぉ。バザー出品者の募集とかぁ、開催の宣伝とかぁ、誘致協力もねぇ。一番問題なのは『足』の確保なんだけどぉ……」 独自開催での、最大のデメリット。 それは、交通の便だと、彼女は言う。 しがらみの無い土地であるということは、裏を返せば元々人が余り集まらない・立ち寄らない場所ともいえる。地形のせいでそもそも人の往来が困難であるとか、居住するに旨みが無さ過ぎて近場の条件のいい土地に人が集まってしまったとか、理由は場所により様々ではあるが。 「理想を言えばぁ、輸送路確保もぜーんぶ独自でやっちゃいたいのよねぇ。どんなに無関係な土地選んでも、陸路と海路だと近い街が美味しい思いするでしょぉ?」 そんな話に耳を傾ける沙魅仙の脳裏に過ぎるのは、以前に大長老から聞いた『空の定期便』の話。 各地を直通で繋ぐ交通手段が得られるなら、無関係な土地での開催も悪くは無い。それに、大長老自身が地上運輸事業の円滑化に色々と寄与していた。より良い航路の提案や、運行ダイアグラム演算は、今後にも活かせる重要な助力といえよう。 思案にまた一層、小麦色の童顔が難しい表情を浮かべる。お気に入りの香炉と見つめ合うように、机に置かれた流線型を映す黒い瞳……それにしても、見事だ。今度はこの香炉に合う香を見つけねば。そう、言うなれば『ロードの香り』! そうか、独自開発という手も……! 「げふんげふん」 見つめる余りに脱線した思考を咳払いで呼び戻し、沙魅仙は「しかし……」と話を続ける。 「都市圏から離れたのでは、現地の過不足調査が難しくなるのではないか?」 「現地開催に拘るならぁ……許可でもいいけどぉ、現地の団体に『委託』って形で華を持たせてやるのが手っ取り早いかしらぁ」 「ふむ、ノウハウの有る者に任せ、迅速な実現を図るのだな」 「どの道ぃ、許可しろって交渉しても中核に関与させろって言うでしょうしねぇ」 自分なら絶対そうする、と言った口振りである。 率先してロードナイツの懐……中核どころか核のど真ん中にに食らいついて来た時点で、言わずもがなだが。 「取り分減るしぃ、アタシは気が進まないけどぉ……ロードさん自身は、儲けたいわけじゃないんでしょぉ?」 「いかにも」 胸を張り、大きく頷いて見せる沙魅仙。掘り出し物が見つかれば、という気持ちはあるが、そこはそれ。情報の取得と、交流の促進による団結の促進が先で、掘り出し物発掘はそれに伴う目標の一つに過ぎない。副産物として見つかれば御の字といった所だ。 「バザー開催自体を餌にすれば、多分食いつくわよぉ。頑張れば頑張るだけ儲かるしぃ、率先して盛り上げてくれるんじゃないかしらぁ」 なんだ、いいこと尽くめではないか。 ……と、聞いている分には思えてくるのだが。 取り分が減る、というミシル個人の事情の他に、やはりこれにもデメリットがある。 委託して任せてしまうという性質上、本当に重要な……不足物資の情報など、儲かりそうな話を独占秘匿し、出し渋りによる物価高騰を狙うなど、商戦が激化する恐れもあるのだ。市場操作の為に知らない所で不足物資を更に不足させられたのでは、全く以って本末転倒である。 ぐぬぬ、と唸る沙魅仙の眉間の皺が、更に深くなってゆく。 「商人とは聞きしに勝る曲者だな……」 「どっちにしろ、ここ――碧京が一番、特殊で面倒だからぁ。折角来たんだし、根回しの下地位は作っといてあげるわぁ」 ――あの所長の言う実績ってのにも丁度いいし。 という、思惑は微塵も見せず。 「とにかく、もう少し詰めないと駄目ねぇ。一箇所で派手にやるのか、小規模で複数同時か、順番か。一回で終わりにするのか、何回もやるのか、一回始めたらずーっとやりっぱなしにするのか……組み合わせでも色々違ってくるわよぉ」 「より具体的な内容を提示し、理解を求めつつ、互いに譲歩や協力する点を見出さねばならん、ということか……」 相変わらず、難しい表情で唸っている沙魅仙の目の前。 考え過ぎで頭から煙が出た、とでも言わぬばかりに。 お気に入りの香炉もまた、芳しく白い細い煙の帯を、頭から立ち上らせていた。 |
第六節 |
