子午金環
第一節
 山岳を越え、西へ過ぎ去った巨大な球体が、また東の果てから昇ってくる。
 並んで空を巡る太陽とは別に、大地に影を落とす黒い星。
 東から昇り、西へ沈むのは変わらないが、空を横切るその軌道は毎日毎時違うという、惑星ティーリアの双子星。
 この数日の間にふいと、魔都スフィラストゥールの上空を跨ぐようになった黒い球体を仰ぎ見て、アンノウンは両腕を頭上に掲げ、目一杯に胸を逸らせて伸びをする。
「いやー、飲んだ飲んだ」
 もはや、すっかりと街並みに馴染んだ様子で。夜明かしをした酒場前、ギターを脇の壁に立て掛けて、準備運動宜しく腕を振り回している彼に、道行く人が挨拶代わりに軽く手を挙げる。
 双子星に纏わる不穏な話は、およそ街中の知る所ではあるが、スフィラストゥールは他の主要都市に比べて都市圏がかなり広い。そのせいか、アンノウンが主な活動範囲としている――別段、彼が意図しているわけではないが、なんとなく気紛れで――場所は比較的穏やかで、危急を要するらしい事態も、雑談を盛り上げる噂話といった風情だった。
 とはいえ、完全に他人事かといえばそうでもなく。
 息子が、娘が騎士をやっているんだ、とか。
 母親の実家が障壁沿いなんだ、とか。
 友人が砦近くで働いてるんだ、とか……
 そんな、当事者ではないが無関係でもない者達の間には、じわりとした不安の影が漂っている。
 壊れたという守護塔の現物は、先日、ダークネスの手伝いをした時に確認はしたものの……中に登って観光できるわけでもなし、外観が特別芸術的というわけでもなし。一見すると存在感たっぷりに聳え立っている巨大建造物というだけで、何かどう凄いのかいまいちピンと来ないのが、アンノウンの正直な感想だった。
 それでも、酒盛りしたり、飯を奢って貰ったりする度に、『守護塔』やら、『障壁』やらの単語が会話の中に増えていくことから、それが街の人々にとって余程大切なものであろうというのは、感覚的に理解出来る。割とノリで生きているアンノウンには、守護塔の重要性を懇々と説かれるよりも、毎朝傷んだ果物を分けてくれる八百屋のおっさん、酒場で管巻いてるおやじ共、皿洗いのまかないに美味い飯を出してくれる食堂のおかみさん……出会い、知り合った市井の住人から零れる素朴な不安の欠片のほうが、余程感情を刺激した。
 何だかんだで広がった人脈のお陰か、広く浅くではあるが、情報だけはそれなりに集まっている。
「ぼちぼち始めっか」
 傍らのギターを背に担ぎ、いつものスタイルに落ち着くと、アンノウンは飄々とした足取りで何処かへ向かって歩き始める。
 そういやあ、暫く前からあいつの姿見ないな、ふとそんな事を考えながら。

 ……アンノウンの言う『あいつ』こと、ダークネスはというと。
 双子星が都市圏上空を巡るようになってから、彼は防護門――渓谷に据え置かれた砦付近に、活動の中心を移していた。
 日々の営みが続く、平穏な風景とは一変。
 実質的に脅威と相対せねばならぬ砦周囲は、異様な緊張感に包まれている。
 平時でも気が抜けない魔物との戦い。守護塔の障壁に頼れない今、地力しか対処の方法がない手前、普段は凡そ規律を重んじ礼節を失せぬよう努めている騎士団も、ちょっとしたことでいさかいが起こりかねない雰囲気。
 ただでさえ魔物の襲来で気が抜けないのに、これはまた面倒な……と、ダークネスは咥え煙草の隙間から、煙と一緒に細い息を吐き零す。
 実際、機動生命体との共闘についても、騎士団内部で意見が割れているらしかった。平時ならそこまで白熱する事もないのだろうが……双子星の影響による『大侵攻』の懸念もあり、余りの緊張感ゆえか、小さな言い争いが次第に喧々囂々、やがて喧嘩沙汰に発展する事例も見受けられる。
 その度に、いさかいの間に入っては、なんやかんやと仲裁を始めるダークネス。
「喧嘩は後でも出来るだろ。その有り余ってるのは、魔物用に置いとけ」
 なんというか、戦うことを生業にしている奴らが相手だけに、街中の喧嘩仲裁より断然気を使う。
 本題に移る前に疲れちまいそうだ、そんなことを内心で呟きつつ、掴み掛かられて一層乱れた軍服の襟元を、軽く整える。元々着崩している為、傍目には余り変わらないが。
 騎士同士ですら、この有様だというのに……再び零した嘆息と共に、ダークネスが眼鏡越しの視線を巡らせる。
 元々、腕試しの魔物狩りが多いのもスフィラストゥールの特徴。だが……現状は、窮地と称すに相違ない。故に、都市運営部の意向もあって、騎士団は四の五の言わず戦力受け入れを行っており、魔物狩りの数も平時の比ではない。
 ごった返しているのに、言葉少なく。殺気立った者達の無骨な足音が、やけに耳に残る。
 詰め所として解放されている砦内部は……何か取り決めでもあったのか、と疑いたくなる程に、騎士と魔物狩りで、すっぱりと居所が分かれていた。
 本来なら、協力して事に当たるべきなのだが。『防衛』を旨とする騎士とは違い、魔物狩りの多くは『戦功』を優先する傾向にある。微妙に相容れない思想の違い。両者の間にある溝は、物理的な距離感となって、目に見える形で顕現していた。
 この状況が、輪を掛けて騎士達を苛つかせている。不和は勝利の大敵だ。しぶしぶでも互いを協調路線に持っていかねば、街の防衛どころではない。無論、騎士達も頭では判っているはずだが……『魔都の騎士』というプライドもあるのだろうなと、ダークネスは大変歩き易くなっている両者の間の通路を、平然と通り抜けていく。
 俄に慌しくなる詰め所内。魔物襲来の報せに慌しく出撃していく人員と共に、ダークネスもまた漆黒の翼を羽ばたき、砦の上空へと舞い上がる。
 さて、どうしたものか。
 ……そう考えている時点で、既にかなり面倒な問題に首を突っ込んでいるのだが。
 案の定、交じり合う事もなく防護門に展開する騎士と魔物狩りの様子を眼下に、僅かな逡巡を過ぎらせる。

 そんな砦付近の緊迫した雰囲気を肌で感じて、利根川 るり(とねがわ るり)はいつものにこにこした表情を、珍しくきゅっと引き締めていた。
 双子星の軌道と魔物襲来の因果は、スフィラストゥールで活動していれば人々の噂話からも自然と耳に入ってくる。そんな物騒な話を知った以上、危険に晒されるであろう人々を正義感の強いるりが放っておけるはずもない。
 とはいえ、自分はつい先日に街に来たばかりのおのぼりさんだ。先ずは地形を把握しなくてはと、瓦礫を片したり、炊き出しの手伝いをしたりする傍ら、魔都の中を歩き回っていた。
 それにしても広い。想像以上に広い。この砦の近くに来るだけでも、思ったより時間が掛かった。素手による戦いを得意としていることや、ナハリ武術館の門下生として日々鍛錬を重ねてきた甲斐もあり、るりにとって長距離や長時間の移動は別段苦になるものでない。それよりも、目的地に辿り着くだけでこんなに時間が掛かって、こんなに街並みや様子が目まぐるしく移り変わっていくなんて。これが都会……!
 感激半分、緊張半分。いつかは騎士に……そんな将来の展望もあり、世界一と謳われる魔都の騎士らがあの砦の向うで今も人々の為に命を懸けているのだと思うと、胸の奥から言い知れない高揚感が湧いてくる。
 さりとて、いつまでも感動している場合ではない。頑張らなくちゃと、いつもの愛想のいい表情を浮かべると、足早に動き始める。
 防護門のある砦周辺には、流石に人家は殆どなく、騎士宿舎や騎士団本部などの大型建造物が多数を占めていた。騎士団は基本的に『街』が組織する団体である為、これらはいわば公営施設。
 そして、そんな騎士らの便宜を図るため、宿舎周辺には様々な種類の店舗が軒を連ねている。
 食料は勿論、日用品、医療施設、武器防具の修繕、補修の専門店……それから、騎士宿舎とは別の、宿泊施設も。こちらは恐らく、腕試しにやってくる魔物狩りが顧客対象なのだろう。
 街が運営しているのか、自然とこうなったのかは、るりには解らないが。なんにせよ、騎士や魔物狩りを相手に商売している『非戦闘員』が砦の周辺に多く居るのは、確かな事実だった。
 しっかり道を覚えておかなくては。ぐっと拳を握って気合を入れると、疲れ知らずな足取りで、周辺の歩き易く安全な通路を……あ、あれに見えるは、憧れのナハリ武術館総本山!
 砦からは随分離れた位置にあるが、独特の景観を持つ巨大建造物は、遠くからでも一目瞭然。通説によれば、武術館の発祥地は東方大陸。総本山が魔都にある理由は、開祖の戦没地であるとか、重要性を鑑みて東方から移されたとか諸説あるが、そんな由来にあやかってか、武術館の建物は東方大陸の文化を意識した、一種独特な外観をしている事が多かった。そして、大きな支部になるほどその傾向が強く……高層建築の多い魔都の中にあっても、総本山の建物は中々の存在感を放っていた。
「挨拶に行かなくては……!」
 思わずそわそわしてしまいながら、いそいそと武術館へ歩を進めるるり。
 ……と、その道中。
 不意に射線の通った丘陵の上で、悠然とマントをなびかせている人影が。
 間違いない!
 途端に進路変更。一目散に丘へと向かうるり。
 ぱっちりした紫の瞳は一点、銛を手に感慨深げに佇んでいる人物をロック・オン。後ろで結んだえんじの髪と、身に付けている小さな球体のアクセサリを軽快に揺らし、るりは脇目も振らず真っ直ぐに、目当ての人物へと駆け出した。

 黒き巨星が天を巡る。
 丘陵の上では、沙魅仙(しゃみせん)が胸を張り、その様を見つめている。
 吹き下ろす乾いた風に乱れる赤い髪。眼に掛かった金色のメッシュ部分を手で掻きあげ、撫で付けると……彼は、眼下に広がる魔都の街並を、黒い瞳に映し込む。
 始まりの街グリンホーンで得た同志は、計七名。沙魅仙が知る限り、七は幸運を呼ぶ数字。偶然か必然か、この縁起の良さも天の采配に違いない。
 ふと、気付けば丘陵を登ってくる数名の人影が。先頭に居るのは勇魚吠(いさなほえり)だろうか。袖のない着衣から惜しげもなく晒した褐色の腕を、ぶんぶんと振っている様が良く見える。
「ロードはーん、全員集めてきたよー」
「うむ、ご苦労」
 背筋を伸ばして尊大に頷き、家臣――と、疑って止まない賛同者達へと、改めて視線を巡らせる沙魅仙。
 食糧確保や炊き出しなど、一連の活動は一定の成果を挙げていると、沙魅仙は自負している。そろそろ、状況に見合った新たな行動指標を定めるべき時であろう……そんな演説じみた言葉を紡ぎつつ、細身な身体で仁王立ち、精一杯の威厳を放つことも忘れない。
「だが、大事を成すにはまだまだ足りない……と、その前に」
 そこまで言った所で、沙魅仙は愛用の銛『鳴海』で、軽く地を叩く。柄の先端、石突部分が足元の小岩とかち合って、かつん、と小気味よい音を立てた。
「貴公ら七名、七にあやかり、我らの組織の名を『ロードナイツセブン』としよう」
 未だ十名に満たない現状、組織と称するには些か物足りない所だが……
 集まった者の殆どが未来に夢見る若者という事もあってか、『自分達だけの特別な呼称』に七人は満更でない様子。名称がなにやら仰々しいのも、若者心に琴線をくすぐるものがあるのだろう。
 沙魅仙はそんな様子に尊大な頷きを一つして見せると、再び鳴海を打ち鳴らし、皆の注目を集める。
「ナイツも『騎士』とは言うが、志を持って集まってくれた貴公らは貴き想いを持つ志士、『貴志』とも言うべきだろう」
「英雄物語の序盤みたいやぁ。こっから苦難を乗り越えたりしてどんどん盛り上がっていくんよね」
 感慨深げに宣言する沙魅仙に対し、かつて読んだ小説を思い出してか、吠がそんな事を言ったものだから、若者達はすっかりその気になって盛り上がる。
 沙魅仙もまた、若者らの反応を満更でない面持ちで眺めながら。
「貴公らの働きに期待している」
 普段なら少し眉を顰めそうになる尊大な物言いも、一旦盛り上がった若者には些細なことらしく。若き『貴志』らは逆にノリノリで、姿勢を正して沙魅仙に応えて見せる程だった。
 ……が、その時ふと。
 ロードナイツセブン発足に、目出度いなぁ、と拍手を送っていた吠が。
「あたしも入ってるん?」
「うむ。何か問題が?」
「せやったらエイトにならん?」
 途端に、あれっ、と貴志らの頭上にも疑問符が浮ぶ。
 すると、沙魅仙はばつが悪そうに、ちょっぴりわざとらしい大きな咳払いを一つして。
「ロードといえどゲンを担ぐもの。細かいことはよいのだ」
「そかぁ、うん、そやねぇ」
 言葉の意味を咀嚼するように、独白にも似た調子で溢す吠。
 成り行きで群れに紛じったり、一人に戻ったり。普段、大海原で気侭な生活をしている自分の性分を考えるに、別のものに興味を惹かれて、ふらりとロードナイツセブンを離れていく時も来るのではないだろうか。それなら、幸運の七に拘りたい沙魅仙の気持ちも含めて、七人と一人、みたいな数え方で丁度いいんじゃないか。
 ふとそんな気がして、吠は明るい表情を浮かべながら、うんうんと頷いて見せた。
 兎角、再び咳払いを一つ、場を仕切り直す沙魅仙。
「それでは、貴公らは引き続……ん?」
 本題を切り出そうとした所で、俄に途切れる沙魅仙の言葉。
 何か見つけたのだろうか。彼の視線は目の前の自分達でなく、もっと後ろを見ている。
 その事に気付いた吠が、背面を振り返るよりも早く。
 聴こえ始めた軽快な足音が、急激に近づいて……

