北辺
第一節
 巡る二つの陽光が、東の地平を白く染める。
 惑星ティーリアを訪れた、異星人と機動生命体。総じて『来訪者』と呼ばれる彼らの為に設けられた滞在地は、西方大陸随一の大都市・魔都スフィラストゥール……から、徒歩一日の距離にあった。
 この惑星に留まり始めてからはや数ヶ月。整地もされていなかった山脈麓の荒地はそれなりに『街』らしい姿となり、新たに立ち上がった組織の本部が置かれるなど、要所として人々に認知されつつある。
 そんな街の東側には、荒野が広がっている。
 人も住まず、だだっ広いその空間は、最低でも30m、最大では700mにもなる巨躯の持ち主――機動生命体らが留まるには、うってつけの広々空間であった。
 だが、そんな休憩所も、今は実に閑散としている。
 つい先刻、宇宙空間は太陽のある方位に敵襲の予兆である空間の揺らぎが観測され、多くの機動生命体がその迎撃のために天へ留まっているのだ。
 ……が、無論。
 それとはもう全く無関係に。
 滞在地から離れている者も、沢山居た。
 ……機械じみた外観に、感情なのか演算結果なのか、人類からすれば些か不可思議な心の動きをしてはいるが。
 機動生命体もやはり一個の生命であり、考えを持った個人に他ならないのである。

 ――西方大陸より、東へ。
 昇りゆく二つの太陽に立ち向かう形で進むは、細長くも巨大な機影。基調とする白は浴びる陽光に一際白さを増して輝き、施された青いラインとのコントラストを際立たせる。
 身に備えるコバルトブルーのコアには、青さを増しゆく空が映り込む。巨大な二つの宝珠が幾度か瞬く様は、徐々に高くなる陽射しが眩しくて、眼を顰めているかのようだ。
 ……が、昇る陽光の側、遥か彼方成層圏近くには、沢山の色取り取りの光点。
 あれは、宇宙へ迎撃に出ている、同胞らのコアの色。
(おそろしいことです)
 これが生身の人類だったなら、間違いなく『身震い』というものを起こしていたに違いない。
 己の心情にそんな思惑を過ぎらせながら、蒼白の噴炎を噴きつつ地上を行く。異星人が言うところの『銃』という武器、中でも、ショットガンや短筒と言われる種類を彷彿とする形状をした、この色白長身の機動生命体は、ジョナサンだ。
 いや、それにしても。
 日頃から訓練に参加してなくてよかった。
 ……上空に見える同胞の様子に、俄にそんな事を思う。うっかり輸送訓練なんかに参加していたら、そのままなし崩しに戦列に加えられてしまっていたかも知れない。
(実に、実に恐ろしいことです)
 ――ジョナサンは、平和主義であった。
 そもそもに母星勢力離反の理由が、好戦的で殺伐とした日々を倦んでというのだから、筋金入りと称して過言でないのかも知れない。
 そんなジョナサンは今、海を目指して地上近くを航行中。目的地は『奈落の口』。
 ……滞在地からであれば、西回りの方が圧倒的に早いのに、何故わざわざ東回りを選んだか?
 勿論、戦闘したくないからだ。
 西方大陸西部は、『魔の領域』と呼ばれる魔物山盛り地帯。そんな所を移動したら、魔物に山盛り出会ってしまうかも知れない。
 魔物が辿り着け合い高高度を飛べばいい? 何をおっしゃる。上空は今まさに、開戦の気配に殺伐としているではないか。そんな場所になど、少しも近づきたくない。
 冗談じゃない、たとえ時間が掛かっても、安全なルートを選ばせて貰うッ!
 ……と、いった具合で。
 ジョナサンがわざわざ最長距離に成り兼ねない東回り航路で、かつ、揉め事の少なそうな辺境地区や郊外伝いに地上付近を移動しているのは、そういう訳である。ちなみに、先ほど一度だけ荒野を単体でうろついている魔物に遭遇したが、少し高度と速度を上げて離脱しただけで、魔物はあっという間に何処かへ消えて行った。消えたというか、機動生命体の移動速度に付いて来れず、置き去りになっただけだが……ジョナサン的には戦闘回避できればそれで十分である。
 高出力は使わずに、普通の噴気孔二基にとろ火で蒼白の光を宿らせて、滑るように進む大地。眼下はいつしか荒野から草原地帯に光景を変えていたが……膝丈の草ばかりの景色は、なんだか大地に産毛が生えているかのようである。
 ふと、左舷やや遠くに、巨大な岩石質の山が聳え立っているのが、コバルトブルーのコアに映る。
(麓に緑が見えますね)
 大陸を南北を貫く山脈のせいで、西方大陸は東西で気候がかなり違う。東側には山脈に水分を奪い尽された風が吹き、肌が気になる乾きっぷり。一方、奪われた水分が雨となり降り注ぐ西側は魔物のパラダイスだというのが、何とも皮肉な話だ。もっとも、山が奪った水は大半が地下水として蓄えられている。水脈さえ判れば荒野の只中でも水がわんさと沸いてくれるし、東へ行けば行くほど空っ風が弱まり、海抜が下がって地面に水分が増えてくる為、荒野はやがて背の低い草木の生える緑の大地へと移り変わってゆく。
 それでも、草が生えても精々が膝丈の草原地帯という西方大陸東部の真ん中に、奇蹟とも言える緑濃い森林が存在するのは、孤高と聳えるあの山のお陰なのだろう。
 ……そう、下がる海抜。行く手に待つはつまり海。海!
 間もなく見えてくる、西方大陸東岸。
 気持ちは逸れど、急ぎはしないお散歩紀行。『奈落の口』へ向かうのは……調べたいからから、という心情に寄る所が前提ではあるが、今回に限っては『未知の地形の調査』と称することで、戦闘不参加の言い訳にも使っていたりする。じっくり調べている間に上の戦闘が終わってくれれば一番だ。
 左舷側を前から後へ、景色の一つとして流れて行った孤高の岩石山に別れを告げ、ジョナサンは青く広がる水平線へと巡航を続けてゆく……

 ……右手に見えていた二つの光点が、段々と後方へ流れていく。
 青空より高くに浮んでちかちかと瞬く色取り取りの光は、陽光の眩さに幾ばかりか掻き消されている――軽く見上げたはいいが、二つ分の太陽光はやはり眩しかったか。紺藍色のコアの中で、ダークネスが漆黒の瞳を細める。
 まぁ、宇宙は騒がしいが、出来る奴がやってくれるはずだ。無論、大変な状況であることに変わりはない。しかし、だからと言って、惑星の中で起きることを疎かにしては本末転倒。
 かくて彼は、伝聞で聞き及んだ砂漠方面での魔物被害を解消するべく、南方大陸へ向かっていた。
 ……向かっていたはず、なのだが。
「………」
 無精髭を撫でるように顎先に手を沿え、無言のまま考える。
 滞在地を発ち、西方大陸を離れて暫く。
 搭乗したコアの中から、薄く紺藍色に色付く周囲の景色を、改めて見遣る。
 眼下に広がるは、延々と広がる紺碧の海。左手には、何処までも続く青と青の境目が、水平線となって弧を描く。右手には、同じく眼下から続く海の青と、その先に、大陸があることを示す陸地の盛り上がりが見て取れる。
 そして、その陸地の上に徐々に昇り行く、青み掛かった二つの太陽。
 ……そう、右手だ。進行方向右手側に見えるんだ。
 『昇ってる』太陽が。
「……進路、北だよな」
 眼鏡越しの視界に見える現実に、思わずごちる。
 そんな彼へ。否、彼の居る紺藍色のコアの中に、何処か幼さを感じさせる声が響いた。
『メナスの森に『強力な魔物』がいるんだよね』
 空色の噴炎を噴きながら、滑るように海上を移動する、円盤状の機影。
 コアを覆うランドルト環の更に外側、二つの円弧状の外装を、楽しみだとでも言うようにくるくると回しながらテトテトラが言ったその言葉に、ダークネスは「……ああ」と、何事か合点が行ったような呟きを溢した。
 彼自身は、最近頻発するという南方辺境での飼育動物襲撃事件に関わるつもりで、「辺境の魔物を片付けに行くぞ」と言ったのだが、テトテトラにとっての『片付ける必要のある辺境の魔物』は『メナスの森の強い奴』という認識だったらしい。
 ……なまじどっちも、最近になって出てきた魔物なのが、余計にこの行き違いを生んだのだろう。
 さて、どうしたものか。
 とはいえどの道、南の件が済めば、メナスの魔物についても関わる事になるだろう。人々の生活を脅かす魔物の存在を知って、放っておくなんてことは出来るはずがない。
 それに、確か……誰から聞いたのだったか、ゼノムとアストライアが既に魔物退治の為に南方大陸へ向かっているというし。二人は互いにパートナーで、しかも、魔術師と駆逐艦。散発的に発生する魔物への戦力としては、事足りているどころか過剰なくらいだ。
 ……そんな思案の間にも、前方の水平線には徐々に、メナスのある北方大陸らしき影が見え初めている。
 かくてダークネスは、咥え煙草の煙を細く吐きながら、
「ま、先にこっち片付けるか」
 何だかんだで流れつくまま、でっかいお子様と共にメナスへと来てしまう、面倒見のいい保護者であった。