――延々広がる大砂漠。 南方大陸を覆う黄土色の大地を舞う、アストライアらしき機影を視界の端に、ディアナは砂漠商都シェハーダタ上空を通過する。 シェハーダタでは……いや、上空から見た大都市は何処も、なにやら大きな建造物を作っているのが確認できる。 『どこの都市も、何か一生懸命作っておられましたね』 建造場所は、郊外であったり街中であったりと、都市によっててんでばらばらだったが……守護塔を新しく作っているようにも見えるし、全く別のものであるようにも見えるし……ただ、普通に人が住む為の家ではなさそうだというのだけは、判別ができた。 何を作っているのだろう、何が出来るのだろう? 興味有り気に、コア内のパートナーと予想はしてみるものの、結論は出ず。 『きっと、会議で相談していた、対策用の物なのでしょう』 一先ず、ディアナとパートナーに判ったのは、そこまで。 ちなみに正解は、『光線狙撃銃』を都市防衛用に巨大化した、製作仮称『光線砲』――の、土台部分だが……本当に『土台』部分しか出来ていない現状、前情報なしでそれだけ見て正解を導き出すのは、流石に無理というもの。 尚、『光線砲』は未完成の武装。各都市に先行して砲塔枠組みの建築を進めて貰うことで、時間消費を最小限に抑えよう、という対策会議での方針に基づいての分担行動である。内部設計は研究所の『光線銃巨大化企画班』が、所長主導の元、現在必死こいてやっている最中だ。 ……そこではたと。 何か閃いたのか、ディアナの蒼緑色のコアが三つが、俄にきらりんと光る。 『敵を引き寄せるには、人がいると思わせれば良いのですよね』 本当は誰も居なくても、居るように見せかければいいのではないか? しかし、『建築』という作業は、こうして見ているだけでも、とても時間が掛かるというのが判る。大都市より更に目立つ何かを、敵が来るよりも早く更地に用意することなんて……できるのだろうか。 ならばやはり、都市の盾に…… いやいや、どうにか誘き寄せて…… 『困りました』 尽きない悩みに、幾度目だか零れる呟き。 ディアナの世界二週目も、もうじき終点が見え始めていた。 元々、体力には自信がある。 その自信を裏付けるかのように、るりは空腹による昏倒からも程なく復帰。ナハリ武術館門下生として日々鍛錬に励んできたのは伊達でない。それに……と、るりは首から胸元に提げた小さな巾着袋を、そっと手に取った。袋の中には、大長老と同じ形をした細工品が納められている。お守り代わりの大切な、お気に入りの宝飾だ。 とはいえ、流石に他の皆に心配されて、今は余裕を持っての食事休憩中。 『がんばるこは偉いこだけど、むりはいけないんだよ』 「ご心配お掛けしてすいません。もう大丈夫です!」 有事に備え、いつでも出撃できるよう体調を整えておかねば……思い、それに沿って行動していたはずが……今は宇宙に居る勇魚吠を見習って、美味しい夜食を皆さんに! ……とついつい、熱意の赴くままに『美味しいおにぎり研究』に没頭してしまった。 判っていたはずなのになぁ、と珍しくはにかんだような笑みを浮かべる。しかし、それもほんの一瞬で。るりはまたいつものにこにこした表情に戻ると、好物の明太マヨ味のおにぎりを手に……そういえば、と見上げるぱっちりした紫の瞳に、すごくまるい機影が映り込む。 「おささんや、機動生命体の皆さんは、人間のようなお食事はされないのですか?」 『うちらは、かたちのあるものを吸収する能力は持って無いんだよ』 奇しくも、別の場所、別の時間に、ツァイがアストライアに対して似たような質問をしていたりするのだが――斯様なことを、お互い知る筈もない。 『じっとしていたら、だんだんエネルギーが溜まっていくんだよ』 「何もしないで居ると満腹になるということでしょうか? 不思議ですね」 今まで機動生命体の活動を見ていて、薄々感づいてはいたものの。 使っていないだけで食事できるような機能もあるのでは? と考え、もしも食事が可能なら、大長老や他の機動生命体と集まって、皆で親睦を深めながらの昼食会! ……と、そんな情景を思い描いていただけに、機動生命体が食物摂取能力を持っていないのはやはり残念だ。 『あっ。そういえばね。うちや他のみんなはミサイルとか弾丸とかしか作れないけど、ぼかんのアテレクシアは艦長さんがエネルギーで異星人のみんなのたべものを作れるようにしたんだって。すごいよね!』 「そうなのですか!」 ではもし、逆のことができれば……!? ……と、想像力は働くものの。現実には無くても全く困らない機能。もし、実現するにしても、またまた随分未来の話になってしまいそうである。 しかしながら、機動生命体のエネルギー充填行為は、飲食と疲労回復のどちらに当たるのだろう。 どちらでもあり、どちらでもないというのが、正解かも知れないが…… (ほんものの『おしょくじ』って、どんな感じなんだろう) 食べる機能が備われば、そういった感覚も、判ったりするのだろうか。 