第二節
「ここにいらしたんですね!」
「あ、るりちゃん」
「おお、貴公か」
 一気に駆けつけた割には息を切らせる風もなく、にこにこと変わらぬ笑顔でいるるりに、吠と沙魅仙も表情を緩める。
 駆け込む勢いそのまま飛び込んで抱き付きたくなるのは一先ず抑え、しかし、気になって気になって仕方ない沙魅仙の姿を、るりは若干、いや、ばっちりと見つめて、顔をさらに綻ばせる。
 ああ、皇帝ペンギンが微笑んでる……!
 可愛い!!
 ……そんな思惑は一先ず置いて。
「良ければ私にもお手伝いさせて下さい」
 ぺこり、と礼儀正しく一礼するるりに、沙魅仙は感嘆の声を一つ。いずれ再会した折には誘いを掛けようと考えていただけに、願ってもない。これもまたコウテイペンギン族の威厳の成せる業か……確信と共に湧く感慨深さに、一人頷く沙魅仙。
 ……コウテイペンギン族であるが故、というのは、あながち間違いでもない。
 るりには、沙魅仙の姿が、皇帝ペンギンに視えていた。
 人型であろうと無かろうと、目の前に居るのは皇帝ペンギン。
 流線型の愛らしい皇帝ペンギン!
 ……などと、るりフィルターによって、己の姿が自動的に皇帝ペンギンに変換されているとは露知らず。
「いや、ここはロードとして改めて問おう。貴君、わたしのもとへ来る気はないか?」
 自然と得意げに、そして、より尊大に。
 片手を差し伸べる沙魅仙に、るりはそれはもう溢れんばかりの笑顔。
 尊大に胸を張る姿は、真っ白い羽毛を膨らませているようにしか思えないし、伸ばされたその手も、ペンギンの可愛いフリッパー(翼)にしか見えない。
「はい! 精一杯頑張ります!」
 黄色い声を上げて思わず抱きつく! ……のは、妄想の中だけに留め、るりは両手で沙魅仙の手を握る。それだけで、結構幸せな気分。
 無論、るりが彼を慕うのはただ可愛い姿に変換されているからではなく、人柄や思想など、人間的にも尊敬しているからだ。現にこうして賛同者が集まり、『ロードナイツセブン』として団結したのを見れば、頼るに値する人物として間違いないと感じる。
「宜しくお願いしますね」
 律儀にも、一人一人、握手を交わしたり、お辞儀をしたり。
 そんなるりの姿に、吠は感心した様子で。
「ええ子やなぁ」
 どこかしみじみとした風にも零す吠。
 面持ちこそやや童顔ではあるものの、るりからすると吠は素敵な大人の女性。彼女ともっと仲良くなりたいという気持ちが湧いてくるのも、ごく自然なことだった。
「鯨の姿で大海原を泳ぐのって、どんなに気持ちいいんでしょう」
 泳げないものだから憧れます、なんてにこにこと話するりに、照れるわーと、二つに分けて肩から前に流した髪の片方を弄る吠。絡めるように指先をくるくると回す度に、ふわふわした白とグレーのまだら髪が捩れ、解けて、また捩れと繰り返す。
「でも、なんか判るわぁ。あたしもね、空とか宇宙とかどうなってるやろうって、最近とみに思うんやぁ。あのおっきな機械の子ら来たせいかも知れへんね」
「機動生命体の皆さんも気になりますよね。そうそう、来訪者さん達の滞在地に、パートナー仲介事務所というのができたそうですよ。街で聞きました」
「え、なになに。それなに」
 青い瞳が、ぱちくりと瞬く。興味津々、思わず見開かれた瞳のせいか、吠の童顔がいつもより更に幼く見える。心なしかきらきら輝いている気すら。
 マントをなびかせる姿勢はそのまま、沙魅仙も片方の眉を跳ね上げると、何事か思い巡らせる。
「ふむ、パートナーか」
「仲介かあ……」
 ごちる吠の内心に、むくむくと湧いてくる感情。
 上手く息を合わせられたら、自分でも空からの敵や魔物を迎撃出来たりするのだろうか。
 修復や治癒も勿論大事だが、そも、やられる前にやってしまえば、その必要はなくなる。
 そう、攻撃は最大の防御。
 正確には迎撃だけれど……どうやって防ぐか、災いの元を断つかも、考えんとね♪
 ……なんて、それらしい理由付けをしてはみるものの。
 この機を逃す手はないぞとばかり、吠の好奇心は胸の内で力強くガッツポーズを決めていた。

 さて、そんなできたてほやほや仲介事務所のある滞在地。
 シャルロルテ=カリスト=アルヴァトロスの銀の眼差しが捉えるのは、人一人分程もある鉱石の塊。
 そして、それが既に大小様々に粉砕されているのを前にして、開口一番。
「バカじゃないの?」
 ……犯人はテトテトラ
 もっとも、テトテトラの無邪気さは今に始まったことではない。悪気も他意もなく、ただ好奇心が高じての行為なのだろう。が、いきなり貴重な資材を破砕するのは、幾らなんでも旺盛すぎるだろう好奇心。
 割れ方を見るに、もう一塊、大きな欠片があるはずなのだが。付近を見回してもそれらしきものは見当たらず。テトテトラの姿も見えないし……さてはあいつ、何処かに持って行ったな。
 整った顔の裏で様々な逡巡を繰り返しながら、拳大の欠片の一つを手に取るシャルロルテ。
「魔鋼、ね」
 魔力を発するという、特殊な鉱物。
 今日もまたおにもつ運びに出かけている大長老(だいちょうろう)が、精製したミサイルと交換で貰ってきたものだ。
 見た目は、ほんのりと青みを帯びた黒っぽい鉱石でしかないが……アウィス・イグネアの話によれば、純度が高くなるほど黒っぽさが薄れて色味が濃くなり、最上級とされる魔鋼は宝石と見紛う程の透明感と輝きを放つという。なお、惑星ティーリアの住人は生まれながらに魔力を感知する能力が備わっている為、ただの宝石か否かは近づくか触れるかすれば直ぐに識別できるそうだ。
 しかし、その話から察するに、この魔鋼は品質としてはいまいちという事になる。シャルロルテは華奢な両肩を揺らし、ふん、と鼻を鳴らして。
「新素材の対価に三流品寄越すなんて、舐められたもんだね」
「質は確かにそうですけれど、これだけ大きな塊は珍しいですよ」
 ……まぁ、既にだいぶちっちゃくなってはいるが。
 指先で軽く押し上げたフレーム。細い銀縁のアウィスの眼鏡に、シャルロルテの白い掌と、その上に鎮座する魔鋼が映り込む。
「純度を高める方法も皆無ではありませんから、三流品でも十分に貴重です。ただ、それを出来る職人は限られているので、魔術院では報奨を出すなどで優先的に人材確保をしていた……と記憶しています」
 そういった加工済みの魔鋼は、ツァルベルの守護塔修繕に優先的に回されているのだろう――そこまで考えた所で、アウィスは不意に、紺色の眼差しに物憂げな色を滲ませる。
 表情にも出しはしないし、受け答えも至極理知的ではあるのだが。もういつ起きてもおかしくはない魔物の『大侵攻』を思うと、気が気でないというのが正直な所だった。
 魔都の守護塔『東の塔』が正常に機能していたあの時でさえ、沢山の犠牲が出てしまったというのに――
(中々詳しいな、相棒)
 俄に、直接、意識に届けられる言葉。
 事務所の外に浮んでいるはずの相棒――スゥイ・ダーグ MAX(-・- まっくす)の声に、アウィスは自身の意識が思考の海に迷い込んでいたと気付く。
 すぐに我に返って、ええ、と小さく頷いて外へ視線をやると……返しのついた丸底フラスコにも似た、オメガ型のスゥイの大きな輪郭だけが、窓越しの地面に影を落としていた。
「魔都へ来る前は機構都市の魔術院に在籍していました。研究分野が違うので専門的な事は言えませんが、一般の方より知識はあると思います」
「畑違いの上に古い情報って。役に立つのかい?」
 相変わらず、シャルロルテの口からは、息をするようにぽんぽんと……
 慣れてきた感もなくはないが、積み重なってくると流石にむっとする事もある……が、物言いとは裏腹に、シャルロルテは魔鋼に関する一連の遣り取りに、いたく興味を示している様子。先程から何か小難しい図形や文字を紙に書き付けている所からして、魔鋼を使って何かやるつもりのようだが……
 これが、異星の学問なのだろうか。
 全然、理解できない。こういうのを、『笑うしかない』というのだろうか。それくらい、訳が判らない。
 もっとも、ここまで理解不能なのは、シャルロルテが天上の民だからなのだが。
「で、その古巣の魔術院に用があるんじゃないのかい?」
 さっさと職人でも技師でも拉致してきなよ。バカじゃないの。
 ……罵声は兎も角、この方は、冷ややかな外見に反して、案外アグレッシブなのかも知れない。アウィスふとそんな事を思う。
「はい。行って来ます」
 一礼をして事務所を出ると同時に、真上で煌く灰色のコア。
 刹那、身体を浮遊感が包み込み、周囲の景色が薄い灰色越しのものに変わる。
『よし、飛ばすぜ。腰抜かすなよ』
 相棒をコアに乗せたスゥイの噴気孔が、紫色の炎を上げる。
 ……巡洋艦のあいつが本気を出したら、どうせ見送る間なんてありゃしない。
 最早、窓の外に視線を向けのすら無駄だとばかりに。シャルロルテは北東の方向へと一瞬で遠ざかって行った噴炎の残響を耳に、紙に筆を走らせていた。

 人の足で歩けば一日掛かる距離も、乗り物を使えば数時間。
 まして、機動生命体ともなれば。同種の中ではとりわけ移動力で劣る工作艦といえども、人や獣の足とは比べるべくもない。
 空色の噴炎を悠々と吐き出し、滞在地から山沿いに進む事数分。紺藍のコアに徐々にスフィラストゥールの扇形の都市圏が映り込む。
 好奇心赴くまま、何処かのんびりと都市圏上空を横切る機体。やや低空を飛んでいるせいか、円盤状の機体が落とす影は凡そ円形。頭上に差す大きな影に人々は、また双子星が巡ってきたぞと溜息交じりに空を見上げるが……そこにあるのは見慣れた暗い星でなく、テトテトラ。
 灰と漆黒という、全体的に黒っぽい装甲である事も相俟って、見上げてみるまで案外気付かない者も多いようで。予想外の物体を目にして動揺した皆は一様に、テトテトラが頭上を通り過ぎていくのを、茫然と見送る。
 そして、シャルロルテの予想通り。一本だけ出しっ放しになっているサブアームの先には、滞在地から持ち出してきた魔鋼の欠片が、しっかりと携えられていた。ランドルト環状の機体中心部をくるくる回しながら通り過ぎて行くのを見ていると、魔鋼入手を喜んで見せびらかしているかのようにも見えなくはないが。単に機体が収納スペースを備えていない為、必然的にこういう形での持ち運びになってしまっているだけである。
(守護塔? ってあれかな?)
 街中に聳え立つ一番高い建物へ、真っ直ぐ近づいていくテトテトラ。
 周囲には、不安げな表情で塔を見上げる人々。スフィラストゥールの有する『世界一』の一つでもある『東の塔』は、その機能もさること、主要なランドマークも兼ねている。街のシンボルと称して相違ないこの塔を心配する余り、つい様子を見に来てしまうという住人も少なくなかった。見ているだけではどうにも成らないと、分かってはいても。
 そんな東の塔に、機動生命体が急接近。否応なしに高まる緊張感。
 魔鋼を持ったでっかいのが塔に何かしようとしている!
 ……なんて話が瞬く間に塔周辺の住宅街に広がって、塔の下には続々と人が集まってくる。
 その群集の中に。
 不安げな人々とは対照的に、なんの不安もなさそうな顔で、細い両腕を振り上げている人影が。
「おーい。おうーーい」
 遠慮なく空に呼びかける黒髪の男に、周囲の人々から続々と向けられる険しい眼差し。すっかり注目の的だ。
 しかし、当のテトテトラは眼下の様子より、塔の方に興味津々。周囲を旋回したり、高度を上げ下げして壁の様子を確認したり。
 別段、なんともないように見える塔の外観。それもそのはず、破裂を起こしているのは内部の装置。地上人であれば魔力の消失が感じ取れる為、外からでも異常があるのだと知ることが出来るし、そうでなくとも人間であれば出入り口を使って塔内に入り、直接確認する事もできる。
 だが、全長45mもあるテトテトラが人と同じように内部へ入るのまず無理だ。外から見ただけでは、石壁に閉ざされた内部の様子を窺い知るのは難しかった。
(何処が壊れてるんだろ。もう直った?)
 首でも傾げるかのように、外周に浮ぶテトテトラの円弧状の装甲が、右に左にと回転する。
 そんな頭上へと、男は羽織っていたぺらぺらの革ジャケットを脱いで、旗のようにぶんぶん振り回し始めた。元々細い身体は、上着を脱ぐと尚一層ひょろっぺらい。背負っているギターが大層な重量物に見えるくらいに。
 と、そこで漸く、テトテトラが呼びかけに気付く。
(あ、名無しだ)
 思うが早いか、きらりと瞬く紺藍のコア。
 その瞬間、地上に居た男――アンノウンの姿は掻き消えて、巨大な球体の中へと移動していた。
「やー、丁度良かった、手間省けたぜ」
 全力疾走してきた甲斐があったなどと、本当に走ってきたのかどうか疑わしい穏やかな息遣いで言いながら、革ジャケットを羽織り直すアンノウン。
 どうやら何か用事があるらしい。塔の観察も終わったしと、テトテトラは丁度目に付いた瓦礫を除去しようと、格納していた残り三つのサブアームを伸ばし、また悠々と移動を始める。
『なになに〜?』
「さっきの塔のことなんだけどよ。何か色々足りねえらしいんだよ。魔鋼とか、技師とか」
『やっぱり魔鋼無いと建てられないんだね』
 そんな遣り取りをしている間に、コアの外ではまたまた人々が騒然。
 瓦礫の山の上に突然巨大な機械が現れたかと思うや、器用に瓦礫を取り除いて行くのだから、作業中の人々が呆気に取られるのも無理はない。
「そんでほら、お前そういうの得意そうだし。あと、アウィスって魔術師が、修復系の? そういうの上手いって聞いてよ」
『事務所のあの人? 呼んでみる?』
 相手が意図的に拒否している等でない限り、機動生命体同士であれば精神感応による意思疎通は基本的に距離を選ばない。パートナー関係を結んだ者同士も同様。
 同種族のテトテトラとスゥイは無条件で精神感応できる。そして、そのスゥイとアウィスは既にパートナー。テトテトラからアウィスまでの呼びかけは、スゥイを介すことで存外に容易く実現できてしまうのだ。
『用事が終わったら来るって言ってるよ』
「凄え、話早え」
 これはきっと、世界が俺の愛に応えてくれたに違いない。などと、何の疑いもなくそういうことにしておくアンノウン。魔鋼らしき鉱石も、少量とはいえテトテトラが持参して来ているし。まぁ、大分足りない気もするが。
 さてはてしかし、これで大体の段取りはついたはずだが、待っている間はどうしよう。
 一応、思案はしてみるが、余り深刻にも考えていないアンノウン。歌でも歌うか?
 一方のテトテトラには、魔鋼と同じくらい、気になるものがあった。
『魔物って面白そうだよね〜』
 コアの内側に響く、テトテトラの無邪気な声。その『魔物』という危険でへんてこな生き物は、山の向こうにある『魔の領域』という所に沢山居て、渓谷を通って街を襲いに来るらしい。
 除去した瓦礫の廃棄にも丁度いいし、砦の方に持っていってバリケードにしてしまおう。
 そんな発想と好奇心とで、テトテトラは三つのサブアームで器用に瓦礫を抱え込むと、空色の噴炎を吐き出して、物々しい雰囲気に包まれた渓谷の方へ向かっていく。魔鋼を掴んでいる四本目のアームが、なんだか尻尾みたいだ。
 徐々に後方へと遠ざかる、困惑する人々の視線と、守護塔。
 しかし、見れば見るほど。
「中身はどうだかわかんねえけどよ、ガワはすぐ出来そうな形じゃねえ?」
『魔鋼いらないなら、僕でも造れるよね』
 途中、アンノウンは瓦礫がなくなり綺麗に更地になった場所でぶらり途中下車。
 然程長い時間でもない、二人の邂逅。
 そして、後に起きる二度目の遭遇が、予想外の事態を生むことになるのだが。魔都の住人や来訪者は勿論、当事者であるはずのこの二人ですら、知る由もない。

第三節
 オリーブグリーンに生えた、二つの角。
 段々と縮んでいく角――みかん色の噴炎と共に、徐々に速度を落とす大長老。噴炎が完全に止まり、内臓式である噴気孔のまるいハッチを閉じると、大長老の身体はいつものすごくまるいシルエットへと戻る。
(もしもし、今日もおさがおにもつお届けにきましたよ)
 空から降りてくる大長老。日々の積み重ねもあってか、街の側も中々慣れたもので。特に、物流拠点として栄え、商魂逞しい者達が多く居を構える、始まりの街グリンホーンと砂漠商都シェハーダタは、運搬業務に貢献する大長老を大歓迎。大なり小なり、金銭の絡む腹黒い思惑が混じっていることは想像に難くないが、両都市は我先にと機動生命体との協調路線を宣言、専用の発着場の整備に乗り出したり、意思疎通用の人員を配備したりと様々に便宜を図り、今まで空白となっていた第三の称号『空の物流拠点』の名を懸けて、水面下で苛烈な競争を繰り広げていた。
 もっとも、大長老はこれらの誘致作戦に対しては、「ティーリアのこたちって何て親切なんだろう!」という具合で。どちらかだけと言わず別け隔てなく満遍なく訪れて、おにもつ運びのお手伝いをしているので、両都市の称号争いに決着がつく気配は今の所皆無である。
 そんな大長老が目下、気になっているのは、先日ひょんなことから譲り受けることになった魔鋼だ。
『これって、どういうものなんだろう?』
 皆で使えるとなんかいいよね、ということで、大長老自身は割れた欠片の中から三番目くらいに小さいやつを一つ持参、荷積みや荷下ろしの間に、魔鋼について話を聞いたりしていた。
 街が用意してくれた意思疎通員は、一般有志か商人であることが殆どで、話の内容は金銭的価値に寄ったものが多い。
 最上級なら拳大一つあれば一生遊んで暮らせるとか、魔鋼を扱う職人は成るのが難しい分、とっても儲かるとか……
 ただ、それらから読み解けるのは、魔鋼が貴重なものだ、ということ。
 大きな原因は、主要な産出地が、山岳都市ダスランと、最果ての都碧京の二箇所である事。小さな鉱脈は世界各所、探せばそれなりにはあるらしいが、ダスランは産出量が、碧京は採掘時点での純度の高さが、それぞれ頭一つ飛び抜けているという。
(ダスランって、こないだいっぱいおにもつ運んだ、おやまの街だよね)
 そういえば、すごくおおきな穴があったなと、ダスランの景色を思い出す。あれが魔鋼の採れる穴なのだろう。
 なお、高品質の魔鋼としては、東方大陸は碧京で取れる碧色のものが有名だそうだが、色そのものは産出地によってばらつきがあるとか。
(うちみたいな色の魔鋼もあるのかなぁ)
 ふとそんな事を考える大長老。オリーブグリーンや深緑の魔鋼があったら、なんかいいよね。
 艦の中がパンパンだぜ、状態になるまで目一杯荷物を積むと、タラップを引っ込めて丸いハッチを閉じる大長老。
(色々ありがとうね、いってくるよ)
 どどどどど、とみかん色を噴き出し浮き上がりながら、眼下で手を振るお手伝いさん達にサブアームを振り返す。乾いた砂漠の真ん中、型抜きでもしたようにぽつんと広がる青いオアシスの鏡に、白い雲とすごくまるいオリーブグリーンの機体が映る。
 段々小さくなっていく人々、そして、段々遠ざかっていく街並み。
 水辺に寄り添う、砂漠商都シェハーダタ。水面に映る自分の姿が、それと同じくらい小さくなってから、大長老は北へ向けて飛び去って行った。

 消失した大桟橋の仮復旧も既に終わり、都市機能の殆どが回復した始まりの街グリンホーン。
 侵略者に空けられた大穴の更地は、漸く家らしいものが建ち始めている所だったが……
 そのど真ん中、造られたばかりの舞台のような部分に、堂々と立つ人影。
「志あるものなら老若男女を問わない。無論、経歴も能力も」
 海から吹き込む潮風に翻るマント。足を止める者もあれば、首を傾げて通り過ぎる者もあり。
 だが、銛を手に胸を張る人物は、怯まない。
「故郷を友を家族を愛し、守ろうとする者に差などあろうか。その貴き想いを胸に秘めるなら、歩を進め示すが良い」
 凄まじく尊大な物言い。
 どよめく観衆に、見ている側の方が、ちょっぴり恥ずかしくなっても来るのだが。
 彼はロード。ロードはこんな事に負けはしない!
「私と共にこの美しき星を護ろうではないか」
「ロードはん、今日も絶好調やぁ」
 手製の塩おにぎりを頬張りながら、ちょっと遠巻きに見つめる吠。
「貴君らの熱き血潮、勇気、使命、そして愛。さあらば、共に進もう」
 見下ろすような姿勢のまま、ロードは眼下の観衆に向け尊大に腕を差し述べる。
「貴公らの一歩を待っている」
 締めの言葉に、何故か起きる拍手。
 ひょっとして、演劇か何かと勘違いされているのでは……拍手を浴びて満更でない様子のロードに、一抹の不安を覚えたり覚えなかったりする貴志一同。
 ……とまぁ、そんな具合に。
 スフィラストゥールから再びこの地へと舞い戻った沙魅仙率いるロードナイツセブンは、より積極的な広報活動を行っていた。
 物流拠点ということもあり、人の流入・流出もまた激しいグリンホーン。ここで出会った貴志らにとっても、全く知らぬ土地ではないだろうし、人材集めの舞台としては申し分ない選択だ。
 一方、山岳都市ダスランは未だ復興の真っ只中で、人材集めには適さないことこの上ないが……彼らはダスランにも足を伸ばし、精力的に広報を行っていた。
 今までの活動で、魔都スフィラストゥール、機構都市ツァルベル双方の守護塔が破損しているという話は耳にしている。修繕に魔鋼が必要であろうということも。規格外の代物とはいえ、守護塔も魔器や魔具の一種。ことに大型ともなれば、魔鋼が多く必要になることは、惑星ティーリアの住人であれば類推が及ぶ。
 であれば、魔鋼の主要産出地であるダスランが重要な位置を占めるのも想像に難くない。広報を行い、知名度を上げ、更に現地に賛同者を得られれば、いずれ『大事』を成す際の助力となるはずだ。
 あと、一度行った事あるから。
 ……土地勘は、結構重要である。
 兎角、『広報』は順調に進んでいると見ていいだろう。此処には居ないるりも、魔物襲来時の備えと並行し、スフィラストゥールでロードナイツセブンとしての活動を行っている。図らずも現在地が離れてしまったことで、可愛い皇帝ペンギン、もとい、沙魅仙の姿を見られないことは、残念がっているかも知れないが。
 一先ず、布石は打てたのではないだろうか。
 あとはツァルベル……だが。何分、危急を要す案件だ。如何にロードといえども、威厳だけで口説き落とすのは難しいだろう。ちゃんとした交渉材料を用意してゆかねば。
 その為には……と、思考を巡らせた所で、沙魅仙はとあることを思い出す。
 ロードたるもの、他に頼るばかりではなく自ら動くことも重要だ。
「ふむ、行ってみるとするか。『パートナー仲介事務所』とやらへ」
 途端に。
 それを聞いた吠が、ぱっちりした青い瞳をきらきらさせながら振り向いた。
 ガッツポーズ中の好奇心は、待ちに待った状況に内心だけで抑え切れず、吠の表情にまで溢れ出る。
「あ、うん、なんでもないんよ? なんでも。楽しみなんはほんとやけどね?」
 中々収まらない笑みに、指先で褐色のほっぺをもみもみ。
 ……と、俄に。
 二人の、いや、街の頭上に巨大な影が差す。
 南側から北上し、グリンホーンの街並みを覆っていく、丸い影。
 ……なんという既視感。
 そして、見上げた先には、やはり。
「こないだの緑の子やぁ」
 みかん色を徐々に弱めて、街が用意している発着場へと降りて行く大長老。その行く先を、顔ごと動かして仰ぎ見る吠。沙魅仙は折り良しとばかり、
「貴公らは引き続き人材集めを頼む」
 貴志らと、執事と定めたカニ属の人外の徒に任せたぞと告げて、大長老の降りて行く先へと、マントを翻して歩き出す。
「では共に参ろうか。いざ新たな力を求め」
「どんな子がおるんやろ」
 尽きない興味に、吠はまた自然と頬が緩んでいくのを、感じていた。

 ――大地を翳らせる双子星が、西の水平線の下へ消えてなお、渓谷の合間には招かれざる客が忍び寄る。
 防護門の内側、砦周辺を包み込むのは、相変わらず殺気立った雰囲気。
 休む間もなく襲ってくる魔物との戦いに、草臥れた表情の者達が段々と増えていく。群れこそしないものの、襲来数は平時より明らかに多いらしい。
 やはりこれも、双子星の軌道のせいか……聳える山脈の切れ目。谷間を抜け、魔の領域から吹き込んでくる風に、咥え煙草から棚引き後方へと流れて行く紫煙の糸。
 砦のやや上方、大きく左右に広げた漆黒の翼で風を受ける黒衣の長身。
 向かい風が強いのは有り難い。こうして、楽に空中に留まって居られる――その逡巡の通り、ダークネスはただの一つも羽ばたくことなく、まるで静止しているかのように、空中に浮び続ける。流されて背面に集まる着衣のしわと、なびくほどもない短い漆黒の髪が掻き混ぜられるように小刻みに揺れている様から、彼がかなり強い風に身を任せているのだと窺い知ることが出来る。
 彼だけでなく、翼を持つ者は皆同様に、渓谷を抜けてくる風を利用し、宙に留まっていた。高度や左右位置などは、警戒と索敵を兼ねてばらばらではあるが、広げた翼をぴくりともせずに浮ぶ彼らの姿は、中々壮観だ。
 眼下には、今しがた魔物の一体を仕留めた騎士の一隊が、防護門の内側へと急ぎ足で戻ってくるのが見える。すっかり疲れ切った表情。
 折角集まった騎士と魔物狩りの不和も、疲弊に拍車を掛けている気がする……が。
 今だけは。
 砦からは然程遠くはない前方に、騎士も魔物狩りも、分け隔てなく釘付けだった。
 渓谷を塞ぐが如く立ちはだかる、巨大な壁。
 大小様々、形もてんでばらばらなはずなのに、的確に組み上げらた瓦礫によって造り出された、巨大バリケード。
 そして、それを背に、機嫌良さそうに回転している、灰と漆黒の装甲。
(できた〜)
 外周に浮ぶ円弧状の二つの装甲と、そこから伸びる四本のアームをくるくるしているテトテトラに、ダークネスは感心したような息遣いで、白い煙を吐き出した。
「あんな事も出来るのか。機動生命体ってのは、多芸らしいな」
 ……魔物狩りを始めとした有志の参加は、あくまで本人らの意思によるもの。途中離脱しようかしまいが、そもそも自由だ。気が乗らない、などの適当な理由であろうと、戦線離脱を咎める権限は誰にもない。もっとも、敵前逃亡はあらぬ風評を誘発するリスクもあり、大多数の魔物狩りは余程でなければ意地でも戦場に出ていくのだが。同輩や競争相手が一堂に会している今は尚の事、悪評は一気に広まってしまう。
 それでも、疲弊や負傷の度合いによっては、速やかに戦線から離脱する。引き際を察する判断力も、魔物と相対する上では重要な資質だ。
 だが、騎士であればそうは行かない。騎士は、街とそこに住む人々を守ることが存在意義。
 魔都の騎士は、残酷な言い方をすれば、生きた壁だ。誇り高き盾として、民を守る為に命果てるまで、脅威へと向かって行かねばならない。
 特に今回、魔物の襲来回数の増加によって、体力が回復する前に次の出撃手番が回ってくるという事態が頻発していた。頑として退くことの出来ない騎士らの疲労は、魔物狩りよりも断然色濃い。
 双方を合わせた頭数を鑑みるに、騎士と魔物狩りの混成部隊を作り、適性に出撃を調整すれば、今の魔物襲来ペースでも余裕を持って対処できるはずなのだが。全く、自尊心というのは面倒臭いものだ。
 かく言うダークネスは、取りこぼしの掃討に出ずっぱりだったりもするのだが。
 ……しかし、それも先刻までのことで。
 ただの分厚い壁であろうとも、あれのお陰で、次の戦闘までにはかなりの余裕が生まれる。これは、疲労の蓄積を解消し、戦力を持ち直す絶好の機会。目に見えて明らかな恩恵に、積もる疲弊に休息を欲していた機動生命体共闘反対派の多くは、暫く肩身の狭い思いをしそうである。
 兎角、礼の一つでも言っておくべきだろう。声が届くであろう位置にまで、ダークネスは向かい風を利用して、まるで空中をスケートするように滑らかに、テトテトラへと近づいていく。
 あの宝珠のような部分が、あいつらの重要な器官なんだろう。思い、テトテトラが有する紺藍色の巨大な球体の傍に――

 ――スフィラストゥールから、荷台に揺られて進む事暫し。
 避難路の確保を終えたるりは、来訪者らの滞在地へ向かう道中に居た。
 食料、日用雑貨、素材、そして、自分と同じように滞在地へ向かう人。諸々を乗せた荷台が、すいすいと山並みに沿って進んでいく。車輪もなく浮遊する台車ならぬ台箱を、大きな飛べない鳥達が、規則的な足音を立てながら、四羽で並んで牽いていく。
 ……勿論、馬や他の動物が牽くものもあるが。鳥類が大好きなるりには、これ以外の選択肢はないも同然である。
 漸く、魔都から取り除かれた、襲撃の残骸。テトテトラが瓦礫を軒並みバリケードに使ってしまった為、かつての襲撃痕は大通り顔負けの大砂利道と化していた。
 しかし、それはるりにとっては好都合。遮るものなく遠くまで続く大きな道は、避難経路として申し分のない地形なのだ。
 るりの知る大長老に比べると、ずっと小さな灰と漆黒の機体。くるくる回りながら瓦礫をあっという間に持って行ってしまったあの機動生命体とも話をしてみたかったが、最後の瓦礫と一緒に砦の向こうに行ったきり。
 待っていればいずれは戻ってくるのだろうが、待つだけというのは、活動的なるりの性には合わない。一先ず、街での活動は一端切り上げて、一緒に戦うことになるかも知れない『参戦志願者』達の人となりを知るために、パートナー仲介事務所へ向かうことにしたのだった。
 次第に見えてくる……一種独特の風景。
 田舎然としているといえばそうなのだが、滞在地というだけに、休息している機動生命体の姿がそこらじゅうごろごろしていて、なんともいえぬ不思議な景色を作り出している。
 ここまで運んでくれた荷台の主と、鳥達に礼をいい、るりは宿泊施設の建ち並ぶ方向へと、なんとなく道になっている所を進む。
 行き交う人々。パートナー仲介所が参戦希望者を募っているだけあって、宿舎の多くは魔術師や閃士、魔物狩りなどが利用しているようだった。
 そのうちの一つ。
 建物自体が発する魔力の気配が妙に希薄な宿舎の入り口に、るりは目当ての看板を見つけた。
「こんにちは、お邪魔します」
 開け放しの扉を軽くノックし、ぺこりとお辞儀を一つしてから、中へと足を踏み入れる。
 事務所内はやけに静かで。事務用に置かれている卓では、高貴さを感じさせる意匠の着衣に身を包んだ長身が、黙々と何か作業をしていた。
 来客の気配に気付き、顔を上げる人物。白い肌が作りだす造形は、人形のように整っていて、何処か人離れした冷たさすら感じる。
「すごく綺麗な方ですね……」
 思ったままを口にするるりの姿を、銀色の瞳で一瞥して。
「登録希望かい? 紙はこっ」
 身を捩り、隣の卓に手を伸ばしたところで、腰を超えて伸びる漆黒の髪が椅子の背に絡まって、その人物――シャルロルテは、整った眉の間に、心持ち不機嫌そうな皺を刻む。
 折れそうに華奢な体躯相応に、長くほっそりとした腕で髪を肩から払い除ければ、床にまで届いていた真っ直ぐな髪が、絹糸の束のようにさらさらと波打つ。
 そうして、もう引っ掛からないことを確認してから、シャルロルテは改めて名簿用紙に手を伸ばした。
「全く、なんでもっと取り易い所に置いとかないんだろうね」
 ……作業をする為に、自ら広い机に移ったことは大分前に棚に上げてある。
 るりはありがとうございますと、お辞儀つきで礼儀正しく礼をいい、名簿用紙を受け取って……その時に、間近にまできたこの人物から、魔力を感じられないことに気付く。
 よくよく考えれば、今まで機動生命体とばかり接してきて気付かなかったが、成程、他の星から来た方は、こんな風に魔力を持っていないのだなと、るりは改めて知る。
「女性でしょうか? 男性でしょうか?? 政府の方ですよね?」
「どっちでもないよ。政府も外れ。何なんだい急に。バカじゃないの?」
「えっ、違う? し、失礼しましたー!」
 あわあわしながら、さっきよりも美しく、かつ、深い角度でお辞儀をするるり。
 その様子を、シャルロルテは椅子に腰掛けたままじっと見遣る。飛びぬけて高い背丈のせいか、座って居ても視線の高さはるりとあまり変わらない。
 呆れたような息を零しながら、でも、些か辛辣な物言いとは裏腹に、シャルロルテは思う。
 こいつ、おもしろい。

第四節
 アウィスが気付いた時には、眼下の景色はもう、緑に囲まれた歴史情緒溢れる都市に変わっていた。
 機構都市ツァルベル。
 外周を囲むように八角形に配されているのは、ツァルベル護りの要でもある八棟の防衛装置。
 それらを対角線で結んだ中心地に、魔術研究で名高い『オルド・カーラ魔術院』本部が鎮座している。行政関連施設や貴族街を差し置いてど真ん中を陣取り、挙句の果てには魔術院関係施設だけで中心半径数キロを埋め尽くしている辺りに、この都市においての魔術院の地位と重要性が窺い知れる。
 その魔術院の研究の集大成とも言える、巨大魔器『守護塔』。かつて歴史を賑わせた八名の大魔導師の名をそれぞれに冠す塔は、彼らの偉業と共に、永世、この都市に君臨し続けるだろうと、誰もが信じて疑わなかった。
 だが……内部装置は破裂したものの、外観に大きな変化の無かったスフィラストゥールの『東の塔』と違い、ツァルベルの塔は外装が破裂の衝撃に耐え切れず諸共に崩壊、北東側の二本と、西の一本の胴体部は見事にばらばらになっていた。魔術で固定処理されている天辺、空中にぽつんと取り残された屋根の意匠だけが、守護塔の面影を残している。無残にも護りを失った今、魔術院の施設群の密集具合は、都市そのものが何かに怯えて身を縮こまらせているようにも見えた。
 この有様では、職人を貸し渋るのも頷ける。爆ぜた瓦礫の処理、中と外を作り直す膨大な量の素材、何より再生を早める為に職人魔術師は一人でも多く確保したいだろうし……ここに人手を貸してくれと申し入れるのは、不憫にすら思えてくる。
 だが、今もし魔都で『大侵攻』が起きれば、その被害程度は散発でツァルベルを襲ってくる魔物のものとは比べものにならない。
 迷いはしない。避けられない選択があるなら、活かすべき方を取る。『死神』と陰口を叩かれようが、アウィスはそうして戦場を潜り抜けてきた。
 でも、今は。今なら……
 逡巡するアウィスを乗せて、スゥイは細く絞った紫色の噴炎を吐きながら、都市上空を巡る。
『真ん中に降ろせばいいか?』
「いえ、もう少し北側の……あの銀色の屋根の近くにお願いできますか」
『任せとけ』
 機敏に旋回する、白黒二色の機体。
 よそ見した一瞬で上空に現れていたサイバーカラーの巨躯に、かなりの距離があるにも関わらず、街の人々が大袈裟なくらいに動揺しているのが判る。
 あんなに街をめちゃくちゃにして、あんなに人々を怖がらせて。同じ機動生命体がやったことであるだけに、スゥイの中に湧いてくる憤りも計り知れない。
 目的の建物の真上にまで来ると、スゥイは噴炎を消して飛行状態を浮遊に変える。
 同時に、機体と同化する灰色のコアから、一筋の光が伸び……地上と接する先端に、アウィスの姿が現れる。無事に地面に降り立った相棒を確認すると、スゥイは街の人を怖がらせないように静かに、浮遊状態のまま高度を上げていく。
 このくらいで大丈夫だろうか。ある程度の高さにまで上がったところで、スゥイはまた噴気孔に紫色を点す。
(オレは山の方で待ってるぜ。何かあったら呼んでくれ)
 そんな言葉が脳裏に響いたかと思うや、ものの数秒で、街の上から消えてしまうサイバーボディ。
 相棒の居なくなった空から、激励のような噴射音だけが、遅れて地上へやってきた。

 ――自分の姿が球面に映り込んだ、と思った瞬間。
 ダークネスの身体は、外の景色を透過する、巨大な紺藍の中に移動していた。
 前もこんなことがあったな。然程、気に止めた様子もなく、ダークネスがそんな逡巡をしていると、彼を呼び込んだ相手の声が、直接脳裏に届く。
『魔物は魔鋼の代わりにならないの? 魔法は使う?』
 とても幼い印象を受ける、テトテトラの声。
 先日遭遇した白黒ツートンカラーのあいつは、随分と男らしい雰囲気だったが。機動生命体は外見だけでなく内面にも、かなり個性があるのだなと、ダークネスは成程なといった素振りで……
「……おっと、魔物のことだな」
 不躾にも、いきなり拉致していきなりの質問だったわけだが。こいつはこういう性格なんだろうと、細かいことには拘らず。ここは禁煙なんだろうかと考えながら、一応、火は点けずに、煙草を咥えるダークネス。
「魔術のような物を使う奴は居るぜ。魔鋼の代わりは……聞いた事ないな」
『色んな形のがいるけど、共食いしたりしないのかな』
「どうだろうな、俺は見た事ないが。どの道、弱肉強食だろうし、奥地の方ならあるかも知れないぜ」
 面倒見の良さもあってか、ダークネスからさらりと帰ってくる答えに、テトテトラは興味津々にランドルト環状の機体をくるくる回転させる。コア内部は無重力様の何かに保護されているらしく、回転に酔うといったことはないが、天地がくるくると入れ替わっても体感に何も変化がないというのは、空を自在に舞うことの出来るダークネスには、逆に不思議な感覚だ。
『中調べれば食性が分るかな』
「中?」
 言うが早いか、ダークネスが問い返すよりも早く。
 先程、騎士らが倒した魔物の亡骸に近づくと、サブアームを二基使い、器用に魔物の体を解体し始めた。
 テトテトラの体躯にしてみれば、5m級でも十分的としては小さい。しかし、サブアームは迷いなくてきぱきと動いて、的確、かつ、迅速に、魔物の体を腑分けにしていく。
『素材や食料になる?』
「なるやつと、ならないやつがいるぜ。しかし、お前さん、中々容赦ないな」
 しっかりばっちり開封し、胃の中身を調べているテトテトラ。無邪気さは時に残酷な面も覗かせる……そんな表現を地でいく奴なんだなと、それだけで納得してしまう方もどうかとは思うが。
『骨? 何の動物だろ。知ってる?』
「俺には判らないな。骨だけで判る奴の宛てもない」
『でも、主食は肉みたいだね』
 とまれ、この魔物は素材にも食料にも適さないものらしく、テトテトラは見事に分割された亡骸を、拵えた壁の向こうの森の中に、ぺいっと返しておいた。
『生物って不思議だよね』
 片や、黒い星の魔鋼に影響され、魔力が強まったり。
 片や、群れで襲ってきたり……
『魔の領域に魔鋼はないの?』
「有るとは言われてるぜ。とびっきりのやつが沢山埋まってるってのが、よく聞く噂だな」
『沢山あるのに、黒い星が来たら、襲ってくるんだよね』
 ……ああ、言われて見れば。
 魔鋼や魔力が影響しているとは言うが。幾ら、双子星の魔力が強いにしても、何故、身近で豊富な魔鋼の眠る魔の領域から離れ、都市に攻め込むような行動を取るのだろうか。
『人を食べたいの? 魔鋼が目的?』
「お前さん、中々鋭いな」
 生憎、その答えは持ってないが。
 紺藍の半透明越し、ふと、東の方角に見え始めた巨大な暗色に、ダークネスはそろそろ戻るかと、慌しさを増す砦の様子を見遣る。
「おっと、そうだった。その壁、助かったぜ」
『そう? 僕、建物とか得意だから、必要なものあったら造るよ〜』
 そんな言葉を最後に、テトテトラはダークネスをコアの外へと出す。
 彼が砦の上へ戻っていくのを確認して……テトテトラは、サブアームに携えたままの鉱石を、光にでも翳すように、空に掲げる。おさから貰った、魔鋼の欠片。
(これ持ってたら、寄ってくる?)
 解らないなら、試してみよう。
 魔鋼を先端に、無闇に真っ直ぐ伸ばしたサブアーム。それを、円弧状の浮遊外装と一緒に大回転させながら、テトテトラは魔の領域へ向かって、渓谷を奥へと進んで行った。

 仲介所事務所の卓には、名簿用紙の他に、大小様々に砕けた魔鋼の欠片が無造作に置かれている。
 魔鋼――『魔力』を放つ、特殊な鉱物。
 一塊だったのがこんな有様になったときは、テトテトラに対して例の口癖が自動射出されたものだが。
 そのお陰でシャルロルテが扱い易い大きさになって、結果オーライではある。どの道、成分分析をするなら、幾らかは砕く羽目になるだろうし。何だかんだで、シャルロルテの好奇心さんもかなり旺盛だ。
 さて、妙に空想文学じみた名称である点は、この際何処かに置いておくとして。
 『魔力』がこの鉱物から放出されるエネルギーであるとすると、魔力は放射線の一種なのだろうか。同種の因子を持つ生物は、このエネルギーを任意で行使したり、感知したりできる。そう考えると、魔力と称されるこのエネルギーは、平時から放射状態であると考えられるが……
 今のところ、魔力を長時間浴びたことによる身体異常等は現れていない。より詳しく精査してみるまで、断定はするべきではないが……一連の簡易健康測定では、異常らしきものは発見されなかった。単純な放射エネルギーとは、また何か違う性質を持っているということか。
「手間が掛かるったらないよ」
 何しろ、この魔鋼を調べ、自分の知識の及ぶ範囲に落とし込むには、それ相応の分析ができる専門の装置が必要だ。
 だが、そんなもの、この惑星にあるはずがない。
 となると……装置から用意しなければならないという、なんとも遠回りな工程が必要なのだった。
 専門職ではない為、余り複雑なものになると持て余すのだが……時間が掛かるのならそれはそれ。暇を潰すには良いと、シャルロルテはそう考えている。
「この三流品、不純物多すぎじゃない? 高品質とかいうのが欲しい所だよ」
 投影板にでてくる曲線と数値を見遣りながら、誰にともなく吐き出す文句。
 主成分の解析ができれば、純度上昇精製を行うことが出来るかも知れない。だが、その前段階の分析部分が、少々難航中。一度、品質のいいものとの結果差分を取りたいところだ。
「それにしたって、この矩形。見覚えがあるんだけどね」
 何処で見たんだったか。パネルに投影された図形を、白い指先で操作して、出力部を上げたり下げたり。透明な箱の中、粉末化され金属板の上に盛られた魔鋼が、反応を示すようにちりちりと僅かな光を発する。
 ……などと、天上の民基準で作業しているシャルロルテの行動が、地上人に判るはずもなく。
 たまに事務所を訪れる者は、来るところを間違えたのかと、看板を二度見してから入ってくるという状況が頻発していた。分析用に拵えた装置が、そこかしこに置かれておるせいもあるとは思うが。
 ……もう既に、事務所が大分狭くなっているし。
「専用のラボが要りそうだね」
 家主が帰ってきたら提案しよう。装置の保管用の建物は、テトテトラが帰ってきたら作らせるか。
 整った貌の裏でそんな事を考えていると。
 また新たに、事務所の扉を叩く者が……?

 ……時は少し戻り。
 それは、グリンホーンでのこと。
『もしもし、おさです。こないだは協力とかいっしょにのりのりしてくれてありがとうね』
 発着場で荷下ろしをしていた所に現れた沙魅仙と吠を、大長老は三つある深緑のコアのうちの二つにそれぞれ招き入れ、そんな風に声を掛けた。
 先日は賛同者――今は『貴志』の名称を得た者達の人数の事もあり、乗ったといってもそれは荷物スペース用の艦内。会話をする為にと招かれたコア内は二人共初めてで、吠はそれはもう興味津々で見えるものを早口でまくし立て、沙魅仙は浮遊状態の初体験に感慨深そうな顔をしていた。
 そんな二人の目的が仲介事務所だと知ると、大長老はこないだののりのりのお礼も兼ねて、快く二人を滞在地まで運ぶことに。
 かくして、 東の空に浮かぶ、すごくまるいオリーブグリーン。
 ……その姿を見つけたるりは、明るい表情で、空を仰ぐ。
「おささん!」
 建物のない東側の空き地に降りてくる姿を追いかけ、駆け出するり。
 にこにこ笑顔、小麦色の健康的な両腕を振りながら近づいてくる姿に、大長老も直ぐに気付く。
『あっ、るりさんだよ!』
「るりちゃんもこっちきてたんやぁ」
 コア越しの景色、手を振るるりに吠も中から手を振り返して……あ、でも、これ、あっちからは見えへんよねぇ、なんて思ってみたり。
 深緑のコア二つから伸びる光を辿り、遂に滞在地へと降り立つ吠と沙魅仙。
 山から吹き降ろす乾いた風にマントを翻し、やっぱり尊大に礼を言っている沙魅仙に、るりの表情は一層綻ぶ。本日も対ロード専用高性能るりフィルターは絶好調のようである。
 一方の吠はというと、出番待ちか特に何をするでもなくまったりと停泊している大小様々な機動生命体らの姿に、やっと落ち着いてきた筈の好奇心が、心の中で激しくストレッチを始めているのを感じていた。
「このおさちゃんもかなりおっきいと思てたけど、もっとおおきなのんもおるんやね。色も一杯あるし、よりどりみどり、なんちゃって。仲介所ってあれかな? あ、るりちゃんはもう登録したん?」
 段々と興奮してきたのか、それに連れて告げる言葉も早回し。結局、まくし立てるように一気に言い切って、吠は街並みなどを興味津々に見回している。
「登録の用紙だけ貰って来ました」
 これです、とるりの取り出した紙に集まる、興味深そうな視線。
「所長さんがお出かけ中だそうで。スフィラストゥールに戻る前に戻って来られたら、直接お渡ししようと思って、下書きだけしてみました」
「ふんふん、相手の希望とかを出すんやね」
 なんかどきどきしてきたなあ、心の準備でもするように、項目を見つめる吠。ちなみに、るりの中では、シャルロルテは副所長である。
「よし、案内してくれぬか」
「はい! こちらです」
 何の疑いもなく尊大なロードに対し、何の疑いもなく家来のように道案内を始めるるり。なんだかんだで、この二人、息ぴったりだ。
 そんな三人の様子を、大長老は静かに見守る。
(るりさんは、なんて書いたのかな)
 うちはすごくまるいから、まるいこ好きな彼女がまるいこを希望していたら、なんかいいよね。大長老の中に、そんな思いがほんわりと過ぎった。

第五節
 事務所自体は、受付と情報の保管、そして、斡旋が主な業務。
 登録済みの参戦希望者は、事務所でなく、繁華街……というには、流石に物足りないが。宿舎を利用する者を相手に営まれている酒場や食堂の方を、普段の居所にしているようだった。スゥイが方々から集めてきた魔物狩り――裏では、『辺境戦隊あらくれーず』と呼ばれているとかいないとか――も、もっぱら、滞在地で唯一の酒場が溜まり場だ。
 それだけに、事務所自体には、騎士団詰め所や、武術館合宿所のような賑わいはなく。似たようなものを想像していたら、存外落ち着いた雰囲気に肩透かしを食うかも知れない。
 だが、静かながらも、閑散というわけでなく。自然と滲み出でている品のよさは、アウィスが然るべき出自を持つが故なのだろう。
 ……ただ、今は。
 知的好奇心全開のシャルロルテが、あれやこれやと魔鋼解析に精を出している為、居並ぶ謎装置も相俟って、室内の印象は雑然としたものに上書きされてしまっていた。
「何回やっても高次を示すね。なんだい全く。根源があんまり高次だと可視化するだけで一手間掛かるじゃないか」
 事務所に入った途端聴こえてきた謎の愚痴に、思わず固まる三人。
 シャルロルテはそんな一同を、銀色の瞳に映して。
「なんだ、君か。知り合いかい? いすっ」
 またやった。
 物が増えたせいで長い髪を引っ掛ける率も格段に上昇。シャルロルテの眉間の皺も、心持ち深さを増している気がする。
「曲線造形の癖に何してくれるんだよ。バカじゃないの?」
 無機物にも等しく罵声を浴びせながら、そこだけは散らかさずに取ってある受付卓のほうへと、用紙を手に移動していく。適当に座れと指示をして三人が着席した所で、新しい紙を二枚用意する。
「それで。希望するものとか、あるのかい?」
「えっーと……うち、どんなんが自分との性に合うのか判らんわぁ……」
 そういえば、大長老以外にどんな機能を持ってる者がいるのか、どんな性格の者がいるのか。実はよく知らないのだと、吠は改めて気付く。
「あ、でもうちもささやかながらも戦いたいんよね、既に一回は誰かと戦った経験ある方がいいなぁ……?」
「経験者ね。武装は戦闘重視でいいかい? 艦種は輸送と工作以外ならなんでもよさそうだね」
 艦種。何やら、機動生命体には大まかな分類があるらしい。
 見た目とかでわかるのだろうか。事務所の窓から見える停泊中の機体と、名簿に筆を走らせるシャルロルテとを、吠はきょろきょろまごまご交互に見遣る。
 ちなみに、沙魅仙の分はるりが自動筆記中である。
 そして、今度は自分達の能力や得意な事など、アピールポイントを記入する段になって。
 沙魅仙は勿論、胸を張り尊大に答えた。
「生まれながらにしてロード。これ以上、なんの説明が必要であろうか」
「……バカじゃないの?」
「なっ。貴公! 無礼であろう!」
 口癖発動までの時間差、僅か0.7秒。
 ただでさえ……ただでさえあの異常な背の高さに沙魅仙の心がちくちく痛むというのに!
 まさかの対戦カード、『尊大』対『不遜』。
 だが、ここにもう一人大穴が!
「あの、前から思っていたのですが。『ろーど』ってなんですか?」
「貴公までそのような……!?」
 信じられない、と言った様子でくらくらしている沙魅仙。
 フォローするように、吠が今まで観賞してきた文学や芸術の内容から知識を引っ張り出してきて、るりにこそこそっと耳打ちする。
「えーっと、民衆を導いてく偉い人のこと。やったと思う」
 教えた割に疑問系。
「やっぱりバカじゃないの?」
 元々冷たい印象なのが、輪を掛けてひんやりとした面持ちで追撃を与えながらも、シャルロルテは内心、彼らに興味津々だったりする。
 だってこいつら、かなりおもしろい。

 ――ここを離れたのは、何年前か。
 望郷に浸る間もなく。アウィスは魔術院在籍時の縁者を訪ね、交渉を行っていた。
「お一人で構いません。守護塔の建造に詳しい方のお力添えを頂きたいのです」
 だが、その手の人材は魔術院と都市行政の指示で、まだ修学中の学生まで総出で、復興作業に借り出されているらしかった。大長老がミサイルと交換で魔鋼を貰ってきていたし、少しは余裕があるかと踏んでいたのだが……どうやら、支部と本部で、かなりの温度差があるようだ。縁故を期待して機構都市を選んだが、魔都の支部に掛け合った方が手間が無かったのではと、若干の焦りが過ぎる。
 当の交渉相手もこれから修繕に加わる予定で、むしろ君こそ元魔術院生として作業に加われないのかと、逆に交渉されてしまう始末。
 だが、この誘いはチャンスだ。
「では、こちらが修繕の手助けをする『報酬』に、職人魔術師の手配をお願いできませんか?」
 妙に強気な交渉に、相手は眉を潜めていた。幾ら組織再生が得意だからといえ、魔術師一人が出来ることには限度がある。
 しかし、人手が増えるのは、魔術院側としては願ったり叶ったり。その方策で手を打とうと話が纏まる。ただ、成果次第だとの念押しから察するに、報酬を得るには相当に高い『成果』を要求されるに違いない。普通なら、到底無理な――そう、普通なら。
 大陸同士の衝突が生み出す山脈の高さは、数千を数える。
 その山頂に落ちる、巨大な機影。
 離れても届く『相棒』からの声に、巨躯の後部の噴気孔が、紫色の炎を吐く。
 弾かれた玉のように、聳える山の斜面沿いを、スゥイの機体が滑らかに急降下していく。瞬く間に麓へ辿り着いた巨大な白黒が、ツァルベル上空に影を落とす。
(呼んだか、相棒)
 西側の塔に配属されたアウィスが、その言葉に応じるように軽く手を振って見せる。
 白黒に映える、赤いライン。その中央、白い塗装に紛れて煌く、灰色の宝珠。
 再び表れた機動生命体に、どよめく作業員。そんな皆へと、アウィスは告げる。
「ご紹介します」
 騒然とする現場を席巻する、静かな言葉。
「私の、『相棒』です」

 その頃、魔の領域では。
 テトテトラが魔鋼の欠片を元気よく振り回していた。
(寄って来てる? そうでもない?)
 血走った目、余り意味のなさそうな雄叫び。
 噛み付いたり、引っ掻いたり、突進したり。
 魔物と魔物が争う間に、魔鋼をちらつかせてみると、両者はこぞって襲い掛かってくるようなのだが……これが、魔力に反応してなのか、動いてるものを狙っているだけなのか、今一つ判別がつかなかった。
(欠片が小さすぎるのかな?)
 逡巡でもするように、くるくると回りだす装甲。
 そうして暫く、回転しながら眼下の争いを見つめていたが。
(聞いてみればいいよね)
 ランドルト環の中心部にある紺藍が煌き、やりあっていた魔物の片方が掻き消える。
 挙動不審さは、動揺なのか、元々なのか。
 テトテトラのコアに収容された魔物は、知性の感じられない動きで、コアの外に見える景色に向かっていきなり走り始めた。
『走っても出られないよ?』
 何しろ球形の上、上下左右も無きに等しい。結局のところ、進んだつもりが同じ場所をぐるぐると回り続ける羽目になるのだが……
 精神感応の際の意識は、自動で疎通可能なものに変換される。
 知性らしい知性は、案の定、感じられなかったが。
 がむしゃらに走り回っている魔物の意志だけは、読み取ることができた。
「にくめしめしたりないちからにくたりないにくめしちからめしよこせめしめしにくくわせろちからくわせろよこせにくめしめしたりないたりない」
 ……とても、うるさい。
『肉と飯は別なの?』
 だが、聴こえてくるのは単純な単語の羅列ばかりで、質問に反応するような意志は微塵も感じ取れなかった。
 これ以上はコアに入れていても収穫はなさそうだ。
 早々に断じたテトテトラは、直ぐに魔物をコアから放り出す。ぺいっと。
 ……支えもなく落ちていった魔物の体が、地面で爆ぜるような音を立てたような気がしたが。
 その固体に対してのテトテトラの興味は、既になく。
(そろそろスゥイ来るかな〜)
 落下地点を確認する事もなく、灰と漆黒の機体は、悠々と魔都へと飛び去って行った。

 奥地で何をしていたのやら。
 渓谷伝いに姿を見せたテトテトラの姿に、ダークネスは細い息とともに煙を吐く。周囲では、敵影かと思い一瞬身構えた者達が、肩透かしを食ったような表情で、再びに構えを解いていた。
 何か用事があるのか、テトテトラは綻び始めたバリケードには構わずに、砦とその上空に待機するダークネスらの更に上を越えて、街の方へと飛んで行く。
「あの壁も限界だな。また忙しくなるぜ」
 ちびて火の消えた煙草を咥えたまま、ダークネスは発破でも掛けるように、地上は防護門の前で臨戦態勢を取る者達や、共に周囲に浮んでいる者達へと、声を掛ける。
「焦らず行けよ。どうせ、つっかえたのが沢山居る。止めなんざ差し放題だ」
 ……空腹と疲労と焦りは、人の心から余裕を奪う。
 では、その反対であれば?
 バリケードによって得られた、束の間の休息。
 それは、余りの緊張と疲弊に必要以上に尖っていた騎士らの心を、思った以上に解き解した。
 倒してしまえば、どうせ同じ。そもそも、一体に止めを刺すよりも、内輪揉めで仕留め損なう方が、よっぽど格好悪いんじゃないか。誰が倒すかなんて、大した問題じゃない。倒せなかった時の方が、大問題になる。
 お決まりの咥え煙草で、世間話でもするようにごちたダークネスのそれは、少しとはいえ冷静さを取り戻した騎士には、耳の痛い話であったようで。
 現在の至上命題は、人々と都市を護り、人々の不安を取り除くこと。魔物狩りであろうと、騎士であろうと、必要ならば支援に回り、時に取りこぼしを仕留めと、できることあらば拘らず行動をしていた彼のほうが、よっぽど騎士らしいではないかと、恥じ入る者もあった。もっとも、これは彼自体が細かいことに拘らない性分だからなのだが……
 兎角、束の間の休息は、上手い具合に騎士らの本分を刺激することになったようで。砦周辺が殺気立っているのは相変わらずだったが、今までよりは断然、連帯の取れた行動が取れそうな雰囲気が出来上がっていた。
 壁の向こうから聞こえる、複数の雄叫び。
 崩れ、ひび割れてた隙間に覗く、異形の鈎爪――
「――来るぞ」
 反射に翳る眼鏡の裏で、鋭く細まるダークネスの漆黒の瞳。
 刺し貫くような眼差しが、壁を突き破りまろび出る異形の姿を、瞬きもせずに捉えていた。

 スフィラストゥールの街中。
 ぶらり途中下車したあとのアンノウンは、音階も適当な歌を口ずさみながら、瓦礫がなくなり見通しの良くなった巨大な砂利道を適当に歩いていた。
 やはり、直接被害にあった場所ともなると、暗い雰囲気が付きまとう。住居を失い、魔物から護ってくれる障壁が消え、更にはその魔物を呼び寄せる双子星がこんな時に限って街の上をうろちょろしている。
 厳しい現実の上に不安を上塗りして、恐怖感を追加オーダー。セットに諦観もつけちゃう。
 やんぬるかな定食一丁あがり。
「お? 俺、今、上手い事言ったんじゃねえ?」
 すっげえブラックだけど。
 もっとも、彼の中では、それをちゃぶ台返しして、『このやんぬるかなを作ったのは誰だっ!』するところまででワンセットだが。
 何にせよ、守護塔が直るか、直るぞという話が聞こえるだけでも、市井の皆さんのテンションは段違いのはずだ。
 しかし、アウィス達の用事というのは何なのだろう。
「結構経っちまってんなあ」
 見上げた空に輝く太陽は随分と位置を変え、まだまだ東のほうにあると思っていた噂の双子星が、都市の上に差し掛かるか否かというところにまで迫っている。
 こんなに時間があるんなら、他に何かもう一つくらい、愛する知的生命体達のために、一肌脱いだり着たりアイロンかけたりしても良かったな。
「あいつまた丁度よく飛んで来ねえか」
 ごちながら、ひょろぺらな細身の身体を反らせて、天を仰ぎ見るアンノウン。
 そのまま勢いに任せてブリッジしたり。
 かと思えば前屈して、ぼろぼろのジーンズの股下から逆様に……
「あ。居た」

 ――崩壊した塔の回りに集まった者達が、首が痛くなりそうな角度でスゥイの巨躯を見上げている。
『なるほど、準備運動って感じだな』
「どちらかというと、採用試験ですね」
 乗り込んだコア内で、交わされる会話。
 その隣……スゥイが有するもう一つのコアの中には、職人魔術師が搭乗していた。同僚らに祭り上げられて成り行きで乗る羽目になってしまったらしく、とても不安そうである。
『早く済ませて魔都の応援に行くぜ。二人共、準備はいいか?』
 途端に、スゥイの装甲先端、やや細長くなっている外装が、音を立てて掻き開く。
 今まではどちらかというと流線型に近かったスゥイのシルエットが、Eの字に近い形にまで姿を変える。
 更には、後部装甲までもが羽根のように開き、格納されていた六基のサブアームがまろび出る。
 『初見殺し』と名高いスゥイの戦闘形態。
 中央一点、前方装甲内部から露出した武装――主砲たるイオンスフィア砲が、紫色の光を貯える。
 薄い灰色の世界に包まれた中、アウィスが、職人が呪文を唱える度、砲の先端に集まる光が輝きを増し、大きく大きく膨れ上がっていく。
 がしり、と。スゥイの振るった巨大な六基の腕が、回りに散らばっていた塔の残骸を掻き集め、砂でも固めるようにぎゅっと一点に押し付ける。
『今だ相棒!』
 刹那、完成した二つの魔術が、巨大な球形の光と共に解き放たれた。
 紫色の太陽さながらに輝く光体が、押し固められた塔の瓦礫を飲み込み、覆い隠していく。
 通常のレーザーに比べても、光弾の弾速は格段に遅い。
 だが、それを差し引いても。
 塔の袂で夢でも視るように光を仰ぐ作業員や職人魔術師、遠く街中から茫然と見つめる市民、コアの中で祈るように両の手を握るアウィス、二つの灰色に映り込んだ光を見守るスゥイ。
 皆が皆、一様に。光が放たれ消えるまでの十数秒を、こんなに長く感じたことはない。
 そして、紫の光が拡散して薄れ消えて行った跡には、大魔導師の名に恥じぬ威厳ある佇まいの守護塔が、堂々と聳え立っていた。

 『報酬』として職人一人を借り受けたアウィスとスゥイは、一路、スフィラストゥールへと舵を取る。
 ツァルベルの守護塔は、外観だけなら三棟全部修復できた。
 ただ、やはり内部機構の完全修復には魔鋼が足りないらしく、三本分の魔鋼残骸の寄せ集めに、魔術院の保有分を吐き出して漸く、一本が稼動可能な状態に戻っただけだった。
 それでも、修復の為の工期が大幅に短縮できたのは間違いない。想像以上の成果であった事は、誰も口を挟む余地がなく。二人は無事に、人手を借り受けることができた。
 なお、魔術院の指示で、職人はそのまま乗りっぱなしで一緒に魔都へ向かっている……本当に拉致したみたいになっているなと、事務所を出る前にシャルロルテと交わした会話を思い出す。
 数分と経たず見えてくる、扇形の都市圏。
 いつの間にかなくなっている瓦礫は、テトテトラが片付けたのだろうか。
 ……いや、それよりも。
「……あの」
『どうした、相棒』
「守護塔が、二つ見えるのですけれど」
 灰色のコア越し、外の景色を見ていたアウィスが、おもむろに眼鏡を外す。
 眉間を指先で軽く揉み解してから、眼鏡を掛け直し……再び外を見遣る。
 だが、結果は同じだったらしく、アウィスの眼差しには益々困惑の色が。
「私、疲れているんでしょうか」
 何しろ、外観だけとはいえ、かの守護塔を三本も修復したのだ。疲労が溜まっていてもおかしくない。
 しかし、スゥイは。
『大丈夫だ』
 冗談の気配など微塵も感じさせぬ語調で、はっきりと答えた。
『オレも二本見える』

第六節
 薄っすら色づく景色が、目視できないほどの速度で後ろへと流れていく。
「何、なんやのこれ、ちょっとこれなんもみえへん! どないなってるん!? すごいなぁ!」
 怖がっているんだか、喜んでいるんだか。試乗させて貰った機体の中で、大興奮している吠。
 暫く滞在地付近を飛び回ったり、空に向かって光線を発射してみたりと、楽しみながら搭乗の感覚を掴んでいく。気紛れに成層圏まで上がって見れば、青いはずの空は真っ黒に染まる。地上から見た夜のような、薄ぼんやりとした黒ではなく、一片の濁りもない暗黒。
「これが星の外……宇宙かぁ。ここって、泳げるん?」
 そんな会話を交わしながらの試乗会。
 静止した折に周囲を見てみると、沙魅仙が乗っているらしい機体が……なんだろう、あの動き。
「ロードはん、いつもあの調子やしね。へそ曲げる機体はんもおりそうやぁ」
 今の内緒ね♪ と、一本立てた指を口元に、ぱっちりとした青い瞳を片方閉じて見せる。
 やがて、コアの外に出ると、乗せてくれた機体に手を振って礼を言い、吠はまたきょろきょろしながら歩き出す。
 浮いていたり、降りていたり。
 動いていたり、止まっていたり。
 音がしたり、静かだったり。
 滞在地東側の空き地に待機する、色々な機動生命体。当分はここに留まって、色んな機体に乗せてもらおう。習うより慣れろの心意気。
 ……と、そんな折。
「……ん」
 ふと、他とは明らかに雰囲気の違う機体が目に付いて、吠は足を止めた。
 よくよく見れば、機体の一部に、反対側が見通せるくらいの大きな穴が空いている。
「この機体はん、なんか寂しそうやね?」
 お腹空いてるんかなと、近づいてみる吠。
 しかし、他の機体であれば、近づいて話しかければ何かしらの反応を示すか、意思疎通ができるように直ぐにコアの中に招いてくれるのだが。その機体は置物のように動く気配もなく、ただただその場に佇んでいる。
 それに、他の機体のコアはどれも、磨かれた宝石のように艶やかな半透明をしているのに、この機体のコアには、全くと言っていいほど透明感がない。金属の板で蓋をしているのだろうか?
 しかし、これではまるで……殻の中に閉じ篭ってるかのような。
「……あたしやったら、元気ない時はご飯食べるか、歌うかするやん?」
 彼らには、何が効くのだろう。
 手を触れることが出来る位にまで近づくと、吠は動かない機体の傍に、寄り添うように腰掛ける。
 俄に、聴こえ始める鼻歌。
 慰めるような、包みこむような。
 緩慢に漂う優しげな響きが、乾いた風と共に、辺りに染み渡っていく。

 そんな気になる出会いがある一方、再会を喜ぶ者達も。
 深緑の宝珠の内側、浮遊感と一緒にるりを包み込むのは……ほんのりと柔らかい、感謝の気持ち。
『協力もりもり、いっぱいありがとうね!』
「とんでもないです!」
 改めて先日のお礼を伝える大長老に、思わず綻ぶるりの表情。ああ、やっぱり、この雰囲気がとても素敵だ。
 ちなみに、現在の大長老感情は、『ハイパー感謝』である。
 そんな、ハイパーでもほんのりな大長老の感情。でも、今日は。ハイパー出力でがんばって、るりに伝えたいことがあった。
 なんでも受け入れるばかりをしているからか、大長老はこういうのは苦手だった。輸送艦ゆえなのか、元々備わっていた性質なのかは、解らないが。
 でも、がんばる。
 ……がんばるんだからね。
『おさといっしょに、これからものりのりしませんか?』
 やはり、ほんのりと。でも確かに。
 大長老は今、すごくがんばって告白しているんだということが、伝わってくる。
 正直、るりにはパートナーとかは、よく解らない。参戦希望も、パートナーを探すというより、力を合わせて戦いたいという意思表示の意味合いのほうが大きかった。
 でも、もっと大長老と仲良くなれたら。そう思う気持ちのほうが、もっと大きかったから。
「いいですよ」
 るりはいつものにこにこ顔で、そう答えた。
『やったね!』
 途端にコアの中に広がる、なんかいいよね。
 勿論、今日のなんかいいよねは、ハイパーなんかいいよねだ!
『おさはむつかしいこと苦手だけど、おにもついっぱい運ぶのは得意だから、もりもりいっしょにがんばるよ!』
「私もまだまだ、知らない事が沢山あるんです。おささんや、仲間のみなさんのことも、もりもり教えてくださいね」
『うん。いっしょににいっぱい、もりもりしようね!』
 のりのりできるようになるとね、いつでもお話できるんだよ。どんなに遠くにいても、るりさんの声は、おさにちゃんと届くからね。お話もいっぱいしようね。
 そんな優しい言葉と一緒に、温かく柔らかい『なんかいいよね』が、コアの中をずっと満たしていた。

 その頃、沙魅仙はとある機体のコアの中で、目を回していた。
 本来ならば、コアの中は重力からも慣性からも保護されている筈なのだが……どうやら、地味に吠の予想が的中、荒治療を受ける羽目になったらしい。
『然もありなん』
 ぐるぐるする意識の中に響く、低く落ち着いた声。
『高貴を称するなら尚の事、礼節は重んじるべきではないかな?』
「うぐ……貴公の言う通りである……」
 ロードたるもの、寛容な心も大切な資質の一つだ。
 沙魅仙はめまいが治まるのを待って姿勢を正すと、迷う事無く頭を下げた。
「すまなかった。この通りだ」
 そして、上下のない世界で、水面のように揺れるマントを翻す。
「改めて問おう、貴公の名前を教えてくれ」
『オペレートアーム。正しくは、形状名だがね』
 人類が言う意味での名はないと、その機体は言った。
『小回りは利くが、輸送には適さぬよ。承知の上ですかな?』
「友となる者に、多くを求める必要などあろうか」
『中々おっしゃいますな』
 表情など、あるはずもない機械。
 けれど確かに、その声は楽しげに笑っていた。

 不意に、開け放しの宿舎から出てくる、黒髪の長身。
 ずっと事務所に篭りきりだったシャルロルテが、あたりを見回して……たぶん、適当に目に付いたからなのだろうが、大長老のほうへとつかつか歩み寄ってくる。
 その手には、砕き割られたうちで、二番目に大きい魔鋼の欠片が。
「今日一日、これコアに入れて過ごしてくれるかい?」
(おにもつ入れるところじゃないんだね。わかったんだよ)
 三つあるから一つくらい塞がっても平気だろう。そんな安直な考えだったりはするが、大長老も割と何でも受け入れるので、特に滞る事もなく交渉成立。
 そんな大長老は、これから荷物運びに飛び発つところだった。艦内には、沙魅仙とそのパートナーが格納されている。
 目的地は、山岳都市ダスラン。ロードナイツセブンが目指す、次なる行動目標……ツァルベルとの交渉に備えて、魔鋼輸送の手配を先に済ませてしまう為だ。
 貴志でもあるるりの手助けにもなるし、魔鋼のことが気になっている大長老にとっても、魔鋼に関わるおにもつ運びは渡りに船。それに、産出地であるダスランなら、魔鋼にまつわる情報も集められるかも知れないし、とってもおとくな感じなのだ。
 惑星ティーリアでは、魔鋼は道具に加工して使うのが主流らしいと聞いている。ダスランで取れた魔鋼を持って行く予定の、ツァルベルという都市は、魔鋼を道具に加工するのが上手な人が沢山居るという。
(シャルさんにも魔鋼のおみやげできたら、なんかいいよね)
 浮き上がっていくすごくまるい機体を見送るシャルロルテ。さて、事務所に戻るかと、踵を返したところで。動かない機体に寄り添って歌う人影が、銀の瞳に映る。
「君は行かなくていいのかい?」
「ん、相性調べと練習兼ねて、暫くこっちにおる予定」
 それよりも、この動かない機体はどうしたのかと、吠は首を傾げる。
「片方、壊れてるだろ。そこに相方が乗ってたんだよ」
「え、ほんなら……」
「どうせもう動かないよ。他の探すんだね」
 唐突に。シャルロルテは不機嫌そうに言い捨てると、そっぽでも向くように踵を返した。そのまま振り返りもせずに、事務所の中へと姿を消してしまう。
 詳しいことは解らない。ただ、動かないこの機体が、かつて誰かと悲しい別れをしたのだということは、直ぐに理解できた。
 吠は改めて、寄り添う機体を見遣る。
 自分は元々、一人きりだ。広い海の中に、一人。だから、特定の誰かとの大きな別れというのは、良くは判らない。でも。
「一人で泳いでる時でも、耳を澄ましたら色んな音が聞こえてくるんよね。結構賑やかで……」
 だから、寂しくないんよ。
 今はまだ、その気持ちは届かないだろう。
 でもいつか、この閉ざされた宝珠の中に、届けられたら。
 そんな思いを胸に、吠はまた、鼻歌を響かせる。

 ――双子星が、渓谷へと迫っている。
 緊張感の高まる防護門周辺。
 だが、それ以上に、街中も騒然としていた。
 瓦礫のなくなった空き地に、突如、姿を現した第二の守護塔。
(そっくりに出来たよ〜)
 持っていた魔鋼を、とりあえずそれっぽい所にサブアームでぎゅぎゅっと詰めて、蓋をするテトテトラ。塔の上層部壁面に作られたこの蓋は、開閉できる扉状になっていて、今入れた魔鋼が必要になってもいつでも取り出せる優れものだ。
 ……という光景を目の当たりにして、珍しく困惑しているアウィス。
「これは……?」
(名無しが乗ってたからすぐ出来たよ)
(たぶん、そういう意味じゃないとおもうぜ)
 だが、事実、この塔は数十分程度で出来上がってしまったらしい。
 アンノウン自身は余り頭のいいほうではない。その背にあるギターの弾き方すら忘れてしまう程に。だから彼自身、なんでそうなるのかは理解していない。それでも、生まれ育った文明で培われ、意識しない部分に確かに染み込んだ感覚が、『なんとなく』でも機動生命体の武装の威力を上昇させるのだ。
 なお、威力上昇したサブアームの想像を絶する作業効率に対してアンノウンは、嘘だか本当だか解らない適当な調子で。
「愛があればメカもパワー出るんだよ。愛の力だよ」
 ……このところ、毎日聞いていたからだろうか。
 シャルロルテの「バカじゃないの?」が、アウィスの脳裏に自動再生される。
 斯様な次第で、一夜どころでない速度で街中に現れた守護塔もどき。無論、それを目にした人々の視線は、困惑に彩られている。
 しかし、人々が向けるのは、戸惑いばかりではなかった。
 たった数刻で生まれた、新しい守護塔。実際は外側を似せただけのハリボテに等しい代物だが、寸分違わぬその容姿のせいで、人々の目には『二本目の新しい守護塔』として映る。
 もしかしたら、これが稼動して街を護ってくれるんじゃないか。
 もしかしたら、東の塔ももうすぐ直るんじゃないか。
 もしかしたら。もしかしたら……
 困惑に混じる希望。
 騒ぎを聞いて駆けつけた人々の中に、馴染みの八百屋のあのおっさんがいる。
 偽塔を作った後に、テトテトラのコアから出てきたのを見ていたのだろうか。やるじゃないかと、丸太のような腕で肩を叩かれ、アンノウンの細い身体が盛大によろめく。
 それを気にする事もなく、彼もまたおっさんをばしばし。だが、威力不足か、おっさんは揺れなかった。
 それにしても、両方が近い位置にあると、少し紛らわしい。何かいい呼称はないか、などと雑談を始める人々。
「『ふがしのとう』とかでいいんじゃねえ? 中身スカスカだしよ」
 あっちが『ひがしのとう』だけに。
 冗談なのか本気なのか、相変わらずさっぱり解らない様子のアンノウンに、たまらず突っ込みをいれてくるおばさんと、その遣り取りを見て起きる笑い。
 不安も安心も、目には見えぬもの。だが、そういった感情の波は、確実に伝播してゆく。
 人々の間にじわりと広がっていく感情。引き換えにして、遂に危険な軌道を取り始めた頭上の巨星に、アウィスの表情が強張る。
 ……この安堵感を、まやかしで終わらせては、いけない。

第七節

 音もなく頭上に翳る、暗色の巨星。
 沸々と湧き上がってくるこの高揚感は、高まる魔力のせいなのか、群れ押し寄せる魔物への戦慄か。
 その巨星の姿すら、覆い隠してしまう巨躯。
 砦の上空に現れた赤いラインの機影の下で、ダークネスは漆黒の翼を羽ばたく。
「また会ったな」
 白い塗装部に紛れ、一見ではわかり辛い、灰色のコア。
 薄っすらと映りこむ己の姿と……その向こうに微かに見える人影を見つめて、ダークネスは手にした槍を、軽く翻す。
「頼りにしてるぜ」
 告げられた言葉に応じるように、ぼっ、と音を立て、一瞬だけ炎を噴く噴気孔。
 その音に、コアの中に居たアウィスが、軽く後方を振り向く。
『怖くないか?』
 大丈夫だ、オレが付いてる。意識に直接届く頼もしい声に、アウィスは無言で頷く。
 そんなスゥイのツートンカラーの装甲より更に上空に、彼に賛同し集まった辺境の荒くれ者達……を乗せた、機体がいくつか浮んでいた。相乗りも多く、数はさほどではないが……
(初陣は魔物相手だが……オレと相棒、オマエ達でどれくらいの力があるか試すには、絶好の機会だろう)
 僚機らを介して、コア内に搭乗している荒くれ者達へ精神感応で呼びかける。
(ココで怯えてる人々にも、オマエ達の度胸を見せてやれ!)
 平たい面を地に向け横倒しに浮んでいたスゥイの機体が、垂直方向へ直角に起き上がる。
 同時に、あらくれーずを乗せた機体が、渓谷の最前列へと思い思いに布陣していく。
 地上に既に布陣していた騎士や魔物狩りも、防護門を背に臨戦態勢を取った。
 ……出撃前、大長老から、ダスランでの採掘支援のお礼に魔鋼を幾らか貰えることになったと、連絡があった。パートナーが魔都で活動している事もあり、戦いが始まったら荷物と一緒にこちらへやってくるとも。
 スゥイらがツァルベルから連れて来た職人は、『東の塔』付近に待機して、十分量の魔鋼が手配されるのを待っている。
 巨大な星が、砦を跨ぎ、渓谷の真上へと差し掛かる。
 嵐の前の静けさか。
 疎らでも、さほど間をおかずに続いていた魔物の侵攻が、ぱたりと途切れた。
 ――この嫌な空気には、覚えがある。
「他に頼りすぎるなよ」
 奇妙な静寂。必要以上に力んでいた者達へ、ダークネスから届く声。
 ……直後に。
 敵襲を告げる警鐘が、砦の上で打ち鳴らされた。

 砦付近に響き渡る、鋭い鐘の音。
 それは、万が一の事態に備えての、避難指示信号。
 万一。それを防ぐのが騎士団の責務ではあるが……様々に重なった不測の事態を前にすれば、安全策は幾つとっても足りる気がしないものだ。
 るりは即座に、避難を開始する人々の誘導を開始した。足を挫いた人が居れば駆け寄り、迷子が居れば手を引き、目指すは一路、砂利の大通りの末端、『ふがしのとう』。
 今の所目印以外の効果はないが、それで十分だった。もう少しすれば、大長老が来てくれる。人々を導く『避難所』としてるりが思いついたのは、オリーブグリーンの無敵装甲に護られた大長老の『おにもつスペース』、つまり艦内なのだ。
 避難は順調、街側から砦への伝令に、騎士らの表情が更に引き締まる。
 渓谷を、重苦しい足音で駆け抜けてくる、複数の敵影。
 壁のように布陣し、堰きとめようと動き出す地上部隊。その動きを逐次確認しながら、ダークネスはぶつかる前線の上空を注視する。
「上からも来るぜ。気を抜くなよ」
 羽ばたきが聞こえ、砦の上に展開していた空中戦力が前進していく。
 ダークネスも戦線に合わせて前進しながら、しかし、率先して前には出ず。俯瞰位置で全体の戦況を見渡し……
 空中の包囲の隙間を、浮遊する落下傘のようなものが、不気味にすり抜けた。
 迎撃に回り込んだ人外の騎士が、何故か近づくことが出来ずに地上へ落ちていく。すかさずに、滑空でその身を浚い、振り向けば、放たれた炎や氷の矢が、落下傘の周囲で爆ぜ消えている。
 落下傘は等速で、不気味に侵攻を続ける。
 追従するように、あとからあとから高速で迫り来る異形。
 だが、後続が包囲の穴へ辿り着くより早く。落下傘の傘部分が、唐突にぐしゃりと押し潰された。
 耳のいい者や、低音域での会話に適性のある人外の徒であれば、その低く重厚な空気の波が、ダークネスの喉から発せられたのだと気付くことができただろう。
 無音の咆吼。丸めた紙のようにぐしゃぐしゃに潰れた異形は、体液を撒き散らしながら地上へと落ちていく。
 術を弾く障壁すら打ち破るその威力を生み出すには、相応の負担が掛かるのだろう。ダークネスはむせたように軽く咳払いを一つすると、再び俯瞰位置へと漆黒の翼を羽ばたく。
「余所見してる暇はないぜ、もう次のお客さんだ」
 弾丸のように、飛翔する敵影。
 小さすぎる的は、機動生命体が相手をするには適さない。範囲型の攻撃であれば、範囲にさえは入っていれば当たる訳だが……それはつまり、そこに居る味方にも被害が及ぶということ。
 馴れるには実戦あるのみ、手透きの駆逐艦と共に馳せ参じた吠は、まさにその的の小さな敵に翻弄されていた。
「や、これ、どこ狙ったらええん!?」
 小回りが利くといっても、戦艦に比べればという話。忙しなく動き回る敵だけを的確に射抜くのは、飛びまわる蚊を倒す時のような、絶妙な難しさがあった。
 前衛のほうでは、体躯を生かして通せんぼし、敵の進行ルートの限定を試みている機体もあるが……数百mを越す巨躯も形は様々で、人と同程度の大きさならば難なく抜けられる箇所もある。
「あの隙間、気をつけろよ。さっき通り抜けてるのがいたぜ」
 上空からの観察で気付いたことは、即座に伝達、情報の共有による勝率の上昇を図る。
 しかし、加速度的に増え始めた敵影と、比例して加速し始める負傷と疲労。反応が鈍り、各所で崩れ始める連携。
 ……その時。
 戦場上空から響く、駆動音。
 大きく掻き開いた白黒二色の巨影が、剥き出したレーザー砲に、紫色の光を点した。
『その力に期待してるぜ。頼むぜ相棒』
「はい」
 力強く頷き、アウィスは詠唱を開始する。
 猛る獣の叫び、傷つく者の悲鳴、士気を奮い立たせる仲間の雄叫び。
 墜落に翼を折る人外。膝を折って蹲る魔術師。流れる血に視界を失い、それでも、仲間のために最後の盾としてその身を魔物の前に曝す騎士。
 数年前は、皆、還ってこなかった。
 今日は、選ばない。
 全員、生還させる!
『いくぜ、必殺』
 言いながら、スゥイは大きく掻き開いた前方を、眼下、地上の方向へと向ける。
『……違うな、殺じゃ倒すほうだ』
 そんな逡巡の一拍を置いて。
 スゥイが地上へ向けた二門のレーザーが、まるで機関砲のように光を放った。
 戦場に降り注ぐ、紫色の雨。
 アウィスの術を貯えた光の雨は、眼下に居る全ての騎士と、全ての魔物狩りを包む。
 傷口は瞬く間に塞がり、失血は再生し体内を巡り、盛り上がり活性化した組織が、失った肢体を甦らせんと奮闘を開始する。
 駆動音を響かせ、スゥイは開いていた装甲を閉じると、何処か得意げに。
『必生・生命の雨。なんてな』
 オレの相棒を、二度と死神なんて呼ばせやしない。

 渓谷での激戦の喧騒が、固唾を呑む人々に微かに届く。
 双子星が海へ抜けるまで、あと数刻。
 じわじわと西へ進む黒とは別に、東の空に、オリーブグリーンのすごくまるい機影。
(もしもし、おさが魔鋼をお届けにきましたよ)
 魔都上空に辿り着いた大長老は、ゆっくりと、目印になっているらしい『ふがしのとう』へと降りてゆく。
 着地と同時に開く、まあるいハッチ。するすると降りてきたタラップを伝い、中への避難を促するり。その真上を、魔鋼の運び出しのために、テトテトラが往復している。
 ……あれは、それぞれの仕事をする為に、滞在地で一度分かれた時。
 荷台に揺られて魔都まで戻る間、遠くダスランへと向かう大長老と、交わした会話……

『うちの昔の同乗者は、何十年か前に故郷で『てんじゅまっとう』したんだって』
 人はそれをすると、とおいとおいどこかの星になれるのだと、大長老は聞いたという。
 姿も声もなくなって、触ったりもできなくなってしまうけれど、故郷を照らす光になって、ほかのこたちの『いのち』を育ててくれるのだと。
 その折に、『人ってすごいよね!』と言っていたのが、るりにはなんだかとても印象に残った。
『宇宙にはまだまだいっぱい、うちらの知らないことがあるんだよね』
 いっしょにそういうのを、たくさん探していけたらいいな――

 機動生命体は、決して危険な存在ではない。
 そのことを、もっと人々に知って貰いたい。
「大丈夫、テトラさんは精密な作業が得意なので、ぶつかったりしません」
 拳を握って力説する頭上、テトテトラはせっせと魔鋼を運び出す。
 運び出して……
 ……ふがしにつめる。
(沢山あるね〜)
 そのテトテトラのコアの中には、ツァルベルから連れて来られた職人が乗り込んで――

 ――黒い星が、西の空に差し掛かる。
 未だ勢いの衰えない魔物の侵攻。
 二足歩行する巨大な爬虫類の怪物が地響きを鳴らし、別の魔物を相手に戦線で団子状になって魔物狩りの中へと、突っ込んでいく。
 力任せに蹴散らされる。
 ……その一歩前で。
 魔物の足元が、ひび割れ、陥没した。
 振動する見えざる衝撃が、幾重にもなって地を揺るがし、砕け液状化した地面へと片足を飲み込まれる魔物。
 直後、固まっていた魔物狩りらが、一斉に散会する。入れ違うように、騎士がバランスを崩す敵を包囲、背面から一斉攻撃を仕掛けた。
 向かい風に混じる死臭。上空に静止して、ダークネスはこれでまた何度目か、息を整え、身構える。
 度重なる咆吼の行使に、喉から鳩尾にかけて生まれる、何かがつっかえたような違和感。
 警告を発しようにも、いよいよ潰れた喉から声が出ない。
 だから、彼は吼えた。無音のままに。
 振動する空気が織り成す不可視の壁に、全速力で飛行していた物体が空中でぱぁんと弾け、元の形がなんであったのか知られる事もなく、潰えていった。
 だが、一方で。
 違和感は鈍い痛みに変わり、次第に内側が熱を帯びて、焼けつくような感触を生む。むせ返りそうになるのを無理矢理押さえ息を止めれば、血潮が脈動する感触が妙にくっきりと感じられた。それから数秒遅れて、口の中に広がる、鉄の味。
 その体を、空から降る紫の雨が貫いてゆく。
 途端に、薄れていく痛み。
 違和感こそ残ったが……上の奴も、エネルギーが残り少ないのだろう。これだけの人数の回復をほぼ一機で賄っているのだ、無理もない。
 礼は後回し、ダークネスは視線を向ける事もせず、上空の機影に片手を軽く掲げるに止め、前方の景色に集中する。
 上空では、そんな彼の小さな挙動を認めつつ……スゥイが後部の駆動部を開き、サブアームを二基ほど準備し始める。
『残量がまずいな。途中で主砲使いすぎたか』
「主砲は使えますか?」
『一回だな。二回には足りない』
 レーザーの小回復で庇いきれない疲労や負傷を抱えている者も、そろそろ増えてきているはず。ここで一度、主砲による大規模な回復で、体勢を立て直したい。
 渓谷の向こう、左右に聳える山に徐々に隠れ始めた巨星を見やり……決めた。
「使いましょう」
『信じるぜ、相棒』
 幾度目だろうか。深い渓谷に響き渡る、駆動音。
 剥き出しになった砲が、紫の光を――
 ――その刹那。
 後方、砦よりも更に後ろ、魔都の方向から、強い魔力が迸った。
 機動生命体以外、魔力を感知することの出来る地上人は皆一様に、濁流のような強い圧力を感じ、動きを止める。
 そして、皆は見た。
 防護門の前方を薄いヴェールのように包む、魔力の壁を。

 障壁――守護塔の復活に、全員撤退の檄が飛ぶ。
 負傷者から迅速に、障壁の内側へと雪崩れ込む。
 疲労の浅い者は殿を務め、最後まで魔物の体力を削ぎ落とす。
 やがて、騎士も魔物狩りも全部が、障壁の内側への退避を完了させる。
 誤爆の心配のなくなった戦場。吠は漸く役に立てるとばかり、行く手を遮る障壁を力任せに殴りつけている魔物へと、光を解き放つ。
「これでレベル2くらいにはなったかな?」
 通り過ぎた光の跡には。
 消炭になった魔物の残骸だけが、取り残されていた。

 ――魔都スフィラストゥール騎士団、報告書。
 魔物大侵攻に対する、防護門前都市防衛戦、被害状況。

 軽傷・多数。
 重傷・多数。
 死者・なし。

第八節
 日の暮れた魔都の東部。聳える東の塔が、かつてのように光を灯す。
 その隣で、新しく出来上がった同じ形の塔もまた、異なる色の光を灯し、眼下の人々を照らしていた。
 塔の袂からは、沸きあがるように聴こえてくる話声と、笑い声。
 祝賀会と称して集った人々が、騎士も魔物狩りも近所の人もみな入り混じって、好き勝手に飲み食いしていた。
 魔物の大侵攻から街を護りきったことはもちろん、守護塔の復活、死者を出さず敵を退けた偉業、諸々を兼ねての祝宴だ。
 発案はダークネスだったのだが……それを耳にしたアンノウンが、祝賀会をやるらしいという話を行き着けの店のおっさんやおかみさんに話すと、いつの間にか市民主催で会場が出来上がっていたという。何だかんだで、市井の民の底力は侮れない。
 機動生命体は食事の必要がない為、会場付近に浮遊しているだけだったが、それはそれで各自、それなりに楽しんではいる様子だった。なお、労いに装甲を磨いてやるのはどうかという提案が出たときには、酔っているためかかなりの数が磨き隊に参加したが、結局朝まで掛かっても磨ききれなかったらしい。
 そんな機動生命体らに、労いと助力への礼を言おうとして……ダークネスの喉から、音にならなかった言葉が、呼吸と一緒に吐き出される。まだ喉が潰れているらしい。これは当分、会話できそうにないなと、ダークネスは不精髭の生えた顎先を撫でながら、溜息を一つ。まあ、暫くすれば戻るだろう。
 そんな事を考えながら、戦いで一層に乱れた黒い軍服の胸元から、煙草を取り出し一服。
 が、煙を吸い込んだ途端、鳩尾の辺りに痛みが奔って、思わず咽返る。喉から上がって来る生温い感触と、口に広がるあの独特の臭いと味。繰り返される咳に混じる赤いものが、口元を押さえた手に零れる。
 煙にむせただけかと見守っていた者達が、予想外の状況にざわめく。騒ぎに気付き、アウィスが人波の合間から顔を出す。
「傷はどこですか?」
 大丈夫だ、見た目ほど酷いもんじゃない。
 ……と、伝えたかったのだが。案の定、言葉は声にならず、思わず苦笑を返すダークネス。
 それがまた、何かやせ我慢しているように見えてしまったのだろう。アウィスは嘆息交じりに近づくと、そっと組織再生の術を掛けた。
「んぁ、あー。あー……ん。悪いな」
「無理はいけませんよ」
 そんな事を言いながら、アウィスはおもむろに、ダークネスのこめかみの辺りに手を伸ばす。そんなところ、怪我をしていただろうか。煙草を燻らせながら訝しげに瞬きする間にも、術が完了したのか、手を引き戻すアウィス。
 そして、自身の銀縁の細いフレームの眼鏡を、軽く指先で押し上げる。
 ……直されたのは、眼鏡らしい。

 明け方まで続いた、祝賀会。
 果物屋のおっさんも、食堂のおかみさんも、酒場のおっさんも、みんな活力一杯。
 アンノウンは弾けないギターを適当にかき鳴らしながら、本来の役割と姿を取り戻した『東の塔』を見上げる。
 これで、酒場のツケも大体返せたんじゃねえ?

 ――滞在地へと続々戻ってきた集団を、シャルロルテが事務所から見遣る。
 帰って早々、テトテトラはラボ用の空間が欲しいという要望にしたがって、仲介事務所の横に新しく建物を拵えていた。
 そして、なんだか暫く振りな気分で戻ってきたアウィスは、たった数日で謎の道具だらけになっていた事務所の中身に、目を瞬かせて暫く入り口に佇んでいたという。
 程なく、ラボという名の機材置き場が完成すると、事務所はやっと元のこぢんまりとした趣に。
 そして、質はともかく、魔鋼の量だけは、日に日に増えていった。沙魅仙の手伝いでダスランからツァルベルへの魔鋼輸送をする時に、はみだしものや、古い魔具などを、大長老が集めてきてくれたのだ。
「いつの間にか、かなりの保有量になってますね」
「量だけはね。お陰で扱い難いったらないよ。悪かろう安かろうもここまで来ると手に負えないね」
 そんなラボの様子を外から眺める、大小様々な機体。
(テトラさんは、魔鋼で何かすてきなもの作れた?)
(塔作るの手伝ったよ〜)
(そっかあ。コアの外にいるこたちとの意思疎通がちょっと便利になる、すてきアイテムとかって作れないかなあ)
(……っておさが言ってるぜ)
「……だそうなのですけれど」
 大長老からスゥイ、スゥイからアウィス経由で、やっと届く会話。
 シャルロルテは整った面持ちで、妙に冷ややかに溜息を一つ。
「なんでその機能最初から備わってないんだよ。バカじゃないの?」
 その罵声は、誰に対してのものなのか。
 それより、かなり魔鋼について分析を行っていたようだが、シャルロルテ自身は何か収穫があったのだろうか。
 そのことを問いかけようとした時。
「ん、あ、なんや、ちぃいちゃいなぁ! いつからおったん?」
 外から声が聞こえたかと思うと、案の定、吠が事務所へと入ってきた。
 そこまでは、普通だったのだ、が……
 吠の後ろを付いてくる見慣れないものに、アウィスは目を瞬く。
「あの……?」
「ん? ああ、言って無かったね。試作一号機だよ」
「では、なくて、ですね」
 さも当たり前のように言うシャルロルテに、流石のアウィスも困惑を隠しきれない。
 一方、吠は、『それ』を指先でつんつんと小突く。
「ね、これも機体はんなん? 乗れるん?」
「一応ね、ま、乗るのは無理じゃない?」
 何の違和感もなく話しているが。
 そこに居たのは、拳大ほどのとても小さな、機動生命体だった。
 だが、それより。シャルロルテは今、『試作』といわなかったか。
「あの、これは、あなたが?」
「僕以外に誰がいるんだい? バカじゃないの?」
「そうなん!? ほんとに!?」
 吠も改めての発言に思わず反応。シャルロルテは大袈裟だねとでも言いたげに。
「解析結果をみたら、魔力と機動生命体のエネルギーが、同一次元由来みたいだったからね。同調取れないかおさのコアに一日放り込んで試してみたんだよ。そうしたら魔鋼がコアと同質の――」
 ここから先の事は、謎の単語が沢山出てきて、二人共よく覚えていないという。
 ……簡潔に言えば、機動生命体は魔力でレーザーを撃っているということだ。地上人が機動生命体のエネルギーを使って魔術を使うという現象は、機動生命体を一個の『超高純度魔鋼』として扱っているから、という理屈になるらしい。厳密にはもう少し違ってくるようだが、解釈としては大体こんなところだそうだ。
 ただ、魔力を『魔術』という固有の現象に人力だけで変換できる理屈は、まだ良く判らないらしい。
 一方、機動生命体側も、余りに小さい新入りの登場に、好奇心や興味が入り混じった、中々混沌とした状況になっていた。
(オマエ、何時から居たんだ)
(おぼふ。ちいさすぎて気付かなかったんだよ)
(武装着いてないの? 艦種なんだろ〜?)
 だが、生まれたてであるからなのか、同じ機動生命体とも、碌に会話が成り立たない。
(いつ。おまえ。いた。おぼふ。ぶそう。おぼふ。かんしゅ。だろ〜。おぼふ)
 とりあえず、おぼふが気に入ったようである。


文末
次回行動指針
 1.探検する
 2.情報収集と整理
 3.出会いを求める
 4.未来に備える
 5.魔鋼が気になりすぎる
 6.他にやりたい事がある

登場NPC
■カニスチャン/人外の徒(かに)/男/ロードナイツセブン構成員。執事らしい。
■フリド=メリクリア/駆逐艦/無性/心がひきこもり。
■オペレートアーム/工作艦/無性/おじいちゃん。
■試作一号/人口艦/無性/無敵装甲ではない。

マスターコメント
 先ずは公開が遅れてしまったことをお詫びします。申し訳ありません。

 各自かなり好き勝手に動かしてしまった感が否めないのですが、何か有りましたら遠慮なく。
 沙魅仙さんの人員貸し借り案は各地への移動や広報活動分の速度差で惜しくも。
 ロードナイツセブンはまだ20人に届くかどうかといったところでしょうか。現在はダスランからツァルベルへの大規模魔鋼運搬を引き受けています。
 魔鋼の解析は、今回の終了時でやっと完了したところ、という感じです。シャルロルテさんは技術専門職ではないので、本職よりは時間が掛かると看做しました。おはなし装置は、彼が本気を出せばきっと……
 ふがしは正式名称募集中です。

 次回でβシナリオは最終回となります。地上偏最終回。
 今度こそは前日提出を目指して頑張ります。
 それでは、次回もお会いできますことを。