第二節
 陽光が南の地平線近くを滑るように巡る、厳寒の大地。
 海岸線の大部分は、青白い氷に閉ざされて。さりとて、惑星ティーリアを巡る複雑な海流のお陰か。南からくる暖流によって出来上がる、狭間の海路が、大陸南岸に幾らか残る凍らぬ港へと続く。
 海上を閉ざす白い氷の最中。海流を示すように、そこだけが溶け一筋に陸地にまで続く青い道は、何処かで見聞きした覚えのある英雄譚宜しく、何者かに見えない力で導かれているような錯覚さえ抱く。
 時折に、両脇を埋め尽くす氷の一角が、割れて離れて漂ってくるのを、船乗らは帆と風の術とを用いて慣れた様子でやり過ごし、荷を積んだ船は滞りなく小さな港へと滑り込んでゆく。
 漁村かと見紛うそれはもう素朴な港には、冷たく白い粉が舞い散る。
 そもそもに、遠洋から出入りする船舶自体が稀なのだろう。桟橋には見事に白いものが降り積もって、荷と共に降り立っただけで両脚は足首まで沈む。凹凸なく滑らかに積もる白は、少なくとも数日間はここが使われていなかったのだと教えてくれる。
 しかし、斯様に厄介な足場も、浮いてしまえば何の問題もない。
 最早見慣れた感のある、浮遊する荷台。台車ならぬ台箱へと、降ろした荷物を積み込むと、空いた隙間に人が乗り、すいすいと内陸へ向かって動き出す。
 人よりは断然に身軽な牽引動物。トナカイとヒツジを足して割ったような風体のそれに牽かれるまま、荷物と人は雪の勢いが増す北方大陸内陸へと進――
「どう見ても辺境です。本当にありがとうございました」
 黒髪の天辺を振る雪に若干白くしながら、青年が言った。
「……なんでおれここにいるんだろ……」
 真正面からぶち当たる寒風に鼻先を赤く染め、遠い眼差しで呟く、彩灯みちる。
 その肩を、不意に力強く叩く手があった。
 それが誰だか既に判っているのか、じと目でみちるが振り向いた先には、やっぱり予想通りの人物。
 同じように黒髪の天辺を雪に白く染める、ギターを担いだひょろぺら男。
 男は今しがたみちるの肩を叩いた細長い腕を引き戻すと、サムズアップを決め、それはもう大袈裟な位の爽やかな笑顔で言い切った。
「俺達を呼んでっからよ。愛が!」
「……なつかしきかほりに釣られてお前に付いてこうと思ったおれが馬鹿でしたウワァン!」
 両手で顔を覆って乙女ちっくな嘘泣きを繰り出すみちる。どうやら、ホームシックな余りに同じ巧錬の民である彼――アンノウンに懐郷の念を抱き、ほいほいと同行してみた結果が御覧の有様らしい。
 そんな次第で、割と雰囲気で付いてきただけのみちるだが。
 アンノウンも別段、確たる用事があってここへ来た訳ではない。大体いつも通りに、知らない街を訪れて、目に付いた酒場にお邪魔して、知らない人と肩を組んで飲み交わしていたら、こうなっていた。
 ……断片的に表現すると、まるで騙されて売られてきたかのようにも聞こえるが。
 彼は初対面の相手と仲良くなるのが上手い。物怖じせずに旧知の間柄のように接するその言動と、惑星ティーリアの住人の『そういうものなのか』的な発想は相性がいいのかも知れない。
 何だかんだと相手に気に入られる事も多く、飲み代や一宿一飯を肩代わりして貰う事も多々。そんな諸々の礼代わりに、困ったことは無いかと世話になった皆さんを訪ね回った結果、こうして北を訪ねる事になった訳だ。
 しかし、寒い。
 北だとは聞いたが、よもやここまで寒いとは。大して分厚くもないパーカーに綿パンツなままで来てしまったことを大絶賛後悔中のみちる。ぺらぺらの革ジャケットにぼろぼろジーンズのアンノウンも大概だが。きっと彼は、内側から溢れ出る愛が熱に変わって体を温めているのだろう。たぶん。そういうことにしておこう。
 思う間にも、二人の乗る荷台は更に北へ進み、降る雪は段々と吹雪の様相を呈す。本来なら間違いなく凍えている所だが……どうやら、何かしら防寒の術が施されているようで、周囲の景色から感じる程には、荷台の中は冷え込んでいない。
 というか……実は何かの間違いじゃないのか?
 そんなみちるの不審な眼差しに気付き、「寒いんなら着るか?」とぺらぺらの革ジャケットを脱ごうとするアンノウン。むしろ、既に脱いで被せている。そして、被せた途端に。
「ぶえっくしょい!」
「判り易いなちくしょう!」
「あー、やっぱ寒いな。けどまあ、大丈夫だろ」
「ダイジョブジャナイヨ! ゼンゼンダイジョブジャナイヨ!!」
 何故かカタコトになりながら、被されたばかりの革ジャケットをアンノウンへ返すみちる。すると、被された自分のジャケットを何故かいとおしげな仕草で軽く撫で。
「あんがとよ。お前の愛が温けえ」
「もうやだこのひと」
 アンノウンの愛溢れる冗談にみちるは段々やけっぱち。
 ……などと茶番を繰り広げているうちに。雪に煙る前方、目的地の街らしき黒い影が、薄っすらと見え始めていた。

 ――辺境の街メナス。
 街を覆う薄い膜越し、横薙ぎの風に煽られて、白く濁る景色。
 些か面白みのない光景……の最中に、不意に浮かび上がってくる影。
 近付くに連れ、影は次第に周囲の景色との境に確かな輪郭を生じ――それが、白い息を吐きながら駆け進む羊鹿と、それが牽引する荷台であると知る。
 街の南側、雪風避けの結界境目付近。
 入り口へと駆け込んでくる荷台と動物を最初に目撃したのは、ラスティ・ネールだった。
「お。人が乗ってる」
 巡らせた視界、荷台から降りてくる幾つかの人影に、黒い瞳が好奇心を宿した猫のように瞬く。
 急ぐではないが、迷いも全くない様子で。彼は次々降り立つ人影に向け、にっ、と笑みを浮かべて手を振って見せた。
「ようこそメナスへ!」
 その声に、自分の荷物を降ろしていた幾人かが振り返り、近付いてくる青年の姿をまじまじと見遣る。
 黒いシャツの上、羽織る長袖の黒革ジャケットには所々に穴が。カーキ色の長ズボンも所々汚れて、靴も飾り気無く質素。スニーカーとか、運動靴とか、その手の歩き易そうな奴だ。ざっくり短く切られた黒髪を揺らし笑う様子は、とても人懐っこそうに見える。
「……つっても森に魔物が出るってダケで何も無いトコだけどな」
 そう言ってまた、にっ、と笑うラスティの様子に、青年の一人は「第一街人ハケーン」と呟き、魔物狩りらしき物々しい装備の者は俄な警戒を示し、かと思えば、ぺらぺら革ジャケットにぼろぼろジーンズという格好の男が――うん? なんだろう、微妙に鏡に映った未来の自分でも見てるみたいだ!
 歳はラスティより二周りほど上だろうか。でも、何か少し、違和感が……と、首を捻る間もなく。ギターを背負ったそのひょろっぺらい男は、『久し振りだな元気してたか会いたかったぜ』とでも言わんばかり、ほそっこいラスティの身体を笑顔でわしっと抱擁してきた。
「あびんしょふぇしゅるばてぁーん」
 抱擁しながら唐突に男が発した謎の言葉に、思わず黒い瞳を真ん丸にするラスティ。
「なん? なんだ、なんだそれ?」
「なんびゅるって」
「え? う?」
 謎の状況に、流石のラスティが目を白黒させていると。
 ひょろぺら男に遅れること暫し。荷台から降りてだらだらと後ろを歩いてきた青年が一言。
「……えーと。その人今、言葉通じないんだ」
「え? ……えー!? すっげぇ!」
「しょるるとぅいん」
 方言のように若干通じ辛いことはある。だが、惑星ティーリアの常識では到底考えられない、全く言葉が通じないという状況に、驚きつつも感心した様子で男と青年とを幾度も見比べるラスティ。
 そんな彼に対し、愛さえあれば異星人標準装備の翻訳機無しでも大丈夫! と割と本気で思っている男・アンノウンは、ラスティと親しげに肩を組むと、『次、何処行く?』と言った動きをして見せる。ラスティも人見知りはしない性質だが、アンノウンの場合は人見知りというもの自体が世界に存在していないかの如き挙動なのが凄い所である。愛は偉大だ。
 と、ここにきてようやく。
 ラスティはこの妙な二人組から、一切の魔力が感じられない事に気が付いた。成程、最初に感じた違和感の正体はこれか、と合点がいくのと同時に……彼は新たに浮かんできた事柄に、猫っぽい目をきらきらさせ始めた。
「ひょっとして、あんたたち異星人ってヤツ? うわー! すーっげすっげぇ!」
 噂話位には聞いていたが、よもやこんな北の辺境くんだりまで現物がやってくるとは思いもよらず。そんな大興奮のラスティと肩を組んでるアンノウンも、その場のノリでなんか楽しげに跳ねてる。そして二人で跳ねる。ぴょんこぴょんこ。
 ……根底にある思想も性格も大分違うのだが、何と無く似ている気がするのは何故だろうか。
「ここで会えると思わなかったなぁ。あんたらも魔物狩りに来たクチ?」
「いやいやいやいや。流石に死ぬわー。生身じゃ死ぬわー」
 ぶんぶんと激しく首を振るみちる。対するアンノウンの返答は。
「もぬすれこぼふぉしょあ」
「よく解んねぇけど、酒場と宿屋なら案内出来るぜ」
「ゆお!」
 行こうぜ!
 と、言ってるんじゃないかな。たぶん。
 ……何と無くそんな気がして、よっしゃ付いて来な、とばかり我が家でもある酒場へ向けて肩を組んだまま歩き出すラスティ。先程は先程で、ちょっぴり仲が良くなった魔物狩りが西の森へ出かけて行くのを見送り終えた所だったりする。異星人二人が到着した時、彼が丁度街の入り口近くに居たのはそういう訳だ。
 ……まぁ、それ以外の時も、街中をふらふらしてはいるが。
 兎に角、他にどうしようもないので、みちるも二人の後に続く。
 しかし……アンノウンはこの街での困りごとを聞きに、やって来たはず。だが、ラスティの口振りからして、この街での一番の悩みは恐らく、森に出る魔物のこと。
 どう考えても異星人単品で解決出来る案件ではない。
 ……絶対、聞き間違ってる。場所自体をそもそもなのか、乗る船の行き先をなのかは……はっ、もしや、両方か。むしろそれ以外にも細かい間違いが積み重なっている気もしてきた!
 ――斯様な思惑巡る街の上空。
 薄い膜に覆われたその先、いつの間にか勢いの衰えた吹雪の中に。
 黒い円盤状の巨影が、南の空からじわじわと、近付きつつあった。

 ――西方大陸東岸を発って暫く。
 ジョナサンは中央大陸西岸から北回り、沿岸伝いに東へ向かっていた。眼下には丁度、帆を張り、流れと風を頼りに、同じ方向へと進んでいく船舶集団が見える。
 この、中央大陸西岸の海域は、地上の人々にとっても船舶航行に適した海流が南北に流れているらしい。しかし、行き着く先は辺境地域であるらしく、眼下の青を行き交う商船との遭遇率は余り高くない。ジョナサン自身も郊外や辺境伝いに東を目指している手前、必然的な状況かも知れないが。
 ただ、たまに通りかかる船の中にも、大都市部への往来の際に機動生命体の姿を見慣れている――大長老の日々のお荷物運びのお手伝い効果だろう――ようで、頭上に現れたジョナサンの姿に慌てたりする事もなく、むしろ手を振って白く眩い機影へと船上から呼びかけてくる者さえいた。
 そんなジョナサンも立派な輸送艦。図らずも出会うことの出来た人々への支援も兼ねて、三基のサブアームを使って船舶曳航、海流と風任せの皆さんの移動を大胆ショートカット。普段なら渡ること叶わぬ海域走破による航行短縮の恩恵に、船乗の皆はそれはもう大袈裟な位に喜んでいた。
(こうしていると、空で戦闘が起きているのが嘘のようです)
 海は我が家。
 ……とばかり、妙に寛いだ気分になってくるジョナサン。
 船舶と連れ立って進む海面。波に揺れる青に落ちる、銃身のような己の大きな影。
 青みを増した海中には、日を避けてか獲物を探してか、魚影らしき一層に濃い影が集まっているのが見える。ああ、やはり素晴らしきかな海。
 しかし、そんなのんびり紀行ももうじきお終い。
 沿岸伝いの北航路、いつの間にか辿り着く極近く。周囲には欠けて流れた白い塊――拳大程の流氷の欠片がちらほら目に付き、北の水平線には凍る海に囲まれた北方大陸の影が見える。
 北へ進めば北方大陸。沿岸を東へ進めば北東大陸。
 しかし、中央大陸北端から東向き、北東大陸へと繋がる流れは存在していない。同様に、北方大陸と北東大陸を直接繋ぐ流れも存在しておらず、現在地から進む事が出来るのは、流氷の裂け目を辿る北方大陸への航路だけ。
 ……もっとも、飛んでしまえば海流の影響など全く受けないし、仮に船舶のように海上を進むにしても、機動生命体の推進力を持ってすれば流れに逆らうなど造作もない。
 荷物運搬先が決まっている手前、船乗らとはここでお別れせざるを得ないが……
(どちら回りで行きましょう)
 目指す『奈落の口』の北限は、北方大陸からでも、北東大陸からでも、然程距離に差はないらしい。進む方角がちょっと変わる――極点を通って南下するか、大陸北端から真東に進むか、というだけだ。
 まぁしかし、ここまで曳航してきた船乗の皆さんは北方へ向かうようだし、折角なら港まで連れて行ってしまうのも悪くは無い。港かその付近で、彼らのように友好的な人物と出会うことができれば、奈落の口調査もはかどるはずだ。
(北経由で行ってみるとしましょう)
 細く太くと蒼白の炎を噴き、くるりと取舵一杯。ジョナサンは東に向けていた機首を、北へと巡らせた。

第三節
 吹雪いては止み、を繰り返す気紛れな天気。
 灰色の空模様は、心をも幾分曇らせるもの。しかしながら、今この時、メナスにある酒場からは、やけに明るい声が響いていた。
「んまあ。ぱぱーい」
「ぱぱーいか。ぱぱーい! あんた面白いなぁ」
 ……たぶん、『乾杯』って言ってる。
 愛さえあれば無問題、アンノウンの発する謎言語に釣られて、穀物酒を注いだ杯を合わせるラスティ。
 冷えはすれども凍える程ではない街の中。それが建物の中ともなれば、輪をかけて温かくなるのも必定。上着を脱いだラスティは黒いシャツ一枚の、更にラフな格好になっていた。
「おももるん。らー、あー、らす?」
「そう。俺ラス」
 何だろう、段々とアンノウンの言葉が様になってきている気がする。
 曲がりなりにも元ストリートミュージシャン。音をしっかりと聴き分け理解する、確かな耳を持っているようだ。背負ったギターの弾き方を忘れ、チューニングさえ適当になってと、知識として得たことは忘れても、身体で覚えた技術は感覚として彼の中にしっかり根付いているのだろう。
 まぁ、アンノウン本人はこういった事も全部、知的生命への愛が成せる業、と本気で思ってるに違いないが。
「そういや、あんたそれ弾けるのか?」
 ふと、彼の背中の弦楽器が気になって、首を傾げるラスティ。
「俺も魔楽器持ってんだけど、低音しか出ないんだよな」
「まばべろ」
 よし貸してみろ。とばかり、アンノウンは得意げな様子を見せるが……前述の通り、彼は己のギターのチューニングさえままならない有様である。しかも、ラスティの魔楽器は魔力を込めて音を出す類の品物だ。魔力を持たない異星人が真っ当に弾けるはずも無く。
「やは、だんだった」
「だんだったか。まぁ、いっか」
「いっかいっか」
 あっさり駄目でした宣言で返却するアンノウンに、これまたあっさりとした様子のラスティ。
 ……そんな和気藹々とした光景を、やけにしょぼくれた様子で見守るみちる。
「何で仲いいのお前ら。BEBさんぼっち安定とかマジワロエナス。台パン余裕ですよもう」
「うん? 何パン? 美味いのかそれ?」
「くっそ。ライの奴、『中の人置き去りプギャー』とかくっそ。戻ってきたら腹巻に指紋つけてやる」
「あれ、なんだ、あんたが何言ってるか判るのにわかんねぇ!」
 ……こんなの二人が初対面とは、ラスティの異星人に対する認識が大変なことになっていそうである。
 なお、台パンというのは『台にパンチする』の略で、ゲームセンターの対戦等で気に入らないことが起きた際、ゲームの筐体や画面を叩くことだ。器物に対しての八つ当たりであり、立派な迷惑行為である。
 要は、仲間に入れなくて八つ当たりしたい気分だ、という意味だが……片言状態のアンノウンとは和気藹々としているのに、言葉が通じるみちるに意訳が必要とは、なんと奇妙な状態であろうか。
 ……と、酒場でそんな遣り取りを繰り広げている最中。
 不意に外が騒がしくなった気がして、ラスティは飲み掛けの杯を置き、卓から一番近い窓を開き、顔を覗かせた。
 横薙ぎの雪は、灰色の空からしんしんと大人しく。
 白く霞んでいた景色も、気付けば遠く見渡せる。
 それだけに。後方へ噴き出される空色と、漆黒の中央で淡い光を放つ紺藍色の色彩は、その巨影と相俟って、ラスティの黒い瞳に鮮烈に映り込んだ。
「おおおおおおおー!」
 自然と声を上げ、思わず背伸びしてみたりするラスティ。止んだ吹雪のお陰で、浮ぶ姿は窓からでもよく判るものの。実際はかなりの距離があり、更には空の上。そんな事をした所で見え方は何も変わらないのだが、もっとよく見たい気持ちの表れか、彼はついつい爪先立ちになって空を見上げていた。
「すっげぇなぁ、アレ、降りてこねーかなぁ」
 猫っぽいどころか、子猫のように純粋な眼差しで見つめる円盤型の機影。
 ……あれは確か、数ヶ月前のことだったか。目玉の二つあるもっと大きくて赤いラインの白黒した奴が、魔物狩りをスカウトにやって来たことがあった。酒場で飲んでたり、宿屋で寛いでた魔物狩りが一斉に飛び出していって、その時見た余りの大きさに面食らった覚えがある。
 でも、あの時のでっかいのは、街の方には降りて来なかった。ふわふわ浮ぶあの目玉の中に乗り込んで話をした――と、スカウトを受けた魔物狩り達が、酒場に集まってがやがやと話すのを聞いただけだ。
 今度こそ、話したり乗ったりしてみたい!
 そんな想い一杯で、窓から身を乗り出すラスティ……の、横。
 どうしたどうしたと杯片手に肩を組んだアンノウンが、浮ぶ機影を見上げて一言。
「あれ、テトラじゃねえ?」

『ネス、名無しが居るよ』
 くるくると円弧状の外装を回しながら進む機体の中心。ランドルト環状の装甲に填まった紺藍色のコアの中に、無邪気な声が響く。
 空模様は小康状態。視界のよくなった眼下、少し前までは吹雪に隠れてよく見えなかった街も、今は畑の位置や家屋の並びまで見通せる。
 野良仕事中に接近に気付いて手を止めた農夫やら、荷降ろし中の御者と商売人がこちらを見て口を開けている様子やら、これから例の森へ出かけるのか、重装備をした魔物狩りらしき人影が身構えているのやら……
 ……勿論、手を振りながら酒場から出てきた革ジャケットの二人組の姿も、それはもうよく。
「何やってんだあいつ」
 何故か現地人に溶け込んでいる不思議な異星人の様子をコアの内側から見遣って、煙草を咥える唇の隙間から白い筋を吐き出すダークネス。気付くと見地人の輪に混じり、現地在住に見えてくる、あいつはとんでもない一般人だ。むしろ、一般人過ぎるから馴染むのか……?
『みちるも居るね』
 ダークネスの逡巡は他所に、そんな事をごちながらテトテトラは段々と高度を落としていく。
 するとどうしたことだろう。アンノウンと肩を組んでいる青年の表情があからさまに輝き始めたではないか。瞳なんて特殊な画面効果が出そうなくらいきらきらしている。
 魔物狩り……にしては軽装だ。とすると、あいつはこの街の住人だろうか。徐々に雪の積もった大地へと近付く機体の中で、考えを巡らせるダークネス。何やら、こちらに興味津々で街の端っこまで出迎えに来てるようだし、話を聞くには丁度いい。興味津々というか、先程からすっげぇすっげぇを連呼しているのを見るに、大興奮と言うほうが正しい気もするが。
「よし。出せ、テトラ」
『はーい』
 元気の良い返事と共に、不意に光を帯びる紺藍の宝珠。
 そこからスポットライトのように細く伸びた光が、やがて地上――街を護る薄い結界の境目へと接すると、消え行く光と引き換えにして、黒い軍服に漆黒の翼の長身が姿を現した。
 そのやや後方で。
 結局、自分も一緒になって降りてきたテトテトラの円盤状の体躯が、真っ白い雪の中へと着地する。
 ぽすすもふぁ……と、テトテトラ的には軟着陸のつもりだったようだが、なにぶん、全長45m。家一件分を余裕で超過する体躯の着雪に、積もったばかりの表層の柔らかい雪が水のように跳ね上がり、挙句には波のように街の間際まで押し寄せていた。
 雪の波は街を護る障壁に堰き止められ、内側にまで入り込む事は無いが……流石にびっくりしたか、境目近くに居た何人かは、新たに自分用の障壁か何かを張っている。
 一方、そんな規格外な出来事にも大興奮、駆け付けたラスティはそれはもう黒い瞳をきらきらさせて。
「メナスへようこそ!」
「よふふぉお」
 アンノウンまで御出迎えしているのは如何なものか。
 しかし、そんな挨拶もそこそこ。すっかりひゃっほい状態で興味津々なラスティは、円弧外装から延ばしたサブアームの一本で街の外で雪遊び宜しく白いものを掻き集めているテトテトラを、きらっきらの眼差しで見遣る。
「なあ、アイツが機動生命体ってヤツ? アンタが……えーっと、パートナーとか言う人?」
「そうだ。あいつはテトテトラ。俺はダークネスだ」
「そっか、すっげぇ。あ、俺はラスティだ」
「ほののうあぬのう」
「通じなくても容赦なく会話に混じる名無し先生まじぱねぇっす」
 何故か十歩分くらい離れた位置から一行の遣り取りを見守るみちる。そんな彼の様子に……ああ、こいつも異星人か、と眼鏡越しの一瞥だけで確認し、ダークネスはちびて来た咥え煙草を指先に摘み取り、細い煙を明後日の方角に吐き出すと……再びラスティへと視線を戻した。
「お前さん、この辺には詳しいか?」
「酒場と宿屋ならばっちりだ。他ん所も大体なら分かるぜ」
 案内が必要なら任せてくれとばかり、ラスティは色白のおもてに、にっ、と笑みを浮かべて見せる。
 ダークネスは、ほう、と一言溢してちびた煙草を摘んでくしゃりと捻じ消すと、着崩した軍服の胸元から、新しい煙草を一本取り出した。
「近くに森が有るって聞いたが」
「魔物の森か? あれがそうだ。見えっかな」
 俺弱いからあんま深くまで行った事ねぇけど、と付け加えながらラスティが指差したのは、南西の方角。
「ああ、あれがそうか」
 こちらに来る時はまだ吹雪いていたからか、すぐ近くを飛んでいたのを見過ごしていたようだ。もう少し、魔力感知に意識を向けて置けばよかったなと思いつつ、咥えたばかりの煙草に火を灯すダークネス。余り吹雪くようなら、雲ごとどうにかすることも考えるべきか――
 紫煙を燻らせる脳裏、過ぎる思惑と共に示された方角へ向けた漆黒の眼差し。
 また風が出てきたか、少し白く煙り始めた景色の中。鼠色に濁る空と白い大地の境目に、黒々と沈む森が横たわっていた。

 北辺の港町。
 陽光はどんなに高く昇れども、南の地平線に近く。日がな一日、斜陽が人々や建物の影を長く伸ばして大地に映す。
 寂れた感のある、小さな北の玄関口。ジョナサンの曳航のお陰で、余程に航行日数が短縮されたのだろう。同じ日に二回も船がくるなんて! と、港の住人は人生で一度経験できるや否やという出来事に、やけに興奮気味だ。
 無事に曳航を終えた白地の銃身は、サブアームを仕舞いながら街の上空へと少しばかり高度を上る。
 ここからは、極地経由で奈落の口を目指すのみとばかり、ノーズアートの描かれた機首を旋回させる機影に、荷の積み降ろしをする船乗の皆さんが、眼下で手を振っている。
 そんな船乗達へは、最初は応じずに。ジョナサンは完全に旋回が終わり、その場を徐々に離れながら――背(?)を向けたまま振り向かずクールに、背面越しでサブアームの一基を軽く翻した。
(吹き荒ぶ雪の中、振り向かず肩越しに手を振る。大変絵になる光景です。煤けた背中があれば完璧ですね)
 私の背中は煤どころか白ですが。
 などと、さり気無いお茶目さを発揮し、ハードボイルド風味な別れの演出と共に、北へと進んで行くジョナサン。
 陽光は背後、南側から斜めに差し込む為、大地はそれなりに明るいが、大陸真上の空は、港が見え始めた頃合からずっと、曇天に覆われまま。渦を巻いて濃淡様々に濁る鼠色からは、雪が降ったり止んだり、冷たい風が吹き付けたり収まったりを繰り返している。
 今まで沿岸と辿り渡ってきた他の大陸に比べれば、北方大陸は随分小振りだ。
 風は強いが雪は無く、視界の割と良い今なら、もう少し高度を上げれば、大陸の対岸までを一望できるだろう。
(奈落の口まで、もう間もなくですね)
 お待ちかねの海の謎が、もう間近に。
 心持ち、噴気孔に灯す蒼白色を勢いづけて、滑らかに辿る北への進路。
 前方には、小さな山と、小さな街、その側に広がる森が見え――
(――おや。どなたでしょうか?)
 凡そで、ジョナサンの全長の十分の一程度だろうか。
 森の真上に浮ぶ円盤状の黒い機影が、コバルトブルーの二つのコアに、ちらりと映り込んだ。

第四節
 白い化粧を施した、北の森。
 徒歩でなら道案内が必要になるその場所も、空を渡れば直ぐ間近。
 森の中には、既に先客の魔物狩りの姿もちらほら見える。吹雪が収まるのを待っていたのか、負傷に引き返す者、これから森へ入る者……そんな様子を、紺藍色のコアからきらきらした眼差しで見下ろす、黒い瞳。
「すっげぇすっげぇ!」
 暑くも無く寒くもなく。上下の感覚すらもない不思議な空間の中、念願の機動生命体に乗ることが出来たラスティは、それはもう大興奮。コアを包む灰と漆黒の装甲がくるんくるんと回る様子にも一々大喜びで、何処を重点的に観察すればいいか判らずに結局全方位を忙しなく見回しているような状態に陥っていた。
 ……はずなのだが。
『ラス、奥ってどっち?』
 幾度目だか、彼の脳裏に響く、幼さを思わせる声。
 嗚呼、ついさっきまでの、あのひゃっほい感は何処へ行ったんだろう。
 色白青年の顔色は見るも無残に青褪めて、何やら妙にぐったりしているではないか。
「あ……あっち」
 余程に気分が悪いのか。口元を手で押さえつつ、問い掛けに対しコアの中から指差して見せるラスティ。
 ……その様子を、円盤状の機体上方、程よい窪みに腰を降ろしすダークネスが見守る。無重力状態のコアの中、些かぐったり漂ってる感すらあるラスティを、一応は気遣って。
「もっと静かに動けよ」
『わかった〜』
 助言に応じて、更にすいすいと流れるように動き始めるテトテトラ。
 テトテトラは現在、噴気孔は使わず、浮遊状態で移動中。45mの体躯の移動は浮遊移動でも人程度の大きさから見れば結構な速度だが、自らの意志で空翔けることの出来るダークネスにとって、その程度の強さの風はどうと言うこともない。
 しかし、ここは雪振る北方。零下の風を真正面から浴びるのは流石に寒かったか、背に負う漆黒の翼を前に回して、軽い風除けにしている。いつもの咥え煙草も、火をつけると風に煽られあっという間に短くなるか、強制消火されてしまうので、今の所は真新しいのを咥えているだけだ。
 とまれ。なんやかんやと、出会いの勢いそのままに。魔物退治ついでに調べものをするつもりの黒親子の案内をラスティが買って出て、現在のようなちょっぴり奇妙な状況になって居る訳だ。
 先に言った通り、ラスティ自身は魔物が闊歩する森の深部まで行った事はないが、街に滞在する魔物狩りらの話を、酒飲むついでの又聞きや、時には直接話しかけて聞き、どういった場所にどういう奴が出たというのを凡そで把握している。
 そんな彼の情報を元にして、テトテトラは森の上空を進行中……おや。
 木陰に蠢くものを認め、ダークネスの漆黒の瞳が鋭さを増した。その脳裏に、精神感応で届いたテトテトラの声が響く。
『ラスが言った強い魔物だね』
「だな」
 短く返しながら、道すがらラスティから聞いた魔物の特徴を思い出す。
 長く伸び、全身を覆う体毛。頭部には枝分かれする巨大な角を具え、体躯もまたそれに見合う程に大きい。普段は四足で移動するが、前後で足の形が異なり、後ろ足には分厚い蹄、前脚は二股に分かれた太い鈎爪が備わっている。顔が牛か鹿かといった所だが、顎先だけは左右に分かれて、動物というよりは虫を彷彿とする。
 一見すれば、あの角と爪と口で攻撃してくるのだろう……と思いきや。もっとも脅威となるのは、身を包む体毛が自在に伸縮し、貫いた相手を石化させてしまうことらしい。
「細くて見え辛いのに、すっげぇ速度で飛んでくるらしいぜ」
 治療の為に一時撤退してくる魔物狩りも結構いるんだよな、と少し前までは元気だったラスティが、思い出すようにしながら話していたのを思い出す。
 それだけの情報があって尚、未だに我が物顔で森を闊歩しているのは、話で聞くよりも余程にあの魔物が強力だということだろう。地上から森に入ると、遭遇までに時間が掛かるのも影響していそうだ。
 とはいえ、魔物側も次々現れる挑戦者を前に、無事では居られぬようで。枝分かれする角の所々は欠けているし、長い体毛にも焦げたり抉れたり切り裂かれたりの様々な傷が、生々しく刻まれていた。
 空からの来訪者に気付き、血走った眼が爛々と輝く。
 ……が。
 こちとら、45mの無敵装甲である。
 咬まれようが引っ掛かれようが刺されようが、尽く弾いてびくともしない。それどころか……
『血抜きするよ』
「ああ」
 事も無げに告げ、これまた事も無げな応答があったかと思うや。
 回転する円弧状の外装から伸びる二本のサブアームが、滑らかな動きで閃く。
 テトテトラが具えるサブアームは全部で四基。うち二基は外装内に仕舞ったままで、見えているのは二基だけ。その二本の先端は今、元々とは異なる形をしていた。
 片や、薄く平たく研ぎ済まされ。片や、棘のように四つに割れ――そう、その形状はまさに、巨大なナイフとフォーク。
 ダークネスが変形を用い意図して替えた二本のサブアーム。使い勝手良さそうな形をしたその先端は、テトテトラの元来の装甲色とは全く違う色にこってりと染まっていた。
 赤黒い、鮮血の色に……!
「……うっぷ……」
 ま、また、またあの光景を見ることになるのか!
 そう考えただけで、胃の辺りから酸味迸る液体が競り上がってくるのを感じるラスティ。細かい事は気にしない、大体のことはポジティブシンキン。トラブルだって「ま、いいか」でやり過ごす鋼の心臓の持ち主に訪れる危機。
 ――森の奥には、噂になって居る『強力な魔物』以外にも、細々した奴が居ない事もない。テトテトラとダークネスは、そういった細々した奴を、此処に来る道すがらに片付けながら森の深部を目指していた。
 専門職には及ばないかも知れないが、ラスティとて一端の閃士。戦いの心得くらいはあるし、血飛沫を散らしあう激闘の末に魔物が倒される現場も、見たことがないわけではない。
 だが、それでも――!
 ――さっきのあの魔物に関する詳細な解説は役に立ったんだろうか。むしろ必要あったんだろうか。そう思わざるを得ない位に、抵抗虚しくフォーク部分に一撃で串刺しにされる魔物。
 刺し貫かれた魔物は、そのまま固定。そして、フォークで縫い止めたその首根っこを、ナイフ側がさらりと掻っ捌く。飛び散る血はそのままに、突き刺したままのフォークをくるりと取って返せば、逆様になった魔物の中からどんどん抜けていく血。
 零れ出る血が少なくなると、次に始まるはお待ちかねの解体作業。
 魔物の死体をフォーク側で、時に突き刺し、時にはそっと押さえと、必要に応じて適切な力加減で固定しつつ、ナイフ側で腹を裂き皮を剥ぎ内臓を選り分け筋に沿って骨と肉を別け――
 ……よし、だめだ。もう駄目だ。だってこれで四回目!
「うげるばごぶぶ」
 かくして、道すがらの解体作業を度々目にしていたラスティの鋼の心臓も限界突破。紺藍色の中にすっぱいものを逆流噴射。
 だが、コア内は煙草の排煙も自動制御される謎のクリーン空間。もやもや〜んと拡散される酸性の体液は、やがてどこかへ溶けるように消えて行く。
 それ故か、コア内にマーライオンされてしまっても、テトテトラは特に焦るでもなく解体作業を続けながら。
『ネスー。ラスが吐いた〜』
 呼びかけられたダークネスも、コア内の惨状を目の当たりに気遣いを見せるが。
「乗り物酔いか」
『これが乗り物酔いってやつなんだね』
 不正解。
「外の空気でも吸うか?」
 ほら、出してやれ、との保護者の言に、テトテトラは勿論素直に応じる。
 テトテトラもテトテトラなりに考えたのだろう、なんだか大変そうだからという理由で、若干急いだ風にぺいっとラスティをコアから排出する。
 ……解体現場の脇に。
 立ち込める血の臭い。周囲にはやけに美しく陳列された臓腑。しかも、工作艦の正確無比なナイフ捌きのお陰で解体速度が異常に早く、別けられた部位からは新鮮さを表すかの如き湯気が立ち昇っていた。嬉しくない。そんなできたて嬉しくない!
 しかも、あろうことか、謎の換気が行われるコア内の方が空気が余程美味しかったではないか!
 そんな思考がぐるぐる回ってるラスティの目の前では、事も無げに作業を続けている一人と一機。
『この形、凄く使い易いね』
「テーブルマナーも覚えられて一石三鳥だな」
『この魔物、胃の中空っぽ。食べなくても強くなる? もう食べたあと?』
 ……最初のびっくり解体ショーを見た時。ラスティはダークネスに対し。
「機動生命体ってすげぇなぁ。魔物狩りより怖ぇわ。良くコイツのパートナーやってられるな、あんた」
 なんて、言ったものだが。
 今なら判る。
 この二人は、成るべくして成ったパートナーであると……!
 とまれ、盛大に吐いてはしまったものの。中身をぶちまけたお陰で、若干胃の中はすっきりしたし、四回目ともなるとラスティ自身もまぁこういうもんなんだなという楽観、もとい、諦観を覚えつつある。あと、突っ込みどころも多すぎて追いつかないので、それについても「ま、いいか」で諦め気味だ。顔色は相変わらず冴えないが。
 なんやかんやと解体を終え、綺麗に分解された魔物の遺骸を――以前に解体した三体のものも含め、テトテトラがこれまた綺麗に並べている最中。
 咥え煙草に火を灯し、蒸気混じりの白い煙を一つ吐くと、ダークネスは漆黒の翼を羽ばたき、機嫌良さそうに作業しているテトテトラ周囲の森の上を旋回する。
『魔力はどう?』
「多少、強まってる気はするぜ。深い所に鉱脈があるのかも知れねぇな」
「……ん? 鉱脈って、何だ?」
 生白い面持ちのまま、二人の会話――といっても、コアから出てしまうと、聞き取れるのはダークネスの肉声だけだが――を聞いて、小首を傾げるラスティ。
 ……ふと、元々薄暗かった森が、更に暗さを増したのは、その時。
 南から差す陽光が遮られ、長く伸びて森の一部を覆う、細長く大きな影。
 逆光を浴び、暗色に沈む輪郭の中で、二つの光点がコバルトブルーに輝いている……
 魔物陳列を終え浮かび上がったテトテトラが、紺藍のコアにその姿を映し。
『ジョンだ。ジョンー』
 精神感応で呼びかけながら、伸ばしたままのサブアームを、手でも振るように円弧状外装と共に回して見せる。
 そう、鮮血に染まったナイフとフォークを、くるんくるんと。
 ……順調に等速で進んでいた機影が、その姿を確認した途端に、ぴたりを動きを止めた。
 止まるどころか、唐突に機首を取って返し、即行で方向を転じる。
(来てはいけない所に来てしまったようです)
 よもや、こんな所で魔物の華麗なる解体現場に遭遇しようなど予想だにせず、即離脱の構えで銃身の如き機体を北東方向へと翻す。
 そんな、ジョナサンが戦略的撤退を始めようとした一方。
 翻った機体の側面、描かれた海鳥と錨のノーズアートが、森の木々の隙間から垣間見える。
 白地に青いラインが鮮やかな、410mの巨躯の突然の登場に、ラスティは気分が悪かったことすらも忘れ、
「うわー! でっけぇ! すーっげぇ!!」
 黒い瞳を子猫のようにきらっきらに輝かせ、空に向かって叫んでいた。
 そして、これが原因で。
 黒親子二人は、外の空気を吸ったから乗り物酔いが収まったのだなと、勘違いを加速させていたりするのだが、『ラスは乗り物酔いの人』という誤解が解ける日は来るのや否や。

第五節
 海鳥が鳴き、大波小波揺れる、大海原。
 水を割き、波を掻き分ける、長い機首。
 東回りのお散歩コースももうじき終点――いや、むしろこれが始まりか。白基調の長身を半分水面に沈ませて、ジョナサンはまるで海洋船舶のように濃淡麗しい青の世界を進む。
 そして、そんな光景を、薄っすらとしたコバルトブルー越しに見遣り、ひゃっほいひゃっほい大興奮している青年が一人。
 ――つい数刻前の、鮮烈な出会いから程なく。
 なんと、ラスティはジョナサンと一緒に、北の洋上に居た。見知らぬもの大好き、面白ければ容赦なく首を突っ込む彼は、奈落の口調査に出かける所だというジョナサンの話に、躊躇いなく同行表明。
 ……出会いが、非常に非情な現場だった事を除けば、友好的な人物に協力を仰ぎたかったジョナサンと、メナス以外の土地に憧れがあるラスティとは、図らずも思惑が一致していた訳だ。
 かくして、現地協力者を獲得、恐ろしい現場からも離れ、我が家と称して過言でない海に身を浸し、充実感すら覚えつつあるジョナサン。
 悠々と進む周囲に広がるは、一見穏やかな大海洋の景色。
 しかし、沈ませた半身を引き寄せる『流れ』は、徐々に徐々に強まりつつあった。
 噴炎を止め海上に身を委ねれば、410mの巨躯をも運ぶ強かな力を感じることが出来る。海上を渡る気流もいよいよ穏便でなくなってきたのか、周辺を舞っていたはずの海鳥の姿がいつしか消え失せている。
 ……前方、俄に現れる、濃く暗い筋。
 深い青をも凌駕し、黒く沈む海溝の印。
 不意に、海上へと浮かび上がるジョナサンの身体。波飛沫を纏い海面から離れた機体下部、纏わりついた海水が白地に施された青いラインを伝い落ち、雨粒のように水面に沢山の波紋を拵えた。
『これが奈落の口ですか』
 ごちる前方。一面の青の中に一筋、南の水平線まで延々続く黒が、二つのコバルトブルーに映り込む。ラスティはラスティで、トランペットほしさにショーウィンドウに張り付く少年宜しく、ぎりぎりまでコア内壁に寄って行って、外の様子に釘付けだ。
「すっげぇ、こんな風になってんだな」
 惑星を東西に分断しているといって過言ではない、巨大海溝。
 ――この最近、西方大陸西岸『魔の領域』で、高純度の魔鋼が大量に眠って居ることが発見された。
 一方で、東方大陸は最果ての都碧京は、碧く輝く純度の高い魔鋼の産出地として有名だ。
 ……では、その両者の合間に横たわる、奈落の口は?
 それが、この惑星の海が抱く謎の一つたる『奈落の口』ついて、ジョナサンが最初に抱いた疑問であった。
 それに、もう一つ。魔の領域にはあれ程大量の魔物が湧き、魔都スフィラストゥールはその対処に苦慮しているというのに、地図上で見ればごく近い位置にある碧京は、魔物被害について殆ど耳にしない。これはもしや、奈落の口が天然の障壁となって、東方大陸への魔物の大量流入を阻んでいるからではないだろうか――
 謎が呼ぶ謎。
 しかし、海というのはそういう謎を孕んでいるもの。
『素晴らしきかな、海』
 さぁ、早速調査しようそうしよう。先ずは端から端まで、順に見てゆこう。
 何処かうきうきした様子すら滲ませて、海洋に引かれた黒い線の上を辿り始めるジョナサン。
 北限を発ち、南下して行く機体。そのコバルトブルーのコアが少年のようにきらきらして見えるのは、きっと、南から差す陽射しのせいだけではないに違いない。

 ――二つの陽光は連れ立って、遠く南方を転がるように通り過ぎる。
 空に浮かぶ天体といえば、もう一つはそう、あの暗い双子星。
 とある住人は、そういえば暫く見ていないなと、思い出したように零す。この所の北方は、濁った雪雲に空を覆われっぱなし。仮に、双子星が幾度か街の頭上を通り過ぎていたとしても、雲より空よりずっと高い場所を巡って居る以上、空を仰いで見えるはずもない。
 もっとも、近づけば魔力が高まるという性質上、魔術因子を持つ地上人はたとえ目視できずとも、頭上にあれば感覚的に存在を察知できる。
「黒い星がどうのつう話、前も聞いたな」
 ふいと天井を見上げ、穀物酒片手に記憶の片隅を探ってみるアンノウン。
「あれが上にあると、魔物っつうおっかねえのが元気になっちまうんだっけか」
 両隣、特に示し合わせたでもなく――野良仕事を終え、一杯やりに来たおっさんの間に、アンノウンが割り込んだのだが――一緒になって酒を飲んでたおっさん連中は、赤ら顔でその通りと相槌を打ちながら、魔都は凄かったらしいなー、と聞きかじった噂を口にする。
 ……なんて具合に。
 アンノウンは既に、メナスの街に馴染んでいた。
 街というより、街の人々に、というのが正確な所だが……それよりも何よりも目を見張るのは、惑星ティーリア言語の上達っぷりだろう。
 いつの間にやら、日常会話ならば殆ど聞き間違いをする事が無くなっている様子。発音に関してはまだまだ片言感が拭えず、聞き返され言い直す頻度が高いにせよ、身振り手振りを交えての意思疎通は段々と様になってきており、それなりに『会話』っぽいものが成立しつつある。
 やや距離をおいての座席位置。みちるはそんな光景を、遠い眼差しで見つめる。
「名無し先生のラブパワーまじぱねぇ……なんという置いてきぼり感。さむい。これはさむい。心が。そうだ、こんな時は空想だ。わぁ、ライのコアの中、温かいナリィ……」
 細々とおつまみを頂きつつみちるが現実逃避している最中。
 酒も入っていい気分な野郎共の話題は、街での悩み事へと突入しつつあった。紆余曲折、ひょっとするとメナスへ辿り着いたのは手違いによるものかも知れない。しかし、困る人あれば首を突っ込まざるを得ない。趣味の人助けに過程や場所を選ばない、それがアンノウンという男!
 ……と、言いつつも。
 街の住人に混じって魔物狩りの姿を頻繁に見かけることから、ある程度察しは付く。メナスでの現状一番の悩みは、森に出没する魔物だ。
 世界各地、いつでも何処でも時節を選ばず、所有能力や容姿強い弱いすらもばらばらで、ある日突然湧いて出て来て襲ってくる……というのが、この惑星における魔物に対しての常識。それ故、規模がある都市は専門に騎士団を組織するし、辺境は一人一人が最低限身を護れる程度の技術を持っておくようにと、教えられて育つ。魔物狩りという戦闘専門職が成り立つのも、そのためだ。
 メナスには以前にも一度、西の森に強い魔物が出たことで話題に上り、一般的な辺境の街にしては非常に多くの魔物狩りが滞在している時期があった。ただ、その時に『腕試し』目的で街に居た魔物狩りの多くは、数ヶ月前のスカウトに応じ、今は遥か空の上。
 無論、魔物を放ったらかしにしていった訳でなく、その当時に猛威を振るっていた魔物は征伐され……今、西の森を騒がせている魔物は、当時の魔物とは別の手合いである。新たに発生したのか、最初に出た強力な魔物のせいで活動範囲を森の奥に追いやられて姿を見かけなかっただけなのか、その点については定かではないが。
 一方で、あくまでも魔物狩りは魔物を狩るが本分、と確固たる矜持を持つ者は、街を脅かす魔物と戦うべく、散発的にメナスへとやってくる。アンノウンがここへ来た時、丁度乗り合わせていた重装備の人物がまさにそうだ。
「ってもよ、それもうあの黒親子が片付けちまってんじゃねえ?」
 艦種最弱の工作艦ですら、人類からすれば驚異的戦力である。アンノウンの予想通り……むしろ、予想を上回る勢いの恐るべき光景にラスティとジョナサンが遭遇しているわけだが、それはさておき。
 とまれ、今まで方々で訪ね聞いた様子だと、大都市外の街や都市での目下の悩みは、何処も魔物に対するものが主流らしい。人的被害への懸念は勿論、あれがもし街中までやってくると、家畜や作物、家屋など、被害に遭うものは多岐に渡る。辺境なら尚更、総じて交通の便がよくない為、避難してやり過ごそうにも『どこで?』という話になってくる。
 だからこそ、専門の魔物狩りが居れば心強さも一塩、なのだが……前述の通り、辺境は交通の便が悪く、物流もよくない。情報が行き渡るのも遅いし、強い魔物が出てそれを知った強い魔物狩りが現地に到着するまでにも、当然時間が掛かる。たまに、移動を得意とする者が居て、一昼夜掛からず単独でやってくる事もあるが、やはり少数派だ。
「ここ来る時も、船凄ぇ少なかったもんなあ」
 辺境といえば交通の便が悪いのは大体同じだが、このメナスのある北方大陸という土地は、他の地域よりも見所自体が格段に少ないようで、運行されている船の本数がまた極端に少ない。定期便を探すより、暇してる船乗を自主的に探して頼む方が早いくらいだった。
 逆に言えば、こんな不便な所だからこそ、以前居た街で世話になったおかみさんが、『悩みの一つ』として知人がいる『北の方』のことをアンノウンに話し、彼は彼で気まぐれとノリの赴くまま、遠路遥々実際にメナスまで来る結果をもたらしたのだが。尚、当時はまだアンノウンのヒアリング精度が低めだった為、おかみさんの言った『北』が、単におかみさんの所在から見て北の方角のことだったのか、本当に北方大陸を指していたのか、今となっては知る術もない。
 ……とまれ。そんな、酒の入ったおっさん連中の、愚痴にも似た物言いを聞くうちに。アンノウンは街の人々が抱える問題の本質的な所が、うっすら見えてきたような気がするのだった。

第六節
 魔物というのは、魔力の異常や暴走によって突然変異した動植物の成れの果てである。
 ……世界各地、古来より通説として、同じように言い伝わっていたものの。
 通常の動植物が、実際に魔物へと変わる瞬間が目撃されたのは、つい数ヶ月前。その目撃者というのが――
『ネス、あったよ』
 森の深部に掘られた、巨大な縦穴。
 その中から、ふわりと浮き上がって姿を現した機影は、泥んこ遊びでもしたように、灰と漆黒の装甲を所々茶色く汚している。
 だが、汚れよりも一際に目を惹くのは……
 穴蔵から少し離れた大木の袂。着崩した黒い軍服姿の長身は、サブアームの先端に携えられた暗赤色の鉱物を眼鏡越しに一瞥し、ふっ、と紫煙を吐いた。
「中々上等だな」
 碧京産や、魔の領域産の一級品には遠く及ばないにせよ、光を蓄え輝くことが出来る程度には、透明度があるのだと判る。高純度三級品、といったところであろう。
 まぁ、高純度分類されるだけでも、相当な掘り出し物だが。
『ここの魔鋼は赤だね』
 コアと魔鋼は性質が似ているという。
 だが、コアにおける赤色は、機動生命体が命の危機に瀕している証。とすると……?
『魔鋼にも耐久力に差がある? 他の色より脆い?』
「どうだろうな。ラボの所長なら詳しいんじゃねぇか?」
 暗赤色の魔鋼原石を携え、くるくると外装を回すテトテトラ。
 ダークネスは咥え煙草で翼を羽ばたき、ひらりとテトテトラのコアの側に降り立つと、大地深くに穿たれた巨大な縦穴を見下ろす。
 まだ幾らか魔力らしい反応は感じるが、もう既に相当な深さ。これ以上掘ると、魔鋼以外の……まかり間違って、海水やらマグマやらを掘り当てようものなら、それこそ魔物以上の大惨事に成り兼ねない。大きな塊は掘り出せたようだし、採掘はこの辺りでやめておくのが賢明そうだ。
「これで魔物の発生は大分減るだろう」
 魔物というのは、魔鋼の気配が全く無い場所にも、いきなり現れることがある。
 それ故、魔物へ変異するきっかけ自体は、魔鋼を含めて複数あると考えられるが……魔力の異変がそもそもの原因である以上、魔力にもっとも作用し易い魔鋼を取り除くことで、変異確率を格段に下げることができるはずなのだ。
「ま、これで一段落だな。その穴埋めたら、砂漠の魔物も片しにいくぜ」
 元々はそのつもりだったしなと、煙を噴かすダークネスに、テトテトラはランドルト環状の中心装甲をくるくる回しながら、外装に収納していたサブアーム四基を全部使って、速やかに掘り出した土を元の穴へと流し込んでいく。
「砂漠に行ってる奴いるんだったな。状況判るか?」
『ライアだね。聞いてみる』
 精神感応で応答が行われる僅かな間、不意に訪れる沈黙。
 ――やがて、直ぐに。
『追い込みしてる所だって』
「そうか」
 どうやら、まだ片付いては居ない様子。広大な砂漠の何処にいるかわからない相手と、街の隣の森とでは探索範囲も随分違うだろうし、時間差が出るのも当然か。
 それでも、丁度これから討伐のクライマックスフェーズではある様子。向うに着く頃にはもう終わっているのか、それとも、第二派掃討作戦に移行しているか……大体そんな所だろうか。
 斯様な事を考えているうちに、あっという間に埋まってしまう縦穴。流石は工作艦、仕事の早さと正確さは機動生命体随一である。
 ダークネスを紺藍色の中へと回収、解体した魔物の毛皮やら牙やら骨やらの使えそうな部分と、穴から掘り出した大小様々な暗赤色の魔鋼を一纏めに携えて、テトテトラはメナスの方角へと動き出す。
『毛皮で上着作ってもらう? 要らない?』
「俺はいい。これから暑い所に行くしな。名無しにでもやったらどうだ?」
『そうしてみる。みちるも要るかな?』
 空色の噴炎を灯せば間もなくに、白く積もる雪の真ん中、ぽっかりと穴が空いたように姿を見せるメナスの街並。
 そういえば、名無しやみちるがいた星には、雪で作った家があった。
 ぽろりとテトテトラの溢した異星の話に、ほう、と漏れる低い声。メナスを見れば判る通り、惑星ティーリアの寒冷地は、大体が魔術で防寒対策をしている。放って置くと溶けてしまう雪を建材に使うというのは、実に不思議なことだ。
『バリケード作ってもいい?』
「ん? ああ、構わないぜ。お前さんなら時間も掛からねぇだろう」
『直ぐに作るね』
 戦利品は、街の入り口にどちゃっと置いて。
 先端を扁平型に変形して貰ったサブアームを流れるように動かし、わっしわっしと雪を掻き集め、圧力を掛けてと、見る見るうちに街の西側にできて行く雪の壁。いや、強固に押し固められ結合した白い塊は、もはや雪でなく氷壁だ。
 街の人々がなんだなんだと見守る最中。テトテトラは氷壁の一塊を前に、ふと。
『雪や氷、砂漠に持っていったら、物々交換になる?』
 魔術を使えば、ある程度の気候操作もできなくはない。しかし、それはあくまで、暑さを凌ぐとか、飲料水を作るとか、生活に根ざしたものが大半――メナスが、障壁で吹雪から街を護っているのと同じように。
 だから恐らく、積もるほどの雪や氷は、珍しいのではないだろうか。
 瞬き幾つかの間に、そんな逡巡を経て。
「なるんじゃねぇか?」
 ダークネスはふっと細い煙を吐き出しながら、そう答えた。

 ――北から南へ。
 眼下に黒い隙間を望みながら、緩やかに進む長身の機影。
 何者も海を隔てる線上を渡ること叶わず、海洋系の人外の徒ですら流れに捕まれば戻ることができない。何人も近づかぬ、海の秘境。
 斯様な前評判の通り、奈落の口周辺は一種異様な雰囲気。
 一度流れに捕まると、本当に脱出不可能なのだろう。海上・海中だけでなく、周辺海域上空にすら、生き物の姿が全く見当たらない。そして、ああ、これは通常の生物なら脱出不可能に違いない、そう思わせる状況を、ジョナサン自身が今まさに体験している最中であった。
『私が機動生命体でなければ、危うく吸い込まれてしまった所です』
 海面からの距離、およそ、1km。
 だが、それだけの距離を保って尚、410mもあるジョナサンの身体を、不可解なまでに強い下降気流が海面へと引き摺り降ろそうとする。意識さえしていれば浮遊だけでも引きずり込まれることはないが、ぼうっと浮んでいるだけならばそのまま着水して海底の奈落へと吸い込まれてしまいそうである。
 ……仮にぼうっとしていて流れに飲まれたとしても、そこは機動生命体。噴気孔を使って然るべき推力を得れば、瞬く間に脱出できること請け合いだが。
 さて、そんな奈落の口。上空から見てくっきり黒いのは深さのせいだけかと思いきや、吸水口となっている裂け目の部分は、近づいてみれば存外に幅広い。恐らくは、異常な速度で流れ込む大量の水が、日々裂け目の淵を削り取っているのだろう。
『広々しているのは入り口だけでしょうか』
 遥か上空から見れば、黒いものが一本見えるに過ぎないが、海面に近い所からよく見ると、この幅広い線に濃淡があるのがわかる。海の青との境目は傾斜が緩いのか幾分か淡く、線の中央に進むにつれ徐々に濃くなっていく……と思いきや、中央部からの一定の幅だけは、別の線をもう一本引き直したかのように唐突に濃くなっていた。
『濃淡の極端な差は、深部から急に幅が狭くなっているからですね』
 それに、海流の速さと不可解な下降気流の他、近づいてみて始めてよく判ったことがある。
 真っ直ぐな線に見えている吸水口も、実際には細かな蛇行やいびつな輪郭をしており、亀裂の幅自体も均一ではなく……それら地形の微弱な差のせいか、はたまた、海溝の底に秘密があるのか。吸い込まれる水の勢いや、荒れ狂う下降気流の強さも、場所によって少しずつ違っているようなのだ。
 しかも、その風速や潮流の差は、『超速い』と『超絶早い』くらいの、要は最低値ですら凄まじいものであり、人類が感覚的に差異を判断するのが至難な状態。
 こういった、近づいてみたら判った程度のちょっとした発見ですら、今まで地上人には成しえなかったこと。ジョナサンが調査に来た成果は十分あるというものだ。
 それにしても、見れば見るほど凄まじい吸水量。
『吸い込まれた海水は、何処へ行くのでしょう』
 銃身のような我が身を物差し代わりに、細まった箇所と、広がった箇所の幅広さ――大体、狭くて350m、広くて2km程度か――を確認しつつ、ふと過ぎる考え。
 これだけの規模で吸い込んでいれば、同様の規模で出水する箇所があってもおかしくはないが、奈落の口に匹敵する大規模な出水地形は、地上人の間では全く知られていない。海に関し詳しいであろう船乗達からも、そういった話は聞かなかった。
 魔鋼なんて特殊な鉱物が存在する以上、惑星の内部構造が通常の岩石惑星とは異なる性質を持っている可能性は否めないが……中央大陸西部にある『炎の谷』の話からすると、ティーリアの内部に他の岩石惑星と同じマントル対流が存在するのは間違いない。ただ、存在自体は間違いないにせよ、炎の谷一箇所だけを見て断定してしまうのは早計かも知れない、とも思う。大体にして、魔物やら魔術やら、この奈落の口という地形もそうだが、惑星ティーリアという星自体が、今まで見てきた人類生存可能惑星の定義に当て嵌まらないものを沢山持っている。今までの尺度は考証には十分使えるが、それだけでティーリアの全てを知ることはできないだろう。
 ……但し。
 今まさにこの眼――コバルトブルーの二つのコアで以って目撃し、確信した事が一つある。
 流れる潮と、吹き降ろす風の音だけが友。そんな、生命の気配の失せた青と黒の交わる秘境に、珍しい客人が!
 ぎぇえ、ぎょあぁ、とけたたましい叫び声を上げながら近づく、翼の生えた小さな影――魔物だ。
『見るからに恐ろしいものが近づいているではありませんか』
 あの面構え。
 あの叫び声。
 なんて恐ろしい。
 ……というか、魔物を見ていると、少し前に見たもっと恐ろしい余計なことまで思いだしてしまう気がする。
 身震いの表現なのか、巨大な体躯を軽く揺らし。
 ジョナサンは――もしも人類でいうところの『顔』が何処かにあったなら、間違いなくきりりとした面持ちを連想する声色で、冷静にごちる。
『これは、やるしかありません』
 二基の噴気孔と三基の高出力噴気孔に、即座に灯る蒼白の噴炎。そう、ジョナサンが取るべき作戦は一つ!

 戦略的撤退ッ。

 ……かくして、速やかに飛翔する、白地に青ラインの機体。
「倒すんじゃねぇの!?」
『だって恐ろしいではないですか』
 的確な突っ込みにも平坦に返し、下降気流をものともせぬ巨大な体躯が、魔物が飛ぶよりも更に上空へと持ち上がる。
 その真下で。
 大海洋に横たわる黒を渡ろうとした魔物が、黒の上に差し掛かるよりも早く強烈な風に捕らわれ垂直落下、水飛沫を上げ海面に落ちたかと思うや、その姿は瞬きする程の僅かな間に、深淵の底へと飲み込まれ見えなくなってしまった。
 ……そして、奈落の口を極地から極地を辿り進む調査紀行の最中、そんな光景を目撃したのは一度や二度ではなかったのである。
『予想は当たっていたようです』
 地図上にはごく近い魔の領域と東方大陸。東方大陸に魔物が大量流入しないのは、奈落の口が天然の障壁となってそれを阻んでいるから。
 ……どうやらこの件は、そう結論しても良さそうである。
『あとは、両者で摂れる魔鋼純度との関連性でしょうか』
「あ、鉱脈ってそういうことか」
 ぽんと手を打って、グロ親子、もとい、黒親子が別れ際に言っていた事を思い返す。
 少しばかり集中し、意識を魔力感知に傾けてみると……確かに、何と無くではあるが、奈落の口周辺は少しばかり魔力が強いような気はする。同時に、物凄く遠くにあるような、そんな感じも覚える。
『浅い位置には無いということですね』
 吸水口周辺も、蛇行して見回ってみたが。
 魔物らしきものは、大体が東――魔の領域のある方面を、獲物を求めて彷徨っていた。遊泳力や飛行力を用い、ぎりぎりで海流や気流に飲まれない地点を回遊し、海鳥やら海生生物やらを捕食している模様である。
 しかし、見かけるにしても大量と言うほどでもない上、奈落の口付近を泳いでいた魚が魔の領域のように急に魔物に変わるといった現象もない。もっとくまなく調べれば、比較的浅い位置にある海底鉱脈も見つかるかも知れないが、少なくとも奈落の口近郊の海洋表層部には、目立った鉱脈は存在しないようだった。
 ……そういえば、メナスの街も、地理的には奈落の口の北側極点から結構近い。
 そう考えると、メナスの近くの森に『強力な魔物』が出没したことすら、何か関連があるのではないかと思えてくる。件の黒親子らも、森の地下深くに鉱脈があるかも知れない……といった話をしていたし。
『海溝の底に秘密があるのでしょうか? 益々謎めいていますね』
 流石に、深部の状況については、上からの観察と探知だけでは良く判らない。
 場所を選べば、ジョナサンが潜航できる幅の亀裂もあるし、無敵装甲がある限り機体が傷つくことはないだろうが……コアはそうは行かない。何しろ、弱点と言わしめる程に、機動生命体の体躯の中では強度の低い部分だ。惑星深部の水圧に、果たして耐えられるのか――?

第七節
 半ばまで融けかけた雪を携え、ダークネスをコアに乗せ、砂漠商都へ向かうテトテトラ。
 そういえば、シェハーダタには輸送艦用の発着場なんてものがあるらしい。
 それから――オペじいから聞いた話だと、沙魅仙が『ワールドマーケット』なる特産品バザーを開催する構想を練っているらしい。
『色々出るんだよね。雪と珍しいもので物々交換できる?』
 集まる情報と、集まる人……
 バザーって、物以外を売り出すのも、ありなんだろうか?
 きません――機(き)動魔(ま)閃(せん)護撃士団の略称らしい――に、対侵略者とは別に、対魔物被害相談や機動生命体派遣所の側面があったら、みんな助かるだろうか?
『ネスは万屋なんだよね』
「まぁ、そうだな」
『お手伝い斡旋事務所とか、あったら便利?』
「あぁ、受付場所を作っちまうわけか」
 構想自体は、悪くはないかも知れない。
 紺藍色の中で、紫煙をくゆらせながら、長身は暫し、己の内側へと思考を沈ませる……

 ジョナサンと行く! 〜奈落の口・極地から極地往復ツアー〜
 ……を終え、再びメナスへと戻ってきたラスティ。
 調べてる最中にもっとでっかい銀色のも飛んでた! と興奮気味に語る彼に、ああ、たぶんディアナ・ルーレティアかなぁと、良いの回った頭で考えるみちる。
「あれっ。名無しは?」
「……あんたの部屋で寝てる」
「何でだよ!?」
 どうやら、親父である酒場の店主と仲良くなって、息子も出かけてるし使え使え、となってしまったらしい。そして、それを「ま、いいか」で済ませてしまう息子も中々のものである。彼はきっと、西の森での衝撃体験から生き延び(?)て、一回り成長したのだろう。主に鋼の心臓の強度が。
 何はともあれ、初めて出会った異星人、初めて見聞きしたメナス以外の世界に、ラスティの世界への憧れは益々膨らむ。
 街を出ようかなぁ。
 どうしようかなぁ。
 より強くなったそんな思いを感じながら、青年は白く染まった南の地平に沈む陽を、窓越しにじっと眺めるのだった。


文末
次回行動指針
 W11.他所の土地へ移動だ!
 W12.奈落の口が気になる
 W13.メナスはここにあるぞー!

登場キャラクター
■【称号】キャラクター名(ふりがな)/種族/クラス/年齢/性別/

【PC】
■【解体主義】テトテトラ/機動生命体/工作艦/861歳/無性/テトラ は テーブルマナー(多分) を おぼえた!
■【放任主義】ダークネス/地上人/人外の徒(グリフォン)/39歳/男性/ネス は うっかり きた へ はこばれた!
■【第一街人】ラスティ・ネール/地上人/閃士/20歳/男性/ラス は のりものよい(偽) を おぼえた!
■【愛】アンノウン/異星人/巧錬の民/37歳/男性/名無し は げんちのことば(日常) を おぼえた!
■【海は家】ジョナサン/機動生命体/輸送艦/92歳/無性/ジョナサン は ならくのくち を しらべた!

【NPC】
■彩灯 みちる(さいとう -)/異星人/巧錬の民/21歳/男性/ぼっち安定。

マスターコメント
 ようこそCORE本編へ!
 などと陽気に言ってもおれぬ初回からの失態続きに、実に申し開きのしようも御座いません。

 愛は偉大です。
 そんな地上、こちらは北方と海が舞台となりました。
 ネスさんは本文の通り南方を片付ける算段でおられたのですが、移動手段のテトラさんが北行き指定だった為、判定の結果そのまま北まで連れ去られてこのような結果に。
 とまれ、予想外に色々な事が判り、色々な疑問が増えたのではないかと思います。解決するも良し。放っておくもまた良し。
 尚、本作はシナリオ移動も自由です。別の選択肢を選んで頂いても構いません。お好きな位置へお好きなように動き回ってみてください。
 惑星ティーリアでの生き方は人それぞれなのです!
 ……などと、それらしい事を言っておきます。

 それでは、出来ますればまたお会いできますことを。