まるいおにぎるを頬張って笑うるりの姿に、不意にそんな事を思う大長老だった。 量産型くり、通称『うに』。 かくして目出度く完成した試作二号――『うに一号』は量産型試験機として、機動魔閃護撃士団本部で運用が始まることになった。 量産型だけに、続く『二号』『三号』の製作も着々と進められており、各都市主要機関へ順次配備されるとのことである。配備順序の決定は、ディアナが地図作りの際に確認した、狙われ易そうな都市順を参考にするらしい。 意思疎通用なら大長老の提言のように音声変換のみでよかったのだが、上空配備への転用にも備えて、自主思考機能は残す事になった。なお、『うに』のコアは、量産型ということでくりを利用してコア化を行っているのに加え、もう少し賢くしたい……という所長の思惑もあって、同調によるコア化直後から研究員らによる自主的な教育が色々と行われたために、 「固有名詞『うに』。識別番号『一』。活動を開始」 ……中々に事務職っぽい仕上がりである。 ちなみに、くりの案件を見るに、魔鋼のコア化に既存の機動生命体コア内で同期を行うと、最初の精神構造は親元の機動生命体に似てくる。もっとも、あくまで似てくるというだけで、学習次第ではこのうにのように異なった性格に成長を遂げるはずだ。 本当は、まっさらな所に知識や性格を設定してしまうほうが楽なのだろうが……余りにまっさら過ぎる状態は、機動生命体が母星で生み出された瞬間と同じでもあり、敵側の精神感応に反応し、操られる危険性がある。 それを考えると、仲間の機動生命体のコアで同期を取ってコア化するほうが断然安全なのだ。 (これ……おさ以外だと、初期状態はどうなるんだろう) ただ、テトテトラはやめたほうがいいような、そんな気はする。生まれた瞬間から好奇心赴くまま自由奔放に動き回って、行方不明になりそうだ。いや、きっとなる。そして、保護者に回収されるに違いない。 ……と、不意に。 そんな動きたてほやほやの『うに』に、上空で迎撃中の防衛線から通信が。 どうやら、尖兵として交戦した敵戦闘艇の捕獲に成功したらしい。 「戦闘艇ってことは、無敵じゃない方だね」 指定した場所に大人しく浮いたまま、微動だにしないうに一号を見遣りつつ、流石に少々疲労の翳る面持ちでごちるシャルロルテ。 しかしながら、機動生命体の持つ金属強度自体は、惑星ティーリアで普遍的に使用されている金属に比べても、かなり優れている。直接防御用ではない、例えば、衝撃派や津波防護用シェルターへの流用などには、十分に期待できる。 光線砲も凡その設計の目処は立った。あとは素材か……と、随分目減りしてきた魔鋼を見遣る。 会議でも既に、万一の機動生命体の破損に備え、予備用コアの準備案が提示されており、その為の魔鋼集積を各地で行う概ねの合意が取れている。もっとも、くりのような掌サイズなら兎も角、本来の機動生命体のコアは最小艦種の工作艦でも直径10m近く、体躯の大きな艦種によっては、直径20mを越す巨大なコアを持っている場合もある。形状によってばらつきもあるため、機体とコアの大きさは比例しないが、それでも、直径5m以上のものは最低限想定せねばなるまい。 言わずもがな、直径5m以上の塊など、一朝一夕に集まる量ではないため、戦闘が激化するまでには……という、猶予を見越した方策として提案されたものだ。 そも、コア化以外にも、惑星ティーリアの民にとって、魔鋼には様々な使い途がある。魔鋼集積案は悪い話ではない。故に、集積と共に、いつでも採掘・提供できる体制を整えよう、というのが大筋だったのだが……碧京だけは、意見には賛同したものの、主要交易品を大盤振る舞いできないとして魔鋼の提供自体に難色を示し、会議が一部紛糾する場面もあった。 (気持ちは判るんだけどね――) ――ロードナイツセブンが、何か大きな事業に乗り出すらしい。 そんなまことしやかな噂が、巷でちらほらと囁かれ始めている。 碧京から始まったというそれは、まだ噂の域をでないが……沙魅仙の進めているワールドマーケット構想が具体化し、本格的に動き出せば、碧京の立場もまた変わってくるに違いない。 その時期が早まるのか、遅くなるのか。 全てはロードの手腕に掛かっている、といって過言ではないのだろう。 日の暮れた空。 甲板機構に据えた二つの蒼緑色に映り込む、夜の帳と星々の光。 その中に混じって、急激に輝いては直ぐに消える、幾つもの光条と光点。 『本隊の一部が到着したみたいです』 刻一刻と近づく実戦の時に、ディアナの中では未だ続く思案。 出撃したままの数多くの同胞。空いたままだった滞在地東の荒野には――ついさっき、スゥイ・ダーグ MAXが素材として置いていった、全長10m程度の戦闘艇が二機。機関砲一門だけのごく単純な構成と、レーザー砲を二門備えた少し上等そうな機体が、それぞれ一機ずつ。 コアを無くし沈黙した機体の周囲には、既に沢山の研究員が集まっている。 るりもその中に混じり、初めてみる艦以外の機動生命体を、ぱっちりした瞳でじっくりと見遣る。 「このくらいなら……必殺技やまるいこバリアでなんとか出来る気がします。いえ、して見せます!」 いよいよ街を、人々を、未来ある子供達を脅威から護る時! 俄に湧き上がる正義感に、ぐぐっ、と拳を握り、やる気を漲らせるるり。 『避難用のシェルター完成するまで、わるいこが悪さしないようにばりやーできたら、なんかいいよね』 「いいよね。いいよね」 変わらず優しく響く、大長老の声に。 新しい外装を身に纏ったくりが、くるくる回りながら、同意するようにそう溢していた。 |
文末 |
次回行動指針 |
M11.防衛専念 M12.迎撃方法を一層に模索 M13.更に開発に勤しむ M14.他にやることがある! |
登場キャラクター |
■【称号】キャラクター名(ふりがな)/種族/クラス/年齢/性別/ 【PC】 ■【貴志】利根川 るり(とねがわ るり)/地上人/閃士/17歳/女性/気が利きすぎる。 ■【平和主義】ディアナ・ルーレティア/機動生命体/戦艦/35歳/女性/パートナー獲得。 ■【すごくまるい】大長老(だいちょうろう)/機動生命体/輸送艦/88歳/無性/なんかいいよね! ■【ロード】沙魅仙(しゃみせん)/地上人/人外の徒(コウテイペンギン)/24歳/男性/ワールドマーケット構想中。 ■【魔鋼研究所所長】【機動魔閃護撃士団最高責任者】シャルロルテ=カリスト=アルヴァトロス/異星人/天上の民/22歳/無性/過労は回避。 【NPC】 ■エリーヌ・ゴシュガンク/異星人/天上の民/98歳/女性/通称『艦長』。巨大戦艦大好き。 ■真澄 雁九朗(ますみ がんくろう)/地上人/閃士/55歳/男性/酒場で管巻いて民衆煽ってるの筆頭な予感。 ■ミシル・ミーミット/地上人/魔術師/16歳/女性/ロードを利用する事にしたようだが……? ■フリド=メリクリア/機動生命体/駆逐艦/430歳/無性/絶賛引き篭もり中。 ■オペレートアーム/機動生命体/工作艦/1740歳/無性/自分ではダイスを投げない親切設計。 ■くり/機動生命体/人工艦/0歳/無性/みんなのアイドル。後輩ができた。 ■カニスチャン/地上人/人外の徒(かに)/40歳/男性/ロードナイツセブン構成員。執事役。 ■ソラヤ/地上人/閃士/22歳/女性/小都市所属の騎士。ディアナ専用パートナーNPC。 |
マスターコメント |
CORE本編への参加誠に有難う御座います。 初回から度々の失態に申し開きのしようも御座いません。申し訳ありません。 さて、早くも色々と事態が動いております。 回数を増やして時間経過を緩やかに……という方式で進めるつもりでおりましたので、今回のうちに構想が実現しなかったものも多々御座いますが、そんな中で所長の肩書き利用はお見事でした。役割を振っての並行運営で予想より物事が進む結果を得られております。 ミシルが例に挙げているのは、我々の世界に当て嵌めて言うと、有明を借り切ってコミックマーケット(大規模・場所固定・年単位で数回の少数開催)を開くか、百貨店特設会場で物産展(小規模・複数個所・複数回開催)するのか、いっそテーマパーク作っちゃうか(場所固定・常時開催)、というイメージですね。 他、NPCについて捕捉を。 彼らはPCが誘いを掛けたり要請を行う事で、別のシナリオへ移動することも出来ます。 ただし、行動の決定はNPCの状況や意思によりますので、アプローチすれば絶対にその通りに動く、というわけではありません。 例えば、くりに対して機動生命体全員が『全く同じ条件』の誘いを掛けた場合、くりは大長老さんを選ぶことになるでしょうし、オペじいは別行動を頼まれない限り沙魅仙さんに自動で付いてゆくでしょう。 尚、『うに』は設置型装備(個人所有不可)扱いです。話し掛ければ応答しますし、誘いを掛けること自体は出来ますが…… それら全て、アクション次第といえましょう。 それでは、次回にもお目に掛かれる事を願いつつ